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「はぁ~。チーズ美味しかったなぁ」
リサはソディアルの町で食べたチーズを思い出して呟いた。
「そんなに気に入ったのか?次の町でも美味しいものはあるから、我慢しろ」
リサの横顔を見ながらラリーは楽しそうにそう言った。
リサもわかっていてそう言ったのだが、思いのほかラリーが優しくて見直した。
そしてそのままラリーがこの次のことを話し始めた。
「リサ、今回は助かった。本当にお前が相棒でよかったと思う」
「なに言ってるの?別に変わったことしてないでしょ」
リサが普通の顔でそう答えるものだから、ラリーはそれ以上言うことはやめることにする。
リサにとってはこれくらいは普通の事なのだろう。一体、どんなパーティにいたのかと興味が湧いてくるほどだ。聞きたい気持ちはあるが、ギルド長からはその件に関しては口にしないことを約束させられていたので、帰ってから聞くことにしようと心に決める。
「わかった。もう言わない」
次の調査場所はパレス州だ。奴隷売買に関する事案なのだが、今回も上手くいくことを願っていた。
そしてパレス州に入り、事前調査でわかっている奴隷商の建物の近くに宿を取った。
この奴隷商が隠れ蓑に使っている建物は商店が立ち並ぶ商業区域の端に位置し、荷物の運搬に紛れて奴隷を搬入していると報告が上がっていた。
そもそも奴隷というものはこの国では違法なもので、戦争捕虜や攫われた貧民などが売買対象とされている様だ。
中には女性も多いようで、報告書に目を通して胸糞が悪くなるのを抑えることもできずに表情に出ていたようだ。
「リサ。顔が怖いぞ」
「だってラリー、こんなの酷いじゃない!」
「だから、しっかりと調査をして逃がさないようにする必要があるんだ。お前もわかるだろう?」
ラリーも辛そうに眉間にしわを寄せてリサの肩に手を置いて、気持ちを落ち着かせるようにポンポンと子供をあやすように肩に置いた手を動かす。
「絶対に許せない。人は物じゃないのよ」
ラリーは今までにないリサの怒った姿を見て心が痛んだ。
今更、この調査から手を引くような彼女じゃないこともわかっているし、思いきりやらせることが正しいのかも少し悩んでいた。
だが、ここで中途半端なことをすると、長い旅の間に培った信頼関係が無くなりそうで、手を引かせるような中途半端なことはしたくもなかった。
「リサ。落ち着け。この調査はほとんど終わっている。あとは現場を押さえるだけだ」
「じゃあ、すぐにでも行きましょうよ」
「それはだめだ。三日後に奴隷オークションが開かれる。そこに乗り込む」
「三日後?そんなに後なの?」
「リサが心配していることもわかるが、大丈夫だ。今回のオークションは規模が大きい。だからこの一週間は売買は行われないことが決まっている。それまでに一番効率のいい方法と配置を考えだすんだ」
「……わかった」
不満そうなリサをラリーは言葉を選びながら宥め、食事の時間だと言って町へと連れだした。
リサはソディアルの町で食べたチーズを思い出して呟いた。
「そんなに気に入ったのか?次の町でも美味しいものはあるから、我慢しろ」
リサの横顔を見ながらラリーは楽しそうにそう言った。
リサもわかっていてそう言ったのだが、思いのほかラリーが優しくて見直した。
そしてそのままラリーがこの次のことを話し始めた。
「リサ、今回は助かった。本当にお前が相棒でよかったと思う」
「なに言ってるの?別に変わったことしてないでしょ」
リサが普通の顔でそう答えるものだから、ラリーはそれ以上言うことはやめることにする。
リサにとってはこれくらいは普通の事なのだろう。一体、どんなパーティにいたのかと興味が湧いてくるほどだ。聞きたい気持ちはあるが、ギルド長からはその件に関しては口にしないことを約束させられていたので、帰ってから聞くことにしようと心に決める。
「わかった。もう言わない」
次の調査場所はパレス州だ。奴隷売買に関する事案なのだが、今回も上手くいくことを願っていた。
そしてパレス州に入り、事前調査でわかっている奴隷商の建物の近くに宿を取った。
この奴隷商が隠れ蓑に使っている建物は商店が立ち並ぶ商業区域の端に位置し、荷物の運搬に紛れて奴隷を搬入していると報告が上がっていた。
そもそも奴隷というものはこの国では違法なもので、戦争捕虜や攫われた貧民などが売買対象とされている様だ。
中には女性も多いようで、報告書に目を通して胸糞が悪くなるのを抑えることもできずに表情に出ていたようだ。
「リサ。顔が怖いぞ」
「だってラリー、こんなの酷いじゃない!」
「だから、しっかりと調査をして逃がさないようにする必要があるんだ。お前もわかるだろう?」
ラリーも辛そうに眉間にしわを寄せてリサの肩に手を置いて、気持ちを落ち着かせるようにポンポンと子供をあやすように肩に置いた手を動かす。
「絶対に許せない。人は物じゃないのよ」
ラリーは今までにないリサの怒った姿を見て心が痛んだ。
今更、この調査から手を引くような彼女じゃないこともわかっているし、思いきりやらせることが正しいのかも少し悩んでいた。
だが、ここで中途半端なことをすると、長い旅の間に培った信頼関係が無くなりそうで、手を引かせるような中途半端なことはしたくもなかった。
「リサ。落ち着け。この調査はほとんど終わっている。あとは現場を押さえるだけだ」
「じゃあ、すぐにでも行きましょうよ」
「それはだめだ。三日後に奴隷オークションが開かれる。そこに乗り込む」
「三日後?そんなに後なの?」
「リサが心配していることもわかるが、大丈夫だ。今回のオークションは規模が大きい。だからこの一週間は売買は行われないことが決まっている。それまでに一番効率のいい方法と配置を考えだすんだ」
「……わかった」
不満そうなリサをラリーは言葉を選びながら宥め、食事の時間だと言って町へと連れだした。
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