【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

稲垣桜

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「ケイトさん。来たわよ~」


 ギルドを出たリサは、約束通りにケイトの店へ寄った。ケイトの店は花や苗を扱い頼まれれば造園の仕事も請け負う、少し手広く商売をする花屋だ。
 時々花を買ったり苗や種を買うために寄っていたリサだが、ケイトの人柄に惹かれ買うものがなくても話をするためだけに訪れることが多くなっていた。

 もちろんこの日もそのおしゃべりが主な目的で、最近聞いたこととかを「情報交換ね」と言いながら笑いながら話して帰ろうとすると、店頭に飾られていた蕾を付けた鉢植えが目に飛び込んでくる。


「ケイトさん。この蕾は?チューリップ?」

「そうさね。お前さんの髪のような黄色い花が咲くよ」


 蕾の端が少し黄色く見えるから、もうそろそろ咲くのだろう。そう思うと花が咲くのを見たくなり、この鉢を買うことに決めた。

「ケイトさん。これ、買うわ」

「ありがとね。じゃあ、おまけにこれもやるよ。こっちは赤い花が咲くんだが、鉢が少し欠けたから売り物にするか悩んでいてね」

「そうなの?じゃあ、こんど何か作って持ってくるわね」

「リサちゃんの作るものは何でも美味しいからうれしいねえ」


 そう言って、その二つの鉢を持ちやすいように袋に入れてくれ、それを持って帰路に付いた。
  
  
  
 リサの家はガレーヌの町の中心部から郊外へと延びる道の途中からわき道を抜けた、森の中の目立たないところにある。そこに建っている こじんまりとした一軒家がリサの家だ。
 普通であれば、森の中での女性の一人暮らしほど危険なものはないのだが、リサの正体はSS級の冒険者で魔法が使える。だからこの建物周辺には侵入防止の結界を当たり前のように張ってあり、意図せぬ訪問者を心配することなく過ごすことができているのだ。
 
 
 リサは窓から外を眺めながら、この日にやることを頭に思い浮かべていた。

 窓の外は冬も終わり春を迎えたにもかかわらず殺風景で、かろうじて窓際に置かれたチューリップの鉢植えが春を告げている。


「この窓から見えるところに花の種でも植えようかな?」


 うーんと思案しながら、ギルド長に呼ばれて顔を出す予定もあるし、その時でもケイトに相談にのってもらおうと家を出た。


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