【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

稲垣桜

文字の大きさ
上 下
28 / 63

27

しおりを挟む
 三日後には眠っている彼女の顔色もよくなり目覚めるのも近いだろうと感じていた。
そのラリーの考え通り、お昼を過ぎた頃に彼女の握る手に変化を感じて声をかけ続けた。


「リサ、リサ、聞こえるか?」

「ラリー…?」 

「リサ!俺がわかるか?」

「ふふっ黒髪のあなたも素敵ね」


 リサはゆっくりと腕を伸ばし、ラリーの黒髪に指を通した。その手に自分の手を重ね、ラリーは自分の視界が歪むのがわかった。


「なあに?ラリー。泣いてるの?らしくないわね」

「泣いてない。リサの目が覚めて、嬉しいんだ」


 ラリーはリサを抱きしめた。その手はわずかに震え、リサはそっとその腕に手を重ね、良かったと何度も繰り返すラリーに「迷惑かけちゃったね」と言ったが、ラリーはただ「愛している」と彼女にキスをした。


「レイが来たの?知らせてくれたのね」


 指にはめられた見覚えのある指輪を逆の手でさすりながら、懐かしい目を浮かべる。
 何かあった時の為にと魔道具に自分の魔力を込めたものを渡しておいたのだが、まさかこんなことで役に立つとは思わなかった。やはり、なんでもやっておくのもいいことだとリサは思った。


「ああ、リサに何かあったら容赦しないと脅されたよ。だが、彼の言うことも理解できるからな」


 リサの横に座り、彼女を抱き寄せたままそう話した。リサが倒れてから今までの出来事、そして自分の正体もなにもかもを全て打ち明けたのだ。


「ローレンスが本当の名前なのね。私たち、お互いの事何も話していなかったわね」

「そうだな。今からでもゆっくりと話していこう。だが、リサがあの伝説のパーティの一員とは思わなかった」

「別になりたくてなった訳じゃなくて、いつの間にかなってたのよ」

「リサが目が覚めない間、心配で仕方なかった。俺が怪我を負ったばっかりにこんなことになって、すまなかった」

「ラリーは?怪我は治ってる?」

「ああ、お前が治してくれたからな。感謝している。俺の一番大切なリサ……」


 ラリーはそのままリサを抱きしめて糸が切れたように眠りについた。
 リサが運び込まれてからほとんど眠ることなく彼女の側についていたからか、ここにきて緊張の糸が切れたのだろう。その眠った顔を見ながらラリーを助けることが出来たとわかり、ホッと胸をなでおろした。


「ラリー…あなたが無事でよかったわ」


 リサはラリーの髪を撫でながら、これからの事を考えた。
 幾分かの身分は持っているとは思っていたが、まさか王弟だとは思わなかったからだ。自分の身分は冒険者だ。国からするとSS級冒険者は並の貴族より高位とみなされてはいるが、リサは冒険者は冒険者なのだと思っていた。

 ラリーとのことは後悔してはいないし、正直言うとこのまま彼の側にいることは良くないのではと考えてしまう。とりあえずはラリーが目覚めてから、ゆっくりと話をしてもいいかもしれない。

 そんなことを考えながら、リサもまた眠りについた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...