210 / 213
第九章
200 ため池決壊対策
しおりを挟む
テオドールの担当は、国内の貯水池の決壊と洪水の発生の阻止ということだが、それがなかなかに難しい問題だった。
目の前に王国の地図を広げ、土地の高低差や水量、そして川の流れや天候など、色々な要素を調べ出して書き出し、資料として渡された(クラウディアが書き込んだ)地図を見ながら照らし合わせる。
今、王国内にある貯水池は100以上あるが大型に絞ると18か所で、今年はどこも7~8割の貯水率で推移しているらしい。そのどれもが決壊するような感じはないが、実際に見に行く方が確実だ。その他にも洪水の可能性のある場所も確認したい。そう頭の中で情報を整理していた。
「ここは、降った大量の雨が一気に流れ込むと、川の水量が多くなるだろう。隣の州の川幅が狭く曲がったここでは堤防は大丈夫か?」
「ここは確かに大雨の時は危険水位に達していることが記録されているが…」
「では、幅の拡幅を進めた方がいいか?」
その地域の降水量や貯水池の様子を調べてみるが、ここ数十年もの間、被害のないことが伺い知れる。
「ここも見てくるか…」
各地を見回っていく間に、その地方に伝わる話を耳に挟んだ。
はるか昔、この地方は雨が降らなかったのに、一晩で川が増水し川が氾濫したと伝えられているという内容だった。それを記録するように石碑が置かれているとのことだが、その石碑は古く、刻み込まれていた文字は劣化し見えなくなっていた。
「村長、その洪水はいつの話かわかるのか?」
「わしの、爺さんの爺さんのその前くらいかのう?大体150年は経っておるかもしれん」
「そんなに前の事か?」
「その間は一度も洪水は起きてはおらんが、もし今起きれば、王都への物流は、半分以上は止まる可能性はあるのう」
テオドール達は調査のために宿泊している部屋へ戻り、地図を広げて聞いたことを確認し始めた。
「さっきの村はここだろう?この川の上流は…ここだな。この地域は、雨の降る量は多いのか?」
手元にある数多くの書類を片っ端から確認しながら、必要な事は書き込んでいった。
「その辺りはここ数年、雨が少ないようです。川幅が広い分、下流の渇水にはなっていないようですが、この状態が続き干ばつになると雨の状態にも寄りますが、鉄砲水の可能性も排除できないかと」
「テオドール殿、この資料としてもらった地図の書き込みは素晴らしいですな。降水量の予想量や、地形、高低差なども考慮されて、このまま治水工事の基盤にもなりそうなほど詳細に調べられています。どなたが書かれたのですか?」
「それはあくまで資料として渡されたものなのだ。誰の手によるものかは聞いてはいない」
「そうですか…一度会って話をしたいものですね…」
「今度聞いておこう。それと地質と気象に詳しい人間を現地に派遣する手配もだな」
そんな時、カディネ州のトラン近郊にある貯水池付近で最近、怪しい行動をしている集団がいるとの報告を受け、テオドール達は急遽、現地へと入った。
潜入捜査をすることになったのだが、テオドールの黒髪は目立ちすぎる為、ネイサンが代わりにその役目をすることとなった。
彼は宰相直轄の組織の一員でもあり、こういう潜入行動は得意分野だった。今回もいつものようにその集団に近付いっていったが、慣れているようで、すぐにその集団にもぐりこんだ。
そして必要な情報を手に入れることができたようで、口の軽い人間には感謝だと後から話していた。
「それは事実か?」
「時期は収穫の時期に合わせるようだが、まあ、彼らは下っ端で確実な日程は知らないらしい。しかし、話から収穫祭が行われる前1カ月以内とみて間違いないだろう」
「それならまだ3カ月あるな…では、私は一度、王都へ戻る。そのまま見張っててくれ」
彼が手に入れた情報は、トランにある最大の貯水池の一角を人為的に決壊させ、特産の薬草や収穫間近の作物を冠水させ、大規模な被害を与えることが狙いなのだという計画だった。
そんなことをして何の得があるのだろうかと思うのだが、今はその理由よりも阻止の方が大事であり、捕らえてから理由を問い質せばいいと考えた。
テオドールはすぐに王都へと出発し、その後の手はずを整えるために。
目の前に王国の地図を広げ、土地の高低差や水量、そして川の流れや天候など、色々な要素を調べ出して書き出し、資料として渡された(クラウディアが書き込んだ)地図を見ながら照らし合わせる。
今、王国内にある貯水池は100以上あるが大型に絞ると18か所で、今年はどこも7~8割の貯水率で推移しているらしい。そのどれもが決壊するような感じはないが、実際に見に行く方が確実だ。その他にも洪水の可能性のある場所も確認したい。そう頭の中で情報を整理していた。
「ここは、降った大量の雨が一気に流れ込むと、川の水量が多くなるだろう。隣の州の川幅が狭く曲がったここでは堤防は大丈夫か?」
「ここは確かに大雨の時は危険水位に達していることが記録されているが…」
「では、幅の拡幅を進めた方がいいか?」
その地域の降水量や貯水池の様子を調べてみるが、ここ数十年もの間、被害のないことが伺い知れる。
「ここも見てくるか…」
各地を見回っていく間に、その地方に伝わる話を耳に挟んだ。
はるか昔、この地方は雨が降らなかったのに、一晩で川が増水し川が氾濫したと伝えられているという内容だった。それを記録するように石碑が置かれているとのことだが、その石碑は古く、刻み込まれていた文字は劣化し見えなくなっていた。
「村長、その洪水はいつの話かわかるのか?」
「わしの、爺さんの爺さんのその前くらいかのう?大体150年は経っておるかもしれん」
「そんなに前の事か?」
「その間は一度も洪水は起きてはおらんが、もし今起きれば、王都への物流は、半分以上は止まる可能性はあるのう」
テオドール達は調査のために宿泊している部屋へ戻り、地図を広げて聞いたことを確認し始めた。
「さっきの村はここだろう?この川の上流は…ここだな。この地域は、雨の降る量は多いのか?」
手元にある数多くの書類を片っ端から確認しながら、必要な事は書き込んでいった。
「その辺りはここ数年、雨が少ないようです。川幅が広い分、下流の渇水にはなっていないようですが、この状態が続き干ばつになると雨の状態にも寄りますが、鉄砲水の可能性も排除できないかと」
「テオドール殿、この資料としてもらった地図の書き込みは素晴らしいですな。降水量の予想量や、地形、高低差なども考慮されて、このまま治水工事の基盤にもなりそうなほど詳細に調べられています。どなたが書かれたのですか?」
「それはあくまで資料として渡されたものなのだ。誰の手によるものかは聞いてはいない」
「そうですか…一度会って話をしたいものですね…」
「今度聞いておこう。それと地質と気象に詳しい人間を現地に派遣する手配もだな」
そんな時、カディネ州のトラン近郊にある貯水池付近で最近、怪しい行動をしている集団がいるとの報告を受け、テオドール達は急遽、現地へと入った。
潜入捜査をすることになったのだが、テオドールの黒髪は目立ちすぎる為、ネイサンが代わりにその役目をすることとなった。
彼は宰相直轄の組織の一員でもあり、こういう潜入行動は得意分野だった。今回もいつものようにその集団に近付いっていったが、慣れているようで、すぐにその集団にもぐりこんだ。
そして必要な情報を手に入れることができたようで、口の軽い人間には感謝だと後から話していた。
「それは事実か?」
「時期は収穫の時期に合わせるようだが、まあ、彼らは下っ端で確実な日程は知らないらしい。しかし、話から収穫祭が行われる前1カ月以内とみて間違いないだろう」
「それならまだ3カ月あるな…では、私は一度、王都へ戻る。そのまま見張っててくれ」
彼が手に入れた情報は、トランにある最大の貯水池の一角を人為的に決壊させ、特産の薬草や収穫間近の作物を冠水させ、大規模な被害を与えることが狙いなのだという計画だった。
そんなことをして何の得があるのだろうかと思うのだが、今はその理由よりも阻止の方が大事であり、捕らえてから理由を問い質せばいいと考えた。
テオドールはすぐに王都へと出発し、その後の手はずを整えるために。
2
お気に入りに追加
266
あなたにおすすめの小説

