【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

稲垣桜

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 リサが王都の屋敷から消えてから三年の月日が流れた。

 その間、ローレンスは国内をくまなく捜し歩いたが、リサを見つけることはできなかった。
 彼の元に黎明の羅針盤アウローラコンパスのメンバーからも返事が届くこともなく、時間があれば空を眺め彼女の姿を思い浮かべていた。

 その姿を見ていた周囲の人達は、彼の憔悴さを心配して国王に進言した。
 気晴らしというわけではないが環境を変えてみるのもいいかもしれないと、国内での魔物被害が頻発している地域への討伐部隊を率いるようにと命令を下した。

 その場で何が起きるかもわからないまま国王はローレンスを、討伐部隊を見送った。



 ◇ ◇ ◇



「さぁて、今日は少し寒いからポトフでも作ろうかな?」


 いつも顔を出す花屋のケイラからもらったコスモスを花瓶に生けながら、リサはこの日の献立を考えた。野菜は前の日に使った残りもあるしお肉はさっき買ってきたしと、頭の中で段取りを考えた。


「アルも好きよね?」

「うん。おかあさんのごはんすき」

「うーん。可愛いね、アル。アルはお母さんの天使よ」


 リサは小さな男の子を抱き上げてその頬にキスをした。




 三年前、黎明の羅針盤のメンバーを訪ねた後、ホルトンで暮らし始めたリサはしばらくゆっくり過ごそうと考えていた。だが時間が空くとローレンスの事を思い出してしまい、どうしても物思いにふける瞬間があった。

 自分から彼の元を離れると判断した以上、ここでまた一からスタートしようと気持ちを切り替えるように頭を振った。前にできなかったから、今度こそはと庭に花を植え畑も作った。
 のんびりできるように木陰の下にベンチを置いて、その横に小さな水瓶を置いて水草を入れたりもした。もちろん、完全なおひとり様生活を満喫するために、仲間や親しい人以外には見つけることもできないほどの結界を屋敷の周囲に張り巡らせた。
 リサの許しを得ていれば難なく辿り着けるが、そうでなければ見つける事すら敵わない。それにリサの結界を正面から破れる人間は滅多にいない。だからこそ、この結界内では自由気ままな生活が保証されていた。


 そんな感じでもうすぐ二ヵ月が過ぎる頃、リサは体調不良に陥り家の中で過ごすことが多くなった。

 庭の手入れをするのに少し動き過ぎて疲れが出たのかと思ったけれど、自分で治癒魔法をかけてもなかなかスッキリしない。

 ベッドに横になり、うとうととしながらふとあることに気が付いた。


 ―――もしかして


 リサはお腹に手を当てて、魔力の流れに集中した。そして自分のお腹の中に自分とは違う魔力の渦を感じて、思わず涙を流した。


 ―――ラリーの子……


 その事に気が付いて涙があふれてきた。


 愛した人との子供。

 もう会うことの叶わない彼の子供。

 そう思うと愛しくて嬉しくて、この小さな命を守って生きていこうと心に決めた。

  

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