【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

稲垣桜

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 すぐに駆け寄り、その男を昏倒させてラリーを抱える。


「ラリー!しっかりして!今、治すから!」


 彼の腹部に刺さるナイフを抜くと、場所が悪かったのか血が溢れるように流れ出て彼の服を真っ赤に染めた。
 彼の足元にも流れ出る血が深紅の絨毯のように広がっていく。

 リサは傷口に思い切り回復魔法をかけるが、最悪なことにラリーの魔力は高い。そうなると、この傷が治るまでリサの魔力が持つかどうか微妙なところだった。


「ラリー!聞こえる?ラリー!」


 傷に手を押し当てて必死に声をかける。そうしていると先ほどの女性が、背後に来ていることが分かった。
 自分もやられるかもしれないと一瞬悪い考えが浮かんだが、その女性は後ろで崩れ落ちるように座り込み、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り続けた。
 どうやら誰かに仕組まれたらしいとわかったので、男性と同じように昏倒させる。今はラリーの命のほうが大切だ。


 しかし、ラリーの状態はかなり悪く、魔力も血と一緒に流れ出るように消えていくのがわかる。すると彼の耳環が突然割れた。
 どうやら耳環が魔道具だったようで、それが割れると同時に彼の本当の姿が現れた。黒い髪の精悍な顔立ちをした青年だ。ラリーとどことなく似ているが、並べば同一人物とは思えない程の違いがあった。

 しかし耳環が割れたということは、何かしら負荷がかかったか魔力の供給が途絶えたということだ。それ以外の何かしらの仕掛けがあったのかもしれないが、その可能性は低いだろう。

 もし魔力供給が途絶えて割れたのであれば、この瞬間に思い切り魔力を注げば治る可能性もあるかもしれない。そう考えリサの頭の中では「それまで魔力が持てばいい」ただそれだけを考え、傷に魔力を集中させた。


「ラリー、絶対に死なせない」


 自分の魔力を練り上げ、濃いものにして傷口に集中し流し込んだ。
 元の状態を思い描きながら、損傷した箇所の修復にかかる。焦る気持ちを押さえながら集中が切れないように意識を一点に向けた。
 そのおかげかラリーの顔色も少し戻り、目を薄っすらと開ける。その瞳は濃い赤で、ラリーとは似ても似つかない色だった。


「リ…サ……」

「良かった、ラリー気が付いたのね」


 とりあえずは傷は塞がったようだが、まだ本調子には程遠いラリーを前にして、ホッとすると同時に自分の力が抜けるのがわかった。明らかな魔力切れだ。
 そして、とうとう認識阻害に回すほどの余分な魔力が無くなり、彼女の本来の姿が現れ始める。長いストレートの銀髪に、碧と赤紫のオッドアイがラリーのエリザベスの姿に。


「リサ……その、姿は……」

「ごめん…もう魔力が、持たない…みたい……グレンに、彼に、仲間に知らせてって……」


そう言い残し、リサはラリーの腕の中で意識を失った。


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