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「あの…ジェイクさん。隊長さんはアンスリーにいらっしゃるんですよね」

「隊長…ですか?今は王太子様の護衛として王都へ一緒に行ってるんですよ。急遽決まったらしくて残された方は大変みたいで。僕はその前からこっちに来たので楽してますけどね」

「まあ、そうなんですね」


 時計台前の公園から彼女たちの家までは歩いて20分程だろうか。大人の足なら15分もかからないだろう。周囲を確認しながら家までの道をレイモンドの手を取って歩いて行った。

 
 それからというものジェイクが巡回がてら時計台周辺を回っていると、レイモンドが毎日のように声をかけてくるようになった。そして迎えに来たエレミアも加わり家まで送る事も多々あった。



 ある日、噴水の水で遊んでいたレイモンドの手をハンカチで拭いた時、エレミアが「あっ、私が刺繍したハンカチ!」と驚きの声を上げた。アンテノールで買ったあのハンカチだ。


「なんだか、自分が刺して仕上げたものを使ってくれてるって、嬉しいわ」

 頬をほんのり染めながらハンカチに目を落としている。その顔は母ではなく一人の女性として職人としての顔だった気がする。


 そしてその日のうちに報告書を書き上げ、次の日の朝一でアンスリーへと戻った。刺繍師と庭園の親子が同一人物と分かったからだが、ジェイクの気は重かった。こんなにも親しくなるとは思っていなかったから、騙しているような後ろめたさも感じていたたまれない気持ちを感じていたのだ。

 隊長のアーサーは数日前には王都から戻ってきていたので、連絡を入れてから彼の執務室へ報告に向かった。



 隊長の部屋へ入りエデン地区へ行ってからの出来事の詳細な報告書を渡し、体調がそれに目を通し終わるのを待った。そして読み終わってから控えていた騎士に誰かを呼びに行かせたようだ。

 しばらくしてからその呼びに行った人物がやってきたが、その人物を見てジェイクは驚きを隠せなかった。彼の容姿はレイモンドにそっくりだったからだ。


「ジェイク、お前は初めて会うな。こいつは俺が王都にいた時の同期でカイトだ。騎士団副団長として王太子御一行と一緒にいた、あいつだ」


 ジェイクは名前を告げて敬礼をした。だが彼から感じる圧は地方の騎士団の団員と違って気迫そのものが違うように感じた。さすがに王太子殿下の護衛をしていただけはあるとジェイクは息を呑んだ。


「カイト、お前の感が当たったな。間違いない」


 ジェイクの書いた報告書に目を通し眉間に若干しわを寄せたが、最後にはとても柔らかなほっとしたような表情を浮かべて、その後も報告書に何度も目を通していた。それを見てジェイクは自分が調べていた事の意味がわかった気がした。


 ―――エレミアさんは副団長の大切な人で、レオナルドは息子さんなのか


「いいか、ジェイク。この部屋で見聞きしたことは外部に一切漏らすなよ」


 アーサーはジェイクがカイトを見る視線を見て釘を刺した。鬼のような視線と共に発せられた言葉だったが、言われなくても話すつもりはない。話そうものならどんな厳しい訓練を課せられるのか怖くてならないのだから。


 そしてアーサーはある計画を思いついたと二人にその内容を話し始めた。その実行に関してはジェイクが準備をすることとなり、その実行日まで数日の間待つことになった。
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