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 私の婚約者のショーンは、ヘドレス子爵家の嫡子で私の2つ年上。


 私が幼い頃に一目惚れをして父にお願いをして婚約までこぎつけた相手だった。
 陽に当たるとキラキラ輝く蜂蜜のような髪に空のような青い瞳で、とても整った顔をしていた彼に一瞬で恋に落ちた。

 でも、政略結婚ではなく、交流を深めて彼も納得したうえで3年前に婚約を交わし、秋には結婚式を挙げることになってる。


 それなのに、今の状況は何だろうか。お父様とお兄様が不在のこの時を狙っていたとしか思えない最悪なタイミングで、この状況。嫌な予感しかしない。


「すまない。ジョセフィンのお腹には私の子供がいるんだ。だから、君との婚約はなかったことにしてほしい」


 その言葉が耳に入った瞬間、彼を思う気持ちが逆の方向へと振り切れた。

 ずっと好きで、父にお願いしてようやく願いが叶って婚約したのに、どうして姉が彼に守られてる?
 その場所は私がいるはずだったのに。


 そう思うと、姉への視線がキツイものになっていたようで、二人の私を見る表情が悪者に向けられているようで、心の中の何かがブチッと切れた音を聞いたような気がした。


「サイテー!お姉様もショーンも最低だわ」


 そのまま二人を応接室に残したまま、自室に籠もった。

 ベッドに突っ伏し、涙が流れるがまま泣き続けた。これでもかというほど、涙が枯れるまで思いっきり、泣き叫んだ。


 しかし、そこまで泣くと、なんだか馬鹿らしくなってくるものだ。

 婚約者がいながら妹の婚約者に手を出す姉も、婚約者の姉と懇ろになり孕ませるような男もいらない。
 そんな常識のない男と結婚しなくてよかったんだと考え、スッキリするために冷たい水で顔を洗った。


「もう、やめよう」


 ふとそんな言葉が口から出た。

 父が亡くなれば家督は兄が継ぐ。それも私とは犬猿の仲と言ってもいいほどの兄だ。
 結婚して嫁ぐつもりでいたからこの家にいたけれど、こうなるとこの先どうなるかわからない。

 そう考えるに至ると、いっそのこと家を出て自由に生きようかとフッと思った。
 子爵令嬢とはいえ、使用人の少なさや収入の少なさもあり家事全般はできるようになってるし、刺繍の腕も職人レベルだと言っても過言ではない。

 まあ、数字にもある程度理解力はあるし何とかなるだろうと気持ちをくくった。


 あとはいつ出て行くか…ということだが、とりあえずはお父様たちに話が行き、全て終わったと同時がいいだろう。


 まあ、そんなに先伸ばしする必要もない。

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