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第九章

187 王立図書館にて

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 王立図書館は学園の隣に位置し、学園の生徒は届け出を出すことでいつでも利用できるようになっていた。
 王立と名の付くだけのこともあり、蔵書の数は国内一で禁書の類も管理されているのだが、その中には数多くの禁書も含まれていた。

 そして本を読む時間をゆっくりと過ごせるような小さな個室から、調べ物をしやすいように大きな机が置いてある大き目の個室まで至れり尽くせりの図書館だった。

 クロスローズの屋敷やセグリーヴの屋敷にある図書室の蔵書数も多い方だが、王立図書館に敵う訳もなく、クラウディアにとって、新たな発見があるかもしれないこの図書館に訪れるのが日課になっていた。



 その日の学園はお昼過ぎに終わり、クラウディアはゆっくりと王立図書館へ過ごそうと決めていた。
 お昼過ぎからならゆっくり過ごしても日が暮れる前には帰れるだろうと考えていた為、学園からすぐ図書館へと向かった。

 建物に入ってすぐのところに、図書館の受付があって司書もいるのだが、その日は姿が見えなかった。
 だが、クラウディアも仕事中なのだろうと特段、気を留めず、いつも通りに二階へと向かった。

 いつもより時間があるので、数冊の本を手に取り机のある部屋へと向かった。この部屋はいつもクラウディアが使っている部屋で、大きな窓があり、図書館の前の通りや、向こうの側に広かる森も良く見える部屋なのだ。そこで十数冊の本を机の上に並べ、時折外を見ながら目を通し始めた。


 今回選んだ本は最近納入されたものだったらしく、クラウディアも初めて見る本だった。それらについつい見入ってしまい、あっという間に時間が過ぎていった。


 実はこの日、図書館で働いている職員総出で、貴重な蔵書の寄贈申し出があった貴族の屋敷へ出向くことになっており、夕方に閉館することになっていた。
 その為、受付で訪れた人に閉館時間の変更を直接声をかけて伝えていたのだが、クラウディアが館内に入った時には受付にはその姿はなかった。
 クラウディアが訪れる少し前…とある侍女が司書を呼び出し、クラウディアにその情報を耳に入れないように画策したのだった。
 図書館に通っているクラウディアに対して、意地悪をしようとする一部の令嬢達の仕業だった。

 そして閉館少し前にも、二階に人はいなかったと告げ、二階への通路を閉鎖させていたのだった。




 そんな事とは知らないクラウディアは、新しい本を読むことに真剣になり、あっという間に日が暮れ、窓の外には夜の帳が下りていた。


「あっ…いけない、集中し過ぎたわ」


 暗くなる前には帰るつもりでいたため、メアリにも行先を告げていないことを思い出し、慌てて片付けの準備を始めた。
 帰る前に棚に戻そうと数冊手に持って部屋を出たが、いつもは開いている階下への扉が閉まっている事にようやく気がついた。


「うそ…どうして閉まってるの?」


 二階は一階と違って貴重な専門書籍が多いため、閉館時は他の階に続く扉は施錠される。そのこと知っていたため、扉が開かないということは図書館全体が閉まっていることを意味していた。


「はあ…失敗した。どうやっても開かないよね。諦めた方がいいのかな」


 そう考えて窓から外を見た。
 通常なら馬車も通るのだが、この日は学園も早く終わっている為か、その馬車も通らない。ここに居ることを誰かに気付いてもらうことは無理だと思われたのだ。
 魔法で…と考えても、そもそもこの場所では魔力は制限されているので、これだという方法はなく溜息がでる。


「ふぅ…明かりをつけておけば、誰か気付くかな?メアリもお兄様に伝えてくれるわよね」


 クラウディアは少し安直に考えながら、本を手に取りソファーに座った。




 その頃メアリは、待っても帰ってこないクラウディアを心配し、アルトゥールの元を訪れていた。


「アルトゥール様。お嬢様が帰ってこないのです。今日は外出の予定も聞いていないので、アルトゥール様はご存じかと思って伺ったのですが…」

「クラウが帰っていない?今日は昼過ぎには学園は終わっているのだぞ」


 顎に手を当て、しばらく考え込む表情をしていたアルトゥールが「メアリ、私は学園を探してみる。お前は部屋に戻っていなさい。クラウが戻ってきて、お前がいなかったら困るだろうからな」と言って、ジェラルドに声をかけ学園へと向かった。




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