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宝箱は冒険者ギルドを立ち上げる

38 宝箱は歪みを知る

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 良い朝だ。心地よい目覚めだ。

 王城でひと暴れした翌日、風見鶏の寄木亭のベッドで目を覚ます。

 S室の高級ベッドは広々としていて、俺とシオンが横になってもまだまだ余裕がある。
 ベッドはもちろん部屋全体に管理が行き届いている。
 宿主のラザロの腕が光るな。

「んぅ…?…あ、ご、ご主人様、申し訳ありません!」

 俺が動いたことでシオンも目を覚ましたようだ。なぜかいきなり謝罪される。

「なぜ謝るのだ?」

「それはその、私はご主人様に仕える身です。従者たるもの、主人よりも先に起きて準備を済ませておかなければなりません。ご主人様より後に起きるなど…」

 そう言って飛び起きるシオン。
 豊かな白髪と尻尾がパタパタと揺れる。寝癖がついたのか、少し毛先が跳ねている。
 昨日の朝は寝癖などなかったので、俺より早く起きて毛の手入れをしていたのだろう。

「…。シオンはかわいいな」

「え、そ、その。ありがとうございます。でも、ご、ご主人様もかっこ…い、いえ」

 シオンがモニョモニョしている。いっそう俺になついたらしい。
 所有物と主人の相性が良いのは素晴らしいことだ。

「昨日はよく動いたからな。朝が遅くなるのも自然なことだ。何も問題ない。むしろ寝不足になれば、それだけシオンの状態が悪くなる。俺のために働くのは良いことだが、俺は第一に所有物が最良の状態であることを望む。それを忘れるな」

「は、はい!」

「それとこの顔は前世、いや仮のものだ。実際は宝箱の身体だからかっこ良いも悪いもない」

「い、いえ。顔だけではなく。ご主人様は迷族に捕まった私を助けてくれて、弱い私を強くしてくれました。ご主人様には遠く及びませんが…。これだけ自信を持ってお仕えできるのはすべてご主人様のおかげで、ご主人様が私を安心させてくれるから、その、がんばれます。それに寝顔はちょっとかわいいなって思いますし、あの、その。…出かける準備をしてきますね!」

 パタパタと走り去っていくシオン。
 まぁ俺から見ればパタパタで済むが、普通の人間なら残像を見ることになるだろう。

 王城の宝物庫で手に入れた、シオンに与えた始祖エルフのネックレスの効果は絶大だ。
 迷宮最深層へ至った冒険者の装備だから当然と言えば当然か。

 スキル【超感覚】を持つ白狼種だからこそ制御できているが、普通の人族が身に着ければまともに歩くこともできなくなるだろう。

 それにしても。
 なんだかシオンがやたら積極的だなとトシゾウは思った。かわいい。

 まさか昨日シオンに欲情しかけたことがばれたのだろうか。【擬態ノ神】まで使って完璧に感情を制御しきったと思っていたのだが、まさか【超感覚】を超えられなかったのか?

 …あり得るな。まぁばれたからどうという話でもないか。…いや、ばれても問題ないのならば、俺はなぜ隠そうとしたのだ?

 まぁ、そんなことはどうでも良いことか。それよりも…。

 トシゾウは迷宮を出てからの数日を振り返る。
 たった二日だけだというのに、とても濃い時間だった。迷宮の深層にいた時とは比べ物にならない。

 わかったことも多くある。

 人族はやはり昔に比べて弱くなっている。宝の質も落ちている。
 兵は練度こそ高かったがレベルが低い。装備も安物の既製品だ。
 あれでは迷宮の15層までがせいぜいだろう。それより先へ挑めそうな者はほとんどいなかった。

 この世界において、レベルの違いは非常に大きい。
 5レベル差があれば多少の練度は問題にならないし、10レベルも開けば、子供が大人を鼻歌混じりに吹き飛ばせるようになる。

 昔はレベル20台の兵士や冒険者がそこそこいたものだ。平均して10はレベルが落ちている。
 おそらく最も大きな要因は…。

 人族至上主義、か。あのボロ雑巾もその信奉者だったらしい。

 人族が現在の悪循環に陥っている元凶。
 人族に根深く残る考え方だ。人族の生存領域が狭くなり追い詰められていく中で、さらに差別意識は高まっているという。
 下には下がいると安心する、そういうことだ。

 歪んでいる。俺の目的のためには邪魔な考えだ。

 宝を運んでくる冒険者を増やすために、邪魔者は調教する必要があるだろう。
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