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カイトはベッドの上で横になったものの、なかなか寝付けないまま空が白み始める時間になった。
この日ヴィンセント殿下は貿易港の視察へと向かう予定で、その時の護衛を負かされているのだが寝不足のこんな顔では役に立ちそうにない。そう思って頭から水をかぶり気合を入れた。
―――前向きに考えよう。ミアがこの町にいるのは間違いなさそうだ。それならこの後やみくもに動くのではなく、どういう風に事を進めるべきかを考えるのが先だ。
騎士団の服に着替え早々に食事を取った。あまり食欲がないが倒れては本末転倒なのだから。
スープなどの簡単に食べられるものを無理やり飲み込み殿下の部屋へと向かった。
殿下の部屋の前には当番の騎士が二名配置され、離れたところにも三名が控えている。彼らに変わったことがなかったか挨拶がてら報告を聞き、殿下の滞在する部屋の扉をノックした。
「殿下、カイル・フォン・ティールです」
中から「入れ」という声が聞こえ、扉を開けて入室した。殿下は着替えも終わり優雅な仕草でお茶を飲んでいるところで、もう準備は全て終わっているとその表情が語っている。そして私の顔を見て人払いをして話し始めた。
「カイル、その顔はなんだ?寝てないのか?」
水をかぶったことで幾分か大丈夫だろうと思っていたが、長い付き合いでもあり観察力に長けている殿下にはお見通しなのだろう。
「申し訳ございません。勤務には支障がないのでお気になさらないよう」
「さては、アーサーとの話でなにかあったか?」
「……実は」
そしてヴィンセント殿下に昨日の夜にアーサーから聞いたことを話した。
彼がミアらしき人物と会っていること、話を交わしたこと、おそらくこの町に住んでいること、そして彼女には子供がいたことを。
「ほぉ…本人だと確証を持ったようだな。だが、そうであってほしいというお前の希望ではないのか?」
「アーサーから聞く限り彼女の容姿も合致しましたし、彼女が連れていた子供は私に似て私と同じ瞳を持っていたと」
「ティール家の瞳か……それが確かなら、お前の子だという可能性は高いな」
「はい」
「そうか……。では、侯爵夫人に例のカードを作った者の詳細を早急に聞いておこう」
殿下にお礼を述べ、この日の視察の予定を確認し部屋を出ようとすると、殿下から思いもよらぬ言葉をかけてきた。
「そういえばカイル、お前は少々働きすぎだ。私が王都へと帰る日から一ヵ月の休暇をやろう。ここは過ごしやすい気候だからゆっくり休むといい。王都までの帰路の責任者は、そうだな…アーサーが適任だろう。話を付けておいてくれ。言っておくがお前に拒否権はないぞ。いいな」
そう言って、楽しそうな笑顔を浮かべてカイトの肩にポンと手を置いて耳元でぼそっとささやいた。
「必ず見つけ出せよ」
「殿下、ありがとうございます」
俺はその足で屋敷に来たアーサーを捕まえて殿下からの話を伝えた。王都への帰路の護衛責任者を俺の代わりに頼むことを告げると、ものすごく面倒で嫌そうな表情を浮かべたが、ヴィンセント殿下の考えていることも理解できているようで快諾した。
そしてアーサーからは、ミア達の顔を知っている騎士をこの日からエデン地区の警らに配置換えをしたと聞いた。エデン地区も広いから見つけ出せるとは思えないが、万が一もあるからと考えたらしい。本当に感謝しかない。
殿下が王都へと戻るのは3日後。
それまでに情報が集まればすぐに探しに行けるだろう。まずはヴィンセント殿下の視察を滞りなく無事に終わらせることを考えなければ。
頭を無理やり切り替え、控えている騎士たちの元へ向かった。
この日ヴィンセント殿下は貿易港の視察へと向かう予定で、その時の護衛を負かされているのだが寝不足のこんな顔では役に立ちそうにない。そう思って頭から水をかぶり気合を入れた。
―――前向きに考えよう。ミアがこの町にいるのは間違いなさそうだ。それならこの後やみくもに動くのではなく、どういう風に事を進めるべきかを考えるのが先だ。
騎士団の服に着替え早々に食事を取った。あまり食欲がないが倒れては本末転倒なのだから。
スープなどの簡単に食べられるものを無理やり飲み込み殿下の部屋へと向かった。
殿下の部屋の前には当番の騎士が二名配置され、離れたところにも三名が控えている。彼らに変わったことがなかったか挨拶がてら報告を聞き、殿下の滞在する部屋の扉をノックした。
「殿下、カイル・フォン・ティールです」
中から「入れ」という声が聞こえ、扉を開けて入室した。殿下は着替えも終わり優雅な仕草でお茶を飲んでいるところで、もう準備は全て終わっているとその表情が語っている。そして私の顔を見て人払いをして話し始めた。
「カイル、その顔はなんだ?寝てないのか?」
水をかぶったことで幾分か大丈夫だろうと思っていたが、長い付き合いでもあり観察力に長けている殿下にはお見通しなのだろう。
「申し訳ございません。勤務には支障がないのでお気になさらないよう」
「さては、アーサーとの話でなにかあったか?」
「……実は」
そしてヴィンセント殿下に昨日の夜にアーサーから聞いたことを話した。
彼がミアらしき人物と会っていること、話を交わしたこと、おそらくこの町に住んでいること、そして彼女には子供がいたことを。
「ほぉ…本人だと確証を持ったようだな。だが、そうであってほしいというお前の希望ではないのか?」
「アーサーから聞く限り彼女の容姿も合致しましたし、彼女が連れていた子供は私に似て私と同じ瞳を持っていたと」
「ティール家の瞳か……それが確かなら、お前の子だという可能性は高いな」
「はい」
「そうか……。では、侯爵夫人に例のカードを作った者の詳細を早急に聞いておこう」
殿下にお礼を述べ、この日の視察の予定を確認し部屋を出ようとすると、殿下から思いもよらぬ言葉をかけてきた。
「そういえばカイル、お前は少々働きすぎだ。私が王都へと帰る日から一ヵ月の休暇をやろう。ここは過ごしやすい気候だからゆっくり休むといい。王都までの帰路の責任者は、そうだな…アーサーが適任だろう。話を付けておいてくれ。言っておくがお前に拒否権はないぞ。いいな」
そう言って、楽しそうな笑顔を浮かべてカイトの肩にポンと手を置いて耳元でぼそっとささやいた。
「必ず見つけ出せよ」
「殿下、ありがとうございます」
俺はその足で屋敷に来たアーサーを捕まえて殿下からの話を伝えた。王都への帰路の護衛責任者を俺の代わりに頼むことを告げると、ものすごく面倒で嫌そうな表情を浮かべたが、ヴィンセント殿下の考えていることも理解できているようで快諾した。
そしてアーサーからは、ミア達の顔を知っている騎士をこの日からエデン地区の警らに配置換えをしたと聞いた。エデン地区も広いから見つけ出せるとは思えないが、万が一もあるからと考えたらしい。本当に感謝しかない。
殿下が王都へと戻るのは3日後。
それまでに情報が集まればすぐに探しに行けるだろう。まずはヴィンセント殿下の視察を滞りなく無事に終わらせることを考えなければ。
頭を無理やり切り替え、控えている騎士たちの元へ向かった。
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