上 下
23 / 172
迷宮都市ラ・メイズ

21 シオンは宝箱と同じ部屋で眠る 前

しおりを挟む
 私の名前はシオン。
 白狼種の獣人です。

 幼い時に両親を亡くし、人族の都市であるラ・メイズで拾い屋として生きてきました。
 当時の記憶はひどく曖昧で、拾い屋になる前のことはほとんど思い出せません。

 幸い、同じ拾い屋の方たちが生きていくために必要なことを教えてくれたので、幼い私もなんとか生きていくことができました。

 私がスキル持ちであることも大きかったと思います。

 スキル【超感覚】は、五感を強化してくれるスキルです。さらに第六感というか、危険に対しても敏感に反応することができるようでした。

 拾い屋の仕事は過酷です。

 いつも重い荷物を持って迷宮を歩かなければならないし、魔物の群れに襲われたら真っ先に囮にされます。

 何度も死にそうになりました。

 私の持ち物ごと荷物を奪われて、【帰還の魔石】を使うまでの囮になれと【魔物寄せの香】を押し付けられた時は本当に危なかったです。

 私は左腕を失いながらも、死に物狂いで迷宮を脱出しました。
 死にたくない。ただ生きることを考えていました。

 【超感覚】で魔物の気配のない場所を必死で走り、命からがら迷宮を脱出した後に、私を囮にした冒険者パーティが全滅したことを知りました。
 【帰還の魔石】を発動するまでの時間を稼げなかったのでしょう。

 そのことを知った時、私は何とも言えない気持ちになりました。
 少しずつ貯めていたお金も装備もすべて失ってしまったけれど、生きていられて良かったです。

 どれだけ迷宮へ潜っても、私たち獣人はずっとレベル1のままです。

 迷宮は人族のものです。
 奴隷紋でレベルを制限されているので、まともに戦うことはできません。

 このような生活を続けていたら、いつか死んでしまうことはわかっています。
 一緒に眠っていた拾い屋の仲間が、ある日突然迷宮で死んでしまうことも多いです。

 でも、私は他に生きていく方法を知りません。
 気付けば、私は拾い屋の中でも古参になっていました。

 冒険者区画のお店で働けないかとがんばっていた時期もありました。

 でも私が獣人で、しかも左手がないとわかったら誰も相手にしてくれませんでした。
 獣人だと差別をしない人もいたのですが、獣人を差別するお客様がいるから、雇うことはできないそうなのです。

 他に拾い屋以外で獣人が就ける仕事は、奴隷よりもさらに過酷なものばかりです。

 冒険者区画の中にある貧民区で私に声をかけてくれた人族の男の人によると、獣人の女は具合が良いそうです。
 それがどういうことかは拾い屋の仲間に教えてもらっていました。

 男の人の声が悪意に満ちたものであることに【超感覚】で気付いた私は、そこから逃げ出しました。

 しばらく私の後を追うたくさんの足音が聞こえていました。


「聞いたか?近々大遠征があるそうだ」

 ある時、拾い屋の仲間が嬉しそうに言いました。

 大遠征は、複数の冒険者パーティが一丸となって迷宮の深層を目指すことです。
 深層を目指すために、倒した魔物を放置することも多いので、大遠征の後を付いて行けばいつもよりたくさん稼ぐことができます。

 乞食、ゴミ拾いと散々馬鹿にされるし、時には理不尽な要求をされることもあるけれど、私たちにとっては比較的安全に多く稼ぐことのできるチャンスなのです。

 大遠征への同行は途中まで順調でした。

 私は遠征隊が倒した魔物のドロップを集めながら5階層まで同行し、そこから地上へ戻ることにしました。
 遠征団には他にも多くの駆け出し冒険者のパーティなどが同行しているので、戻るときも比較的安全です。

 レベルが1である私にとって、5階層は一人で歩ける場所ではありません。

 その時も他の冒険者パーティに加わり地上を目指したのですが、それが間違いでした。

 他にも5階層から戻る冒険者パーティはあったのに、私はよりによって迷族の扮する冒険者パーティについて行ってしまったのです。

 慣れた足取りで5階層を歩く姿から同行を求めたのですが、それはこの迷族の拠点が5階層にあり、日常的に冒険者を拉致していたからだったのです。

 彼らの不穏な会話を【超感覚】で拾ったときにはもう手遅れでした。

 周囲を囲まれ、無理やり迷族の拠点に連れ込まれてからのことはあまり思い出したくありません。
 もともと尊厳なんていうものは私に与えられていませんでしたが、それでも地上にいた時のことを楽園のように感じるほどには、私は追い詰められていました。

 朝も夜もない迷宮で男たちに乱暴され続け、食事はほとんど与えられませんでした。
 すごい匂いのする薬を飲まされ、強制的に気持ちよくされたこともあります。
 我に返った時は、何が何だかわからなくて、ただただ絶望して。

 コレットがいてくれなかったら、エリクサーでも治らないくらいに壊れてしまっていたかもしれません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

お城のモブ侍女に転生しましたが、この国はもうダメかもしれません

こうやさい
ファンタジー
 せっかく転生しましたが、どう考えても生まれてくる国を間違いました。なにせ陛下がロリコンです。  語り手に現代的な視点を入れたかったというだけの転生設定なのでファンタジー要素はほぼありません。けどカテゴリわかんないのでそれで。  直接的な描写とは言われないだろうけど個人的R15で。てか、これ書いたとき何考えてたんだろう?  本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。パソコンが不安定なので結局テキストデータを同期出来るよう試してみました。結果もっと不安定になりました(おい)。ダイアログがすべて文字化けしてるの見たときには再起動するのも怖かったです。設定するの中断すべきかと思いつつも、それはそれで不安定に拍車がかかりそうで怖い(爆)。今書いてる訳でもないのに何で無茶をしてしまったんだろう。  完結表示にするのが遅れたら察してください。いやそれくらいアプリの方でも出来ると思うけど……機種変わっても動作変わんないよね?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...