【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

稲垣桜

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 モントーネの温泉を出てガレーヌの町へ向かう道中で、これからの事を話した。

 ラリーはまだ自分の正体について話せておらず、いつ打ち明けようかと悩んでいた。
 リサもまた、自分の正体を言っていないことに後ろめたさを感じていた。


 しかし、相手にはそんなことを気付かれないように今まで通りの対応を心掛けた。ガレーヌまではまだ数日はかかるし、ゆっくりと移動を楽しむのもいいかと考えたりした。


「リサ…俺は一度王都へ戻るが、必ず帰ってくる。待っていてくれるか?」

「何度も同じことを言うのね?」

「できる事なら一緒に連れていきたいくらいだ」


 ふてくされるように言うラリーを見ていると、なんだか嬉しい気持ちが湧いてきた。
 そんなにも自分の事を思ってくれているのだろうかと、今まで感じたことのない気持ちに支配されていくのをリサは感じていた。だがそれが存外心地よく、胸が熱くなっていく。

 胸に手を当てながら視線を遥か前方へと向けると、なんだか嫌な感じがしてくるのを感じ目を凝らした。




「ねえ、あれ…盗賊?」


 視線の端にわずかな人影と、その奥の森の中に荷馬車が見えた。そして集中したリサの耳には助けてという声がわずかに届く。


「ラリー、助けなきゃ!」


 リサの言葉にすぐ動き出す。
 どうやら冒険者が護衛についていたようだが、瀕死の状態で道に倒れているのが見える。そのさらに奥に荷馬車があり、そこから街道へと走ってくる女性の姿も見えた。
 リサが手当てをしている間にラリーが荷馬車へと向かうことにしてその場で別れた。


「しっかりして!今、治すから」


 倒れている冒険者の怪我は結構ひどい。しかも魔力持ちらしく回復魔法をかけると魔力の消費がいつもよりも激しい。とりあえずは命の心配がない程度まで回復させて、街道の脇に寄せた。
 ラリーは盗賊が残っていたようで、今まさに交戦中のようだ。早く彼の元へいかなければと思いながら、逃げてきた女性の様子を確認する。

「お怪我は?」そう声をかけて、血を流している腕と挫いたらしい足に回復魔法をかける。「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返す彼女に「大丈夫」と声をかけてラリーの元へ向かった。どうやら荷馬車にはまだ人が残っているようで、リサは急いで向かった。


「ラリー!」

「リサ。もう大丈夫だ」


 そう言って振り返った彼の横には虚ろな瞳をした若い男性が、その奥には青い顔をした年配の男性の姿が見えた。襲われたのは商家の荷馬車らしく、二連立ての貨車には商品がはいっていると思われる箱がいくつも積まれていた。

 この馬車には護衛を含めると4名が乗っていたようで、今のところ全員命は助かったようだ。盗賊の下っ端と思われる数名は我先にと逃げ出して残りはラリーが制圧したようだ。

 助かった男性に手を貸して、リサが座れるようにと敷物を敷いた上に案内した。さっき治療した冒険者を迎えに行き、女性も一緒にラリーの元へと向かった。

 リサの視界にラリーが入った時、彼は年配の男性の肩を支えて座らせていたが、その後ろに立っている若い男性が虚ろな目をしてその手には、きらりと輝くナイフを握りしめているのが見えた。


「ラリー!」


 そう声をかけたがそれからは一瞬の出来事で、次の瞬間には男性のナイフは彼の脇腹に深々と刺さっていた。


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