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第九章
194 試作品
しおりを挟む「ディア、これからどうするの?」
「うーん、もう少しやりたいかな?」
今いる場所は、まだ借りていられるようなので、せっかくだからともう少しやっていこうと考えた。サラも残ってくれるなら、それはそれで言う事もない。
「実はね、面白いものを作ったのよ」
そう言って、クラウディアは指輪とバングルを見せた。ついこの間出来上がった試作品なのだが、一度試してみないとその出来がわからないので、試すことも考えて、ここぞとばかりに持ってきたのだ。
「まだ試作品なんだけど、一回使ってみたくて」
クラウディアが手荷物魔道具を見て、テオドールが何かに気付いたらしい。
「それ、コルビーが作ったのか?」
「コルビーにも手伝ってもらったけど、メインは彼の叔父さんのブレイズだよ。身体強化の時の補助魔道具なんだよね」
ニコラスはクラウディアが言った名前を聞いて、以前に会った彼の顔を思い出して胸がもやもやとするのを感じた時には声をかけていた。
「それを使ってやってみるか」
「ニックが相手してくれるの?やる!」
そして二人で鍛錬場の真ん中へ行き、向かい合って声をかけた。
「今日は、前のように倒れないからね?覚悟してよ」
「その魔道具、興味あるな。俺の知らないところで男と会ってるって気に入らないがな」
そう言った彼の何とも言えない視線が、若干、怖い。だが、そんなことを気にしている場合ではない。
指輪をはめた手を頭上へ掲げ、指輪とバングルに魔力を通した。
すると、それと同時に魔術陣が展開しはじめる。
「詠唱なしでできるようにしたのか?さすがグリーン一族は優秀だな」
「設計したのは私だから、優秀なのは私かしら」
揶揄うようにそう言って視線を交わし、魔術陣の展開が終わったのを確認してカン!と高い音がして剣が交わった。
この魔道具を使ってもニコラスの足元にも及ばないが、実力のある相手との対戦は楽しいのだ。自分の弱いところも教えてくれるし、良いところも教えてくれる。
「思い切りいく!」
クラウディアの一声はニコラスも気合を入れた。彼女が設計した魔道具であれば、甘く見ない方が良いと考えたからだ。
「だいぶん上達しているな」
「そうかしら?努力が実ったってこと?」
力技でニコラスに勝てない分スピードでそれを補おうとするが、それでも元のレベル差がとんでもなくあるので、頑張っても追いつくくらいしかできない。それも、追い付いているかどうか、それすら怪しいと思っていた。
「もう終りか?今度はこっちから行くぞ」
ニコラスの言葉通り、彼から攻撃が容赦なく繰り出される。だが強化をかけている分、クラウディアもまだ対応できる範囲だ。それに体力回復をかけている効果もあって、まだまだ動ける実感もある。
「まだ!!絶対ニックには負けない!!」
間近で視線が交わりそう言い放ったものの、ニコラスはそれをニヤッとした笑いで返した。
「じゃあ、勝った方が負けた方の言う事を1つ聞く。それでどうだ?」
「わかった。それでいいわ」
なんとも分の悪い約束をしたが、その事に気が付かないクラウディアだ。そもそも負ける気持ちがないからそんな約束が出来たのだろう。
そして、その約束をしたことでお互いに気合が入った。何を…という事は一切思いつかないのだが、ただ、今以上に気合を入れるための原動力にするために言った感じもしていた。
カン、カンと剣の音が響く中、周囲の視線が二人に集まる。
遠巻きに見ていた当主達の中からこういう会話が聞こえてくる。
「ベイリー、クラウディアは面白いものを使っているな」
クリストフがベイリーにそう言った。
彼が知るクラウディアは薬草を調べているような知的な方面に特化した姿だから、こうやって剣を振るっている姿は新鮮だった。
「ああ、あれかい?私も試したが、なかなか楽しいよ。そうだね、ランベール」
「補助があるにしても、ニコラス相手にあそこまで、できるのはすごいな」
「まあ、彼も相当、抑えているだろうが、それを加味してもクラウディアは頑張っているね」
公爵家当主達のクラウディアへの評価は元から高かったが、今回のニコラスとの対戦でそれがさらに上がったようだ。
