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「あなたもこの町に来てもう7年ね」
「早いですよね。マルグリットさんにもセッテさんにもお世話になりっぱなしで」
遠い目をしながらお茶の入ったカップを両手で包み、軽くため息をついた。
「ねえ、レイモンドはお父さんに会わせないの?」
「……彼は…レイが生まれたことも知らないの。その当時は彼の連絡先なんて知らなかったし知らせるつもりもなかったから」
「じゃあ、今は?レイモンドはとってもいい子じゃないの。きっと迎え入れてくれるわよ」
「ううん。この子がお腹にいるってわかった時から、独りで育てるって決めたのよ。彼とのことはいい思い出として残しておきたいから」
離れた場所で絵本を読んでいるレイモンドに視線を向けながら、僅かに口角を上げた。
「じゃあ、もし目の前に現れたらどうするの?」
「それはないと思う。私がここにいることも知らないし、彼は王都にいるはずだもの。でも……目の前に現れたら…どうするかな?考えられないけど、私の事を覚えていたら伝える……かなぁ」
「話したとしても、きっと受け入れてくれるわよ。こんなに可愛い子だもの」
「そうね。その時はその時かな。レイのことを話すかもしれないし、誤魔化すかもしれない。彼の態度次第?」
「そうよね。しらばっくれるようなら殴ってやりなさい」
マルグリットさんはレイモンドに視線を向けて優しく微笑んでくれた。
そろそろ帰るわね。と、店を出た。そういえばマルグリットさんに話していなかったなと思い出し、見送りに出てきていた彼女に伝えた。
「マルグリットさん。私、しばらく旅行に行くの。レイモンドにも色々な場所を見せてあげたいから、この休みを利用しようかと思って」
「いつ出発するの?」
「急で悪いんだけどもうすぐなの。だから挨拶もしなきゃって」
「そうなのね。戻ってくるんでしょ?行ったままなんてそんなことないわよね」
私はその言葉にうなずけなかった。この地にカイトが一度訪れたことと隊長さんから聞いたことがどうしても気になってしまい、今からこの地を離れようとしているとは口が裂けても言えなかった。
いつか戻ってくるつもりだとはいえやはり後ろめたい気持ちはあったので、心の中でマルグリットさんに謝った。
「もう行きますね。じゃあまた連絡します」
「おばさーん。また来るねー」
手を振って、店を後にした。
いずれは帰ってくるけどしばらくは旅に身をゆだねるのもいいだろう。どこへ行ってもレイモンドと一緒なら毎日が楽しそうだ。
今回はエデン地区から定期船が出ているのでその港へと向かった。もう荷物は預けてあるので身軽に港まで移動できる。
「レイモンド、じゃあ行こうか」
「うん。お母さん」
二人を見送ったマルグリットは慌てて店に入って奥へ向かう扉を開けた。
「大変です!エミリア達が旅に出るって…」
その扉の先にいたのはカイトとアーサーとジェイクの三人だった。
「早いですよね。マルグリットさんにもセッテさんにもお世話になりっぱなしで」
遠い目をしながらお茶の入ったカップを両手で包み、軽くため息をついた。
「ねえ、レイモンドはお父さんに会わせないの?」
「……彼は…レイが生まれたことも知らないの。その当時は彼の連絡先なんて知らなかったし知らせるつもりもなかったから」
「じゃあ、今は?レイモンドはとってもいい子じゃないの。きっと迎え入れてくれるわよ」
「ううん。この子がお腹にいるってわかった時から、独りで育てるって決めたのよ。彼とのことはいい思い出として残しておきたいから」
離れた場所で絵本を読んでいるレイモンドに視線を向けながら、僅かに口角を上げた。
「じゃあ、もし目の前に現れたらどうするの?」
「それはないと思う。私がここにいることも知らないし、彼は王都にいるはずだもの。でも……目の前に現れたら…どうするかな?考えられないけど、私の事を覚えていたら伝える……かなぁ」
「話したとしても、きっと受け入れてくれるわよ。こんなに可愛い子だもの」
「そうね。その時はその時かな。レイのことを話すかもしれないし、誤魔化すかもしれない。彼の態度次第?」
「そうよね。しらばっくれるようなら殴ってやりなさい」
マルグリットさんはレイモンドに視線を向けて優しく微笑んでくれた。
そろそろ帰るわね。と、店を出た。そういえばマルグリットさんに話していなかったなと思い出し、見送りに出てきていた彼女に伝えた。
「マルグリットさん。私、しばらく旅行に行くの。レイモンドにも色々な場所を見せてあげたいから、この休みを利用しようかと思って」
「いつ出発するの?」
「急で悪いんだけどもうすぐなの。だから挨拶もしなきゃって」
「そうなのね。戻ってくるんでしょ?行ったままなんてそんなことないわよね」
私はその言葉にうなずけなかった。この地にカイトが一度訪れたことと隊長さんから聞いたことがどうしても気になってしまい、今からこの地を離れようとしているとは口が裂けても言えなかった。
いつか戻ってくるつもりだとはいえやはり後ろめたい気持ちはあったので、心の中でマルグリットさんに謝った。
「もう行きますね。じゃあまた連絡します」
「おばさーん。また来るねー」
手を振って、店を後にした。
いずれは帰ってくるけどしばらくは旅に身をゆだねるのもいいだろう。どこへ行ってもレイモンドと一緒なら毎日が楽しそうだ。
今回はエデン地区から定期船が出ているのでその港へと向かった。もう荷物は預けてあるので身軽に港まで移動できる。
「レイモンド、じゃあ行こうか」
「うん。お母さん」
二人を見送ったマルグリットは慌てて店に入って奥へ向かう扉を開けた。
「大変です!エミリア達が旅に出るって…」
その扉の先にいたのはカイトとアーサーとジェイクの三人だった。
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