【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

５０

「レイ？どうして？」

「あー、ケン。剣帯ないかな？この店のが一番しっくりくるんだ」

「あっ…ああ、それならここにあるぞ」


　話題をそらしたいラリーは店の奥の方に並べられた剣帯の店に向かい、リサに背を向けケンにコソコソと小声で話始めた。もちろん、リサには聞かれないように誤魔化しながら。


『お前、レイに嫌われてるだろ』

『まあな。だが、最近はそうでもない』

「これ、いいな」　

「ああ、最近入荷したんだ。これもいいぞ？」


　手元に剣帯をいくつも揃えて説明をしながら、背後に意識を向けた。


『レイもさっさと諦めてくれるといいんだが』

『そりゃ、無理だな。アイツは昔からリサしか見てなかったからな』


　ラリーはわかっていたことだが、レイモンドのリサへの想いは初めて会った時からわかっていた。
　ようやくリサの家へたどり着いた時も、嫌悪感を隠すことのない視線を向けていたのだから、察しが悪くても気がつくものだ。
　最近はようやく認めてくれたのかそういう視線で見てくることはなくなったし、何より子供達もレイに懐いている。それが意外とレイの何かに響いたのもしれない。


「ラリー、剣帯ならアルのも選んでほしいわ」

「アルのか？そうだな、そろそろ変え時だな」


　アレックスの使っている剣帯のサイズがそろそろ合わなくなる頃だとつい数日前に話していたことを思い出し、ケンに子供用の剣帯も出してもらう。
　ケンには「子供は可愛いぞ」と満面の笑みを浮かべて自慢すると「お前からそんな言葉が出るとは思わなかった」と目を見開いて驚かれていた。


「リサ、こいつ……親バカだな」

「そうなの。ランディもセオもレイも、みんなで父親してるから、困るのよね」

「ランドルフやレイモンドはわかるが、セオドアもか？意外だな」

「でしょ？私もそう思うわ」


　黎明の羅針盤アウローラ・コンパスのメンバーは、他の冒険者からすると近寄りがたい印象が強いが、実際は家庭的だったのだろうかと、ケンはみんなの顔を思い出しながらその話に笑顔を浮かべた。


「今度、子供達にも会わせてくれ」とケンは二人に頼み、店を出る姿を見送った。