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 リアを思い出しながら、ヴィンセントに言われたようにアーサーに会いに行こうと決めて、彼の居場所を使用人に聞いた。
 すると婚礼に関する招待客がすべて帰るまでは屋敷の一角にある騎士団の寮にいると聞き、すぐにその建物へ向かった。寮の場所はここへ来たとき顔を出していたので、案内を申し出るメイドからの言葉を遮り素っ気ない態度をとりながら本邸を出た。

 アーサーとは同じ年齢で王都の騎士団でも一緒の部隊に所属していて、愚痴や相談事など色々と話をした友人でもあった。
 だが彼が結婚してこのマンデビルに異動した時からは会うこともなかったし、手紙も数度しか交わしていない気がする。
 入り口にいた騎士にアーサーに会いに来たことを告げて取り次いでもらうと、二階にある彼の部屋へと案内された。



「アーサー、久しぶりだな」

「カイトか。お前は変わらないな」


 男同士、友情を確かめるように肩を抱き、そして懐かしい話に花を咲かせながら、最近会った出来事を話していた。そしてアーサーが突然思い出したように口を開く。


「そういえば、一か月ほど前だけどな、お前にそっくりな子供に会ったんだ」

「俺に?」


 そしてアーサーは一か月前の庭園の開放の時の出来事を話して聞かせた。


「ああ、黒髪に黒い目なんだがお前みたいに光が入ると赤く光ってたから、珍しいなと思ってな」

「そんなはずはないだろう。この瞳はティール家の……」


 ふとありえない考えが頭を横切った。


 ―――そんなはずはない……いや、しかし…


「そんなに俺に似ていたのか?」

「ああ、お前をそのまま小さくしたらこんな感じだろうなっていうほど似てたから覚えてたんだ」

「親は一緒だったか?名前は?なんと言っていた」

「親?ああ、母親だけだったが、茶色い髪で、瞳は……そうだ、月夜の空のような藍色だったな。名前は……確か、エ…エ……そうそう、エレミア。子供は6歳位だな」


 カイトが立ち上がり椅子がガタンと音を立て倒れた。その顔は血の気が引いたように真っ青になっているが、どこかに喜びに似たオーラのようなものを発している。


「……彼女はどこに住んでいる。聞いていないなんてことはないよな」

「あ……いや…それが、色々と質問したら、帰ってしまったんだ。俺の知り合いにこの子に似た奴がいるって言ってお前の名前を言ったら……」


 『名前を言ったのか?』というような視線を向けられ、アーサーはまるで蛇ににらまれているような気持になった。そしてカイトの豹変ぶりに慌てて自分の記憶を探り少しでも思い出そうとするが、どうやら何の情報もないと気が付きこれは失敗したと遅ればせながらに気が付く。
 だが、あの場では強制するようなことはできない状況なのは誰でも理解するはずだ。そこでアーサーはあることを思い出した。


「もしかして……例の彼女か?確か、7年くらい前だったよな。……いや、待て待て。じゃあ6歳のあの子はお前の子か??」

「……瞳がそうなら、おそらくな」

「どうするつもりだ?」

「探し出すに決まっているだろう!この7年、彼女の事は忘れたことはないんだからな」

「……悪いな。俺がもう少しちゃんと話を聞いていれば」

「いや、この町にいることが分かっただけで十分だ。行先も掴めなかった今までとは違う。もう手の届くところに彼女がいる」

「多分だが、住んでいるのはおそらく湾の東側のエデン地区だろう。ここから馬車で二時間もあれば行ける場所だし、港で働いている奴や家族以外の領民のほとんどが東側だ。向こう側は騎士団より自衛団の方が幅を利かせている地域だが治安はいい区域だ」


 アーサーはカイトに自分の知りうる情報を伝え、カイトが待ち望んでいた想い人との再会の手助けができればと考えた。自分がもう少しうまく立ち回っていれば、もしかすると連絡先の一つでもわかっていたかもしれないのだから。


「カイト。見つけたらちゃんと紹介しろよ」

「ああ。必ず見つけて連れてくる」


 アーサーと別れてから庭を通りと周りをして部屋へ戻りながら明日から何をするべきかを考えた。

 ―――ヴィンセント殿下があの刺繍の詳細を調べてくれると言っていた。それがわかる頃には今回の護衛の仕事も一区切りになる。そのまま休暇をもらってここで彼女を探すことにするか。それとも……


 ベッドに横になったものの目を閉じても眠ることができず、思い出すのはあの夜の彼女の笑顔であり彼女と過ごした時間だった。

 七年たっても色褪せることなく脳裏に蘇る彼女を、早くこの手にこの腕の中に閉じ込めたい。


 拳を握り、エミリアを絶対に見つけると自身に誓った。
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