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第九章

201 第二回目の女子会

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 前回の女子会から一か月過ぎて、第二回目の女子会の開催が決まった。
 夏の長期休みに入る前に、もう一度…ということで決まったのだが、何度話をしてもどこへ行くかが決まらなかった。そしてようやく場所が決まりそうだ。


「“アキテーヌ”のカヌレはよかったわね。次は“シャルトル”に行かない?二階に個室があって、そこから見える風景が素晴らしいそうよ。それに、人の目を気にしないでゆっくりと話ができるわ」

「“シャルトル”はどんなお店なの?」

「軽食もあるのだけど、何といってもマカロンなのよ。色とりどりのマカロンが可愛いんですって」

「フィオナは可愛いものに目がないんだから」


 そして今週末、前回と同じようにアデライトが馬車で二人をピックアップして、町へいくことになった。




「筆記用具のお店に寄って、それから行きましょう」


 アデライトの言葉で立ち寄ったのは、重厚な造りが目を引く老舗の筆記用具店だった。
 数多くの品ぞろえと品質の良さから貴族の御用達も拝命している店で、店内にはペンから用紙まで、書くことに関係するもののほとんどが揃っている。
 ここへ来れば、必要なものはすべてそろうところなのだ。

 クラウディアも店内を回りながら、絵を書く為のスケッチブックと顔料を購入した。
 ふと見たメッセージカードの棚に、テオドールから花と一緒に届いたカードと同じものがあり、思わず懐かしくて手に取った。
 「テオはここで買ったのかな?」そんなことを考えると、思わず笑みが零れる。

 他のみんなも必要な物を購入し、店の外へと出ようとすると、また前回のように背後から声がかかる。


「ご令嬢方、これからどちらへ行かれるのですか?よろしければ、私もご一緒したいのですが」


 王都では、女性を口説くために声をかける人がいるので、そう言う類の人かと思ったのだが、もしそうなら護衛騎士が止めるはずだ。
 それがないということは、顔見知りという事なのだが、振り返るとそこに立っている人物に三人とも驚いた。


「レイナルド殿下!…」

「しーっ。お忍びだから、大きな声はダメだ」


 そう言って三人をエスコートし店の外へと出た。
 今日のレイナルドはいつもの銀の髪ではなく、濃い茶色に変わっているのだが、見覚えがあるそれは、認識阻害の魔道具なのだろう。


「レイナルド殿下、今日はどうされたのですか?」

「ん?実はね、君たちが出かけるのを小耳にはさんでね、仲間に入れてもらおうと思ってね」

「まあ、レイナルド殿下、ご冗談を」


 そう言って、ニコッと笑うのだが、少し意地悪な感じが否めなかった。


「君達、私のことは『レイ』と呼んでくれないか?さすがに名前でばれてしまっても困るしね。君達のことも、どう呼んだらいいかな?」


 アデライトもフィオナもレイナルドとこんなに近い距離で親しく話す機会はあまりないので、顔を赤らめている。


「では、私のことはアデラとお呼び下さい」

「私はフィーでいいですわ」


 皇太子から愛称で呼ばれることなど、通常ではありえないことなので、舞い上がっている様子が見て取れる。


「では、君は?」

「クラウでいいですわ。レイ様」

「様はいらないよ。だけで頼む。それで、これからどこへ行くつもりだったのかな?」

「今から“シャルトル”へ行くのですが、よろしければ、レイもご一緒に参りませんか?」


 アデライトは断られると思いながら誘ってみたのだ。こんな機会はないと積極的になれるのはアデライトの性格だろう。

「“シャルトル”か。いいね。では、ご一緒しよう」




 シャルトルはその場所から歩いて数分の距離にあり、緊張する間もなくあっという間に着いた。
 話していた二階の個室は前もって予約していたので、すぐに通され、ゆるやかな階段を二階へとあがった。

 案内された一番奥の部屋は少し広めで、片側は大きな開口部になっていた。そこから庭園が一望でき、聞いてきた通り素晴らしかった。
 石造りの建物と葉の緑と空の青、そして雲の白に咲き誇る鮮やかな花の色が織りなす初夏の風景に目を奪われた。


「この風景は素晴らしいね。いつまでも見て居られる」


 レイナルドの言葉にみんなが同じ気持ちだった。確かにこんな風景は王宮近辺でもなかなか見られないかもしれない。
 注文していた軽食とマカロンを店の女性が届けに来たが、座っているレイナルドを見て顔を赤らめていた。ここにいる三人も、レイナルドほどの美貌を持つ男性は、市井で見かけたことはないので、ここの女性がレイナルドに見とれるのも無理はないだろうと思った。

 店の女性が出て行ったあと、魔道具を外しいつもの色に戻ったレイナルドを見て「やっぱり美しい…」と思わず息を呑む。
 サラッとした銀の髪が、窓から差し込む太陽の光を受けて輝いている姿は、誰でも目を奪われるだろうと考えていた。


 軽食を食べて、そのマカロンを絶賛しながら、学園の事や今日行った店のことを話していると、フィオナが突然思い出したように声を上げる。


「あっいけない。お母様に頼まれていた用紙箋、忘れていたわ。私、取りに行ってくるから、ここで待っていてくれる?」


 フィオナは申し訳なさそうに言って立ち上がったのだが、そこにアデライトが「私もついていくわ。一人だと心もとないでしょうし。クラウはレイがいてくれるから大丈夫よ。お願いしてもよろしいでしょう?」と言って微笑んだ。
 その顔は、なんだか少し楽しそうな表情を浮かべていて、それを感じ取ったレイナルドは「私がお守りしますよ。安心して取りに行ってきてください」と嬉しそうに返事をした。



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