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第九章
196 フェストの終わり
しおりを挟むそしてトーナメント1回戦が始まった。
今年はテオドールやニコラスの様な、飛び抜けて強い参加者はいなかったが、その中でローラントはかなりの実力者に入るようだ。
しかし、20歳以下の部には、他国からも腕に自信のある参加者が多数出場している為、今年の優勝は難しいだろうとテオドールが話してくれた。
「ローラントももう少し早く本気でやっていれば、今回の優勝も狙えただろうが、まだ少し届かないだろう…そして、あの彼が今日の優勝候補だ。少し荒っぽいが、自分の体格を生かした戦い方をする。皆とは違うタイプだろうが、よく見ておくといい」
テオドールがそう言って会場の参加者を指差した。
今、対戦している一人が今回の優勝候補らしい。他国からの参加者だが、今年20歳で傭兵として活動している人物らしい。
体つきも鍛えられているのが服の上からもわかるほど、肩幅も胸板も他の参加者より発達しているようだ。
さすがにテオドールほどの実力があると、見るだけでもその人物の強さがわかるのだろうか。クラウディアには到底無理なことなのだが、そう言われたみんなは食い入るようにその対戦を見ていた。
トーナメントは番狂わせもなくサクサク進み、20歳以下の決勝にローラントが進んだ。これはテオドールにとっても少し予想外だったようで、嬉しそうに会場のローラントを見つめている。
もちろん相手はあの優勝候補の人物で、ローラントとは相性は悪くはないものの体格差がかなりある相手だった。
「ローラントもよくここまで進んだな。来年も楽しみだな」
「来年はテオドール殿も出場されるのですか?」
「騎士団の方で問題があれば見送ることになるが、参加する予定だ。ウィルバートの義務のようなものだな」
そう言ってテオドールはクラウディアに視線を向けていた。できれば見に来てほしいと思いながら彼女を見つめていた。
「試合が終わったら君達はどこへ行くのかな?」
テオドールが今日のこれからの予定はどうなのかを聞いてきたので、町に行こうと思っているのだが、荒っぽい人が多いので悩んでいる事を告げるとテオドールは「では、私も一緒に行こう。令嬢達の護衛になるだろう?」と申し出た。同じ公爵家とはいえ、年代の違うテオドールとこんな風に交流できることはそうないのだから、願ってもみない申し出だった。
トーナメントも終わり、会場の外へと出て街の散策をするために貴賓室を出て外へと出ると、決勝で負けてしまい準優勝だったローラントが着替えを済ませて慌てて出てきた。
「ローラント、残念だったな」
リオネルがローラントに声を掛けて、健闘を称えるように肩を抱いた。
その姿をが横から見ていたクラウディアは『青春だなぁ』とまるで年寄りの目線で見てしまい、正直ごめんなさいと思っていた。
そして会場を出る時に「クラウディア嬢、手を…」と言ってさりげなく手を差し伸べ、外への道中のエスコートを申し出たのだが、面白くないのはリオネルだった。
「クラウディア、みんな待っているから行こう」
そう声を掛けて、あえて邪魔をしようとしたのだが、テオドールに遮られる。
こういうところは経験豊富な年上の方に軍配が上がるのだろう。強引にではないものの、そのスマートな姿と立ち位置はリオネルが入り込む隙はなかった。
「ディア、今日の姿も綺麗だな。リオネルも放っておきたくないのだろうな」
ニヤッとしながら耳元でそんなことを言うので、クラウディアは慌てて周りに聞こえていないかを確認してしまった。それほど大胆な行動だったのだ。
幸い、誰にも聞かれていないようで、ソレをわかっての行動のようだ。
「もう…やめてよね」
ドキドキしながらテオドールを見るのだが、どう見ても楽しんでいるようにしか見えない。
どうしてニコラスもテオドールもこういう場面では自分を揶揄うのだろうかと考え込んでしまった。
「どうしてだ?思ったことを言うくらいいいだろう?」
そしてその日はテオドールがいることで、面倒事が起きる事もなく、みんなでフェストを楽しんだ。この町でのテオドールの存在感、人間性、飛び抜けた人気をこんなに感じた日はないと思ったのだった。
領主の息子という事で、頻繁に町へと出掛けて交流しているということが、今の関係に至ったのだろう。次期領主として、間違いない人望があり、尊敬を集めているのは想像に難くなかった。
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