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第九章
195 ウィリヴァルト・フェスト
しおりを挟む「クラウ、準備はできた?そろそろ行くよ」
今日は学園の食堂で話をした通り、みんな揃って公爵家の領地でのフェストを回る第1回目。ウィルバート領のウィリヴァルト・フェストへ行く日だ。
ジェラルドとアルトゥールもいっしょに行くので、クラウディアに対する過保護っぷりが、いかんなく発揮されることだろう。
「では、行きましょう、お兄様」
「今日は…離れるなよ。まぁ、大勢だから迷子にはならないと思うけど、気を付ける事!いいね?」
「まあ、もう迷子などなりません。お兄様ったら」
アルトゥールから念を押され、以前のファロ・ルス・フェストでの出来事を思い出した。
攫われた時に助けにきてくれた、あのリオネルの顔はクラウディアの脳裏に今も焼き付いている。さすがにそんなことはもうないだろうが、その事を知らない兄達は、どんな小さなことでも心配でならない。もし知っていたなら、フェストに行かせるようなことは許可しなかった可能性すらあるだろう。
「これでみんな集まったね。始まるまで時間もあるし、どこに行く?」
マラカイトグリーンの長い髪が風にたなびき、柔らかな表情を浮かべるジョスランが、みんなが集まったことを確認して声をかけた。彼のブルーラベンダーの瞳が彼の優しさを表しているようだった。
「ローラントが出るトーナメントまでまだ時間はあるんだろう?」
「そうだな。軽く食べておくか?」
会場へ行く前にオープンテラスがある店に入り、周囲の視線を浴びながらこの日の予定を確認した。
公爵家の各家にはそれぞれの特色が受け継がれている。
クロスローズは輝くような金の髪に瑠璃の瞳を持ち、デフュールは燃えるような赤い髪と煌めく赤い瞳。そして、ウェルダネルは稲穂のような金茶の髪にターコイズの瞳。ラファーガは孔雀石のようにメッシュの入ったマラカイトグリーンの髪にブルーラベンダーの瞳、グレイシアは真夏の深い海のようなコバルトブルーの髪にローズピンクの瞳、ウィルバートは夜の闇のような漆黒の髪と瞳を持っている。
そしてその色だけでなく、容姿も他とは比べ物にならない程、整っていて、一言で言えば、眉目秀麗、容姿端麗で言い表せるのだ。
その為、今回のウィルバート領で8名もいっしょに歩くなど、通常はありえないことで、周囲の注目を浴び、熱い視線を浴びているのだが、本人たちはいつもの事なので気付いていない。
この時期は、フェストの特性上、町の中には国内外の騎士や傭兵などの荒っぽい人が大勢押し寄せるので、見目の整った若い男女が多数とはいえ、護衛がいるとしても街の中を散策することはリスクが多少なりともある。そう考えて、安心を考慮し今回は会場から離れた場所を選んだ。
オープンテラスで軽く食事を済ませてからトーナメントが始まる時間に会場へ入ると、ローラントが貴賓席に場所を準備してくれていたので、皆でその場所に座った。
この貴賓席は会場の全座席からも良く見える作りになっているので、見るからに高位貴族である人たちが座ったことで、会場の熱気も上がっているようだった。
この場で活躍をすれば、貴族の屋敷で召し上げられる…などということも良くある事なので、出場者は気合が入るのだ。
「去年は色々とあったからな」
ジェラルドが去年のフェストのことを話し始めた。
「そうだったな。クラウディアがテオドール殿から花を貰うなど、本当に吃驚したよ」
「その話、詳しく聞きたいわ。ねえ、クラウ?」
ニコッと笑うアデライトとフィオナを目の前にして、クラウディアは自分の顔が引きつりそうになるのを感じた。
あの時は、優勝したテオドールから花束を貰って、その後、ウィルバートの屋敷で…と思い出して赤面しそうになるクラウディアだった。
話す事と言っても何もないのだが、彼女たちはとてもロマンティックなことを想像しているような表情を浮かべている。
「え…話すって言っても、別に何も…」
そう言葉に詰まっていたのだが、ジェラルドがその時のことを話し始めるのだから、何ともいたたまれない。クラウディアは、事細かに話す兄の姿がこの時ほど恨めしいと思ったことはなかった。
「私も見たかったわ~。テオドール様の雄姿。優勝者から跪いて花を贈られるなんて素敵よね」
目をキラキラと輝かせながらアデライトとフィオナが盛り上がっている姿を見ながら、少し冷静になる。これ以上は話を続けると、自分の心がガリガリと削られていく気がしてならない。
「今回の優勝者もどなたかに差し上げるのかしら」
フィオナがうっとりする顔をして会場を見渡したのだが、そう言い終わるかどうかの時に貴賓席に入ってくる人影とその人物の発言にみんなが驚いた。
「これは公爵家の皆さん。ようこそデュラヴェルへ」
声のする方向に顔を向けると、そこにはテオドールの姿があり、皆で驚いて顔を見合わせる。
「テオドール殿」
アルトゥールが真っ先に話しかける。その顔には驚きと喜びが合わさっているようで、ここでテオドールに会えたことが嬉しかったようだ。
「ローラントが友達を連れてきたと聞いてね」
フェストの主催者一族として正装に身を包み、いつもとは違う感じで立つテオドールに目を奪われる。それほど素敵だった。
騎士の服装に身を包んでいる姿もいいが、こういう姿もなかなかに似合っている。そしてクラウディアと目が合うと、ニコッと笑いながら近付いてきてその手を取る。
「これはクラウディア嬢。今日はあなたに会えるとは思っていませんでした」
「まあ、テオドール様はお上手ですわね」
周囲の目もあるので、クラウディアとして対応するのだが、それは向こうも同じようでテオではなくテオドールとしての姿を見せている。
その姿を見て、リオネルの心中は穏やかではなかった。
昨年のカトゥリエの森の一件から、テオドールのことを更にライバル視しているのだから、その気持ちもわからないでもない。
「テオドール殿は、今年は参加されないのですか?」
アルトゥールがテオドールの横へ座って話を始めた。
どうやら今年は仕事の都合で朝方帰ってきた為に、参加はしなかったらしい。彼が出場していれば、また優勝だっただろうと皆が口々に話す。
今年は出ないと言っていたローラントが参加することになり、その雄姿をみんなで見ようと待っているのだが、クラウディアからするとローラントもかなりの実力者だと思うので、優勝の可能性は十分あると思っている。
ローラントはニコラスやテオドールと一緒に練習をするようになってからというもの、メキメキと実力を上げたので、もっと早くに一緒に練習をしていれば、さらに強くなっただろうと思っていたのだ。
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