【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

３５

　息子のアレックスと二人でのホルトンでの暮らしに、リサは今までにない幸せに包まれていた。


　アレックスは艶やかな黒髪に赤い瞳を持って生まれ、見るからにミニローレンスなのだが、その姿を見る度に彼は元気で過ごしているだろうかと考えてしまう。

　アレックスがお腹にいるとわかった後、この屋敷を訪ねてきたレイモンドやランドルフに心配はされたが、リサはこの子を産む一択しかなかった。
　二人とも呆れるような顔をしていたが「リサは一度言ったら聞かないからな」と、それから頻繁に顔を出してくれるようになった。
　そして、彼らの元にローレンスから何度も手紙が届いていると教えてもらったのだ。

　ランドルフはリサの居場所を教えて欲しいと懇願するローレンスの気持ちを理解したものの、その真意を測りかねてもいた。

　レイモンドは最初から教えるつもりはなかったし、セオドアに至っては手紙など読んでもいないだろうと言う話になった。その事はセオらしいと笑いあった。



　産まれるまでは町の医者が定期的に往診に来てくれ、仲間たちも一人暮らしということもあって産み月が近くなると頻繁に泊まりに来ていた。
　客間もあったので、そこを自由に使ってもらい久しぶりにパーティを組んでいた頃のように楽しい日々を過ごした。


　そしてもうすぐ夏が終わりを告げ涼しい風が吹き始めた頃、リサは驚くほどの安産で玉のような男の子を出産した。
　アレックスと名付けられたその男の子は黒髪に赤い瞳を持っていて、その容姿が誰が親なのかを雄弁に物語っている。そしてリサは我が子を見て驚きながらも嬉しくて涙を流した。


「ありがとう……」


　ただ一言、その言葉だけが口から出ていた。


「あいつに……知らせないのか？」


　落ち着いたころにレイモンドがそう口を開いた。

　知らせるべきだと思うものの、ローレンスの身分を知っている側としては庶子として表立って現れることは避けるべきことだとわかっている。だからこそ、そう口から出たのかもしれない。


「この子は私が一人で育てるから、彼には何も知らせないわ」