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 エデン地区へ来てから数日間は何の収穫もなかった。 

 この日も空振りかと思いながら周辺をぐるりと回って時計台広場へと戻ってきて、もう帰ろうかと思った時、突然「お兄ちゃん?」と声をかけられ、振り向くと足元にあの少年がいた。


「やっぱり騎士のお兄ちゃんだ」

「やあ、君は庭園にいた子だね?」


 レイモンドは覚えていてくれたことが嬉しくて、ニコニコと満面の笑みを浮かべた。


「お兄ちゃん、お仕事なの?」

「そうだよ。つい最近、この町に来たんだ。君は…この町に住んでるのか」

「うん。お母さんと一緒に向こうに住んでる」


 そう言って住宅街が広がる地域を指さし、名前を覚えてもらっていたことが嬉しかったのか、また可愛い笑顔を浮かべてジェイクを見ている。

 この日は友達と遊んだ帰りのようで今から家に帰るらしいが、よほど嬉しかったのか「お兄ちゃん、うちで一緒にご飯食べよう」と誘ってきた。
 ジェイクとしても嬉しい誘いなのだがいきなり行って警戒されるわけにもいかずに困っていると、どこからかこの子を呼ぶ声が聞こえた。


「レイ、どうしたの?」


 振り向くと、そこには少年の母親が立っている。あの時、一緒にいた女性だ。


「あ、お母さん。お兄ちゃんに会ったんだ」

「お兄ちゃん?」

 ジェイクはさっと礼をして挨拶をした。
 警戒心を抱かれないよう、極力注意を払って言葉にも気を付けた。


「こんにちは。覚えていらっしゃいますか?先月、領主様の庭園で声をおかけした者です」


 騎士の制服を気にしたのか、彼女の表情が少し硬く何かあったのか心配したらしい。だが、レイモンドが自分から声をかけたのだと話すと少しは安心したようだ。


「先週からこの町に配属になったんです。ずっと前から異動願いは出していたのでようやくなんですけどね」

「そうなんですか?」

「はい。向こうの南寄りの地区出身なんです。やっぱり地元が近いと気軽に家族に会えるので。あ、ジェイクと言います」

「エレミアです」


 地元が近いことを話すと当初の警戒感もなくなったようで、ジェイクはホッと胸をなでおろした。

 とりあえず、彼女が例の刺繍師と同一人物である可能性は限りなく高い。焦らずに接していかなければと考えながら話を続けた。

 そう考えているとレイモンドが「お母さん。僕、お兄ちゃんと一緒にご飯食べたい」と言い始めた。ご迷惑かけちゃだめよと窘めたものの、レイモンドの膨れた頬が可愛い。確かに知り合い未満のような男性を家に入れると言うのはいくら騎士とは言え抵抗はあるものだ。


「レイモンド。お母さんを困らせちゃだめだよ」


 そう言って「いつかお邪魔するよ」と告げた。そう言っておけばいつかは誘われる可能性もあるかもしれない。単純な考え方だが今は最善だろう。

 しかしレイモンドは諦めきれないのか「じゃあ、家まで手を繋いでほしいな」と可愛い子に上目遣いで、しかも潤んだ瞳で見つめられると弱い。


「だめぇ?お母さぁん」

「もう、仕方ないわね。お兄さんが良かったら…だからね。お仕事中だったら諦めるのよ。ジェイクさん、お仕事中ならはっきり言っていただいて構いませんからね」

「いえ。もう終わるところなんです。もしエレミアさんが許可下さるなら、見回りも兼ねてお送りしますよ。レイモンドのこんな顔を見たら断れないですからね」


 そう言うと、レイモンドはジェイクと手を繋いで歩き始めた。
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