「クラウディアも今年から学園生だね。今まで表に出ていなかったから、大変らしいじゃないか。なあランベール」
少し冷たい、刺さるような視線を受けて、ランベールが口を開く。
「言いたい事はわかるが、それは私の知らぬことだ。あえて言うなら、他にあるのではないか?」
ランベールは、おそらくリオネルの事を言っているのだろうと気が付いたが、それよりもレイナルドやテオドールの方が重要視すべきことではないかと思ってそう反論したのだ。
「まあ、クラウディアもまだ1年だ。なにもかも、これからじゃないかな」
「ディア、そろそろ終わりにするか?」
「嫌よ!こんな楽しいこと止められない」
クラウディアは笑顔を浮かべたまま更に攻撃を仕掛けるが、ニコラスにはどうしてこうも通用しないのだろうかと思うほど、あっさりと防がれる。
「仕方ないな」
ニコラスもまた楽しそうに笑顔を浮かべて、その一言を口にしてクラウディアの剣をあっさりと弾き飛ばした。
「はぁ~負けたぁ」
剣を拾ってから彼女の手を取り、クラウディアに優しい表情を浮かべて声をかけるが、その表情は当主達からは見えない角度だ。そういうところは気を使っているのだろう。
「残念だったな。俺に勝つのは、まだまだ早い」
意地悪そうにそう言うが、何が良くて何が悪いのかを事細かにクラウディアに教えてくれ、その姿は正に教官のような感じがするほど、真面目で格好良い。
「わかったか?これは気を付けた方がいい。お前はいつも詰めが甘いからな」
クラウディアもニコラスから指摘されたことを納得はするもののいつもと念を押されると、とても気になり聞かずにはいられなくなる。
「そんなにいつも?」
「そうだな。俺とやるときはいつもだな」
笑いながら頭をポンポンと叩いてくる彼の姿をクラウディアは恨めしそうに見た。
「俺の時もそうかもしれないな?」
「そう言われたら、私の時もかな?ディア、これで弱点がわかったわね。次回まで克服しなきゃだめよ」
テオドールとサラにまで言われてしまい、少しショックを受けたクラウディアだった。
そろそろ時間になるのか当主達も鍛錬場を後にするのが見えたので、クラウディア達も片付けて外へと出ることにした。
その時にテオドールとサラがジークフリートに呼ばれていったので、ニコラスと二人で先にその場を出ていくことにした。これからの事でも話すのだろう。
「ディア、さっきの約束、覚えてるか?勝ったのは俺だから…」
意味有り気な笑みを浮かべ、クラウディアを見つめる。
「わかってるわ。私が負けたんだから、何でも聞くわよ」
「前にテオと行っただろう?だから、今度は俺と行かないか?」
「町へ?いいけど、どこに行くの?」
「そうだな……ディアはどこか行きたいところはあるか?」
誰か見ているかもしれない場所で、優しい表情を浮かべ、さらにこの距離の近さは誰が見てもダメだろう。
「ちょっとニック、近いよ!誰かいたらどうするの?」
「気にならない…」
自身の腕の中に彼女を収め、そっと額に口付けをした。小さな声で、愛してる…、と囁いて。
外から誰か来るような気配がして、クラウディアは心臓が跳ねる。
だがニコラスは優しい笑みを浮かべたまま、まだクラウディアを腕に収めたまま優しい視線を向けているのだから、クラウディアは焦っていた。
「ニック、ディアを離せ。油断も隙もない」
テオドールに言われてニコラスは嫌そうな顔をするが、サラが、いいじゃないの、とニコラスの味方をする。
どうやら誰が近付いていたのかはニコラスからはわかっていたようだ。だから焦ることもなく、クラウディアの姿を見ていたのだろう。
「サラ、お前は…」
兄の味方をしない妹に対して呆れて声も出ないテオドールの姿は、見る人が見ると可哀そうなのかもしれない。でも、どこから見ても仲の良い兄妹なのだ。
「ディア、帰ろう。ほら、兄さんも、そんな顔しないの」
「ニックもテオもこれから忙しいんでしょ?気を付けてね」
「時間が出来たら、練習に参加するから」
そう言って、ニコラスとテオドールが来た道を戻るように帰る姿を見送り、クラウディアはサラと一緒に部屋に戻り、今日の事を話ししながら帰った。
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