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レインベル領と新たな世界

81 サティア・ラ・メイズ 宝箱は共謀する

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「おぉ、トシゾウ殿、シオン殿、よくいらっしゃいました。歓迎しますぞ」

 王城の待合室で待つことしばし、宰相のダストンが入ってきた。
 いつも顔を見せる爺さんだ。ちゃんと仕事をしているのだろうか。

「うむ。式にはまだ時間があるということだが」

「はい、論功行賞までの間に、いくつか打ち合わせをせねばなりませんからの。面倒をおかけしますが、なるべく我々の慣例に合わせて頂ければ幸いですじゃ」

「冒険者ギルドは人間の組織だからな。その存在を認めさせ支援を得るためには、ある程度の手順を踏む必要があることは理解している」

「さすがはトシゾウ殿ですの。ワシも職業柄“知恵ある魔物”についての知識は持っておりますが、かつてこれほど人族に理解がある魔物はいなかったでしょう」

「そうか。ところでダストン、追加で認めてほしいことがあるのだが。それと先ほどおもしろい話を耳にしてな」

「なんでしょう」

「実は―――」

「なんと!それならば―――」

 俺とダストンは論功行賞の打ち合わせを進める。

 表向きには、冒険者ギルドとして白竜を討伐したことが俺たちの功績となる。

 60レベル相当、邪神の欠片の討伐はその存在ごと伏せてある。
 広めるのはデメリットが大きすぎるからだ。

 40レベル相当の白竜ですら人族を滅ぼしかねない。
 白竜の討伐だけでも功績としては充分以上だ。

 俺が求めるのは、冒険者ギルドの表彰とその存在の支援。
 さらに俺がレインベル領の領主となることを認めることだ。

 俺は魔物だ。
 人族至上主義者は人族以外の存在を嫌悪している。
 魔物の組織を認め、しかも貴族として迎えるなど認めるはずがない。

 人族至上主義者はそれなりの勢力を持っている。
 王やダストンたちにとっても国をまとめるうえで無視できない存在だ。

 今回の件で下手をすれば、ダストンら王派閥と、有力な貴族を中心とした人族至上主義者の貴族派との亀裂を決定的にしてしまいかねない。

 だがダストンは胃を押さえながらも俺の提案を飲んだ。英断だ。

 ダストンに胃薬代わりのエリクサーを渡し、俺も協力への対価としていくつかの要求を受け入れる。

 ボロ雑巾をボロ雑巾にした時から、ダストンとは協力関係にある。
 ダストンは人族のために、俺は自分の目的のために互いを利用する。対等な取引だ。

 シオンは俺とダストンの会話を熱心に聞いていた。

 勉強のつもりだろうか。
 俺の斜め後ろに控えつつ、頷いたり首を傾げたり、耳をピコピコしたりと忙しい。かわいい。

 いずれはシオンに交渉をさせてみるのも良いかもしれないな。



「やぁトシゾウ、シオン、いらっしゃい」

 ダストンとの打ち合わせがひと段落したころ、待合室に一人の人物が入ってきた。

 ノックもせずに入ってきたのは、淡い金緑の髪と瞳を持つ少女だ。

「うむ。姫か。相変わらず元気だな」

「こんにちは、サティさん」

「うんうん、シオンは良い子だね。それに比べてその主人は…。ボクにはサティア・ラ・メイズっていう名前があるんだよ。いいかげん覚えてよね」

 サティアが頬を膨らませる。コロコロと表情豊かな少女だ。
 茶目っ気のある性格と相まって、中性的、ボーイッシュな印象を受ける。
 大人しくしていれば深層の令嬢で通じそうな透き通った容姿をしているのだが。

「サティアは残念だな」

「残念!?残念って何、どういうこと!?」

「姫様、そういうところが残念だと言われているのですぞ。姫様は優秀で民からの人望も厚いのです。さらに今はアズレイ王子が失脚したため、今は次期女王なのです。あとはもう少し姫とのしての自覚を持ってですな…」

「もう、じいは説教臭いんだから。ちゃんと外ではお姫様してるんだからいいじゃない」

「それはそうですがの…」

 待合室がにわかに騒がしくなる。

 人族の姫という立場でありながら、サティアは天真爛漫で、誰とでも気軽に接する。

 いわゆるおてんば姫だ。
 その親しみやすさとフットワークの軽さから、彼女のことを慕う者は多いらしい。

 俺たちは新たにサティアを加え、打ち合わせを続ける。
 サティアは論功行賞に褒美を与える王族として出席するらしい。

「そういうわけで、お父さんは寝たきりだから、今日はボクが王族として表彰をするんだ。トシゾウもちゃんと協力してよね」

「協力か」

「そう。協力だよ」

「具体的には?」

「うっとうしい連中に王家の立場を示そうと思ってね」

 サティアは自然に笑う。おもしろい女だ。
 彼女は無邪気ゆえの容赦のなさも併せ持っている。

 そして優秀でもある。

 スタンピードの時もラザロを連れて冒険者ギルドに訪れ、トシゾウへの協力を申し出た。
 俺は人族の姫事情に詳しいわけではないが、普通の姫は自らスタンピードの中に飛び込んだりはしないだろう。

 サティアは宰相ダストンや軍団長ドルフらの神輿である。

 とはいえ、サティアはただのお飾りではなく、サティア自身が人族至上主義者と敵対しており、人族の未来を真剣に考えている。
 サティアが俺と関係を持つことを選んだのも、彼女なりに人族のことを考えてのことなのだろう。

 目的を達成するためなら躊躇わない。
 ラザロや俺とタイプが似ていると言えるのかもしれないな。

「サティアは腹黒いな」

「ボクはベルちゃんの友達だからね。腹黒いのはベルちゃんのせいだよ」

「よく言う」

「ご主人様とサティさんが悪い顔をしています」

 サティアの掴みどころのない性格に、俺は好感を持っているのであった。
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