【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

稲垣桜

文字の大きさ
上 下
47 / 63

46

しおりを挟む
「叔父上、やはり生きていらしたのですね。あの子供たちは叔父上のお子でしょう?」


 どうやら部屋から出ていった子供たちを見かけたようで、ジークフリートは一種の確信をもって乗り込んできたようだ。確かにアレックスはローレンスにそっくりなのだから気付かないわけはないだろう。
 しかし、宰相はジークフリートには会わないはずではなかったのだろうかとローレンスは眉をひそめた。

 それに、王太子ともあろうものがこのマナーのなさはいかがなものか…と。



 面倒なことになったと顔に出ているローレンスにリサがまあまあとでもいうように背中をさする。
 その姿を目にしたジークフリートが「その女性は?」と声をかけた。今の姿はリサ・ファローではなく、エリザベス・ファロンなのだから見覚えがないのは仕方ない。


「お前が八年前に追い出した女性だ。覚えているだろう?ジーク」

「八年前……?」


 ローレンスはまるで親の仇を見るような目をして不機嫌極まりない声でそう答えると、リサは認識阻害の魔法でリサの姿になった。そしてその姿を見たジークフリートは、すぐに思い出したのだろう。顔を真っ青にして立ち尽くしている。

 あの日の後、ローレンスに力いっぱい殴られ父親や宰相から「冒険者とはいえSS級の人間はこの国に片手ほどしかいないのだぞ。追い出すなど無礼もいいところだ」と説教をされ、しばらくの間 謹慎を言い渡され肩身の狭い思いをしたのだ。
 それもローレンスがリサを探すために出奔したことで、さらにあたりが強くなったと感じていた。



 ジークフリートは出来が悪いわけではない。
 次期国王としてもしっかりとした教育を受け、臣下からの支持もある。その人格や人望は次期国王として申し分ないと言われてはいるが、少し短慮なところがある。ローレンスがいなくなってからはそう言ったことがないように再教育をしたらしいが、少しは変わったのだろうか。


黎明の羅針盤アウローラコンパスのエリザベス・ファロン殿……」

「お久しぶりですわ。王太子殿下。あの時は何も言えずに申し訳ありませんでした。でもある私が王太子殿下に何かを申し上げることなどできませんでしたから」


 嫌味のようにニコリと微笑み、ローレンスもまた彼女の肩を抱いてジークフリートに冷たい視線を向けた。


「あ…いや……」

「ジーク。お前は次期国王の自覚はあるのか?兄上が退位されたらお前が後を継いでこの国を守らなければいけないのだぞ」

「はい…」


 ローレンスが諭すようにジークフリートに強めの口調で言い、この先の次期国王と言う立場をしっかりと理解し、そしてその覚悟をしっかりと持つようにと注意をした。


「では兄上、私はそろそろ帰ります。お身体ももう大丈夫でしょうから、ジークの教育をしっかりとしてください」

「待ってください、叔父上!戻ってこられたのではないのですか?」

「ここにはもう私の居場所はない。私はリサたち家族と暮らす場所がちゃんとある」

「叔父上、せめてもう少しいてください。お願いします」


 懇願するジークフリートの姿はローレンスには全く響かないが、甥っ子にここまで慕われているローレンスの姿を見てリサは少し助け舟を出そうかと考えた。ここを離れるならなおさら、ローレンスとジークフリートの仲を少しは改善しておくのもアリだろうと親心ならぬ妻心である。


「ねえ、ラリー?子供たちに少し王都を観光させたいの。だから、そうねぇ…もう数か月くらいあなたのお屋敷でゆっくりしない?」

「はぁ…リサ。観光はさせたいが、そこまで長居するつもりは…」

「では、私が子供たちを案内します!これでも王都は隅々まで見て回ったので安心してください。では、明日の朝、叔父上の屋敷まで迎えに行きます。いや、子供たちをこのまま王宮に泊まらせましょう」


「お…おいっ、ジーク!」



 ジークフリートは言いたい事を言って、そのまま国王の部屋を飛び出し、恐らく子供たちのいる部屋に向かったのだろう。



「あらあら。王太子殿下はせっかちなのね」

「リサ…どうするんだ?」

「まあ、いいんじゃないの?甥っ子の可愛らしい面も見られて。ねぇ、ふふふっ」



 ローレンスはリサには弱いが、こういう楽しんでいる時に浮かべる彼女の笑顔にはさらに弱かった。まあ、いざとなればすぐにでもすべてを捨てて消えることもできる。そう割り切って、しばらくは王都観光と言う名目で残ってもいいだろう。兄がきちんと復帰するまでの間だけだが、それで十分だろう。そう考えて国王にも返事をしておいた。 
 
 
「兄上。兄上が復帰するまでですよ。復帰した時にはすぐに私たちは帰りますから」 


 国王は、嫌々だという口調ではあるが、その顔には嬉しそうな照れが見て取れるその可愛い弟の姿を見て、良い相手と夫婦になったことを嬉しく思っていた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

処理中です...