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。
木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。
その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。
ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。
彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。
その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。
流石に、エルーナもその態度は頭にきた。
今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。
※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から愛を押し付けられる
当麻月菜
恋愛
侯爵令嬢のマリアンヌには二人の親友がいる。
一人は男爵令嬢のエリーゼ。もう一人は伯爵令息のレイドリック。
身分差はあれど、3人は互いに愛称で呼び合い、まるで兄弟のように仲良く過ごしていた。
そしてマリアンヌは、16歳となったある日、レイドリックから正式な求婚を受ける。
二つ返事で承諾したマリアンヌだったけれど、婚約者となったレイドリックは次第に本性を現してきて……。
戸惑う日々を過ごすマリアンヌに、兄の護衛騎士であるクリスは婚約破棄をやたら強く進めてくる。
もともと苦手だったクリスに対し、マリアンヌは更に苦手意識を持ってしまう。
でも、強く拒むことができない。
それはその冷たい態度の中に、自分に向ける優しさがあることを知ってしまったから。
※タイトル模索中なので、仮に変更しました。
※2020/05/22 タイトル決まりました。
※小説家になろう様にも重複投稿しています。(タイトルがちょっと違います。そのうち統一します)

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

モブなので思いっきり場外で暴れてみました
雪那 由多
恋愛
やっと卒業だと言うのに婚約破棄だとかそう言うのはもっと人の目のないところでお三方だけでやってくださいませ。
そしてよろしければ私を巻き来ないようにご注意くださいませ。
一応自衛はさせていただきますが悪しからず?
そんなささやかな防衛をして何か問題ありましょうか?
※衝動的に書いたのであげてみました四話完結です。

悪役令息、拾いました~捨てられた公爵令嬢の薬屋経営~
山夜みい
恋愛
「僕が病気で苦しんでいる時に君は呑気に魔法薬の研究か。良いご身分だな、ラピス。ここに居るシルルは僕のために毎日聖水を浴びて神に祈りを捧げてくれたというのに、君にはがっかりだ。もう別れよう」
婚約者のために薬を作っていたラピスはようやく完治した婚約者に毒を盛っていた濡れ衣を着せられ、婚約破棄を告げられる。公爵家の力でどうにか断罪を回避したラピスは男に愛想を尽かし、家を出ることにした。
「もううんざり! 私、自由にさせてもらうわ」
ラピスはかねてからの夢だった薬屋を開くが、毒を盛った噂が広まったラピスの薬など誰も買おうとしない。
そんな時、彼女は店の前で倒れていた男を拾う。
それは『毒花の君』と呼ばれる、凶暴で女好きと噂のジャック・バランだった。
バラン家はラピスの生家であるツァーリ家とは犬猿の仲。
治療だけして出て行ってもらおうと思っていたのだが、ジャックはなぜか店の前に居着いてしまって……。
「お前、私の犬になりなさいよ」
「誰がなるかボケェ……おい、風呂入ったのか。服を脱ぎ散らかすな馬鹿!」
「お腹空いた。ご飯作って」
これは、私生活ダメダメだけど気が強い公爵令嬢と、
凶暴で不良の世話焼きなヤンデレ令息が二人で幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる