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第九章

185 フェストへの誘い

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「クラウ、フィオナ。今日は中央棟の食堂にしない?お兄様がお昼を一緒にって言うから、みんなで行きましょう?」

 アデライトがそう声をかけてきたので、いつも学年棟のカフェで済ませていたのを中央棟まで足を延ばすことにした。
 中央棟の食堂は学園生全員が入れるほど広く、テラス席や一部二階にも席もあり、とても学園とは思えない内装に仕上がっている。
 一部の二階席は吹き抜けで開放感があり、階下を見下ろせるその二階席にアデライトの兄のジョスランとアルトゥールの姿が見えた。そして一緒にライナーもいたのだ。


「お兄様」


 二階席へと向かい、アデライトが兄のジョスランに声をかけると、マラカイトグリーンの髪の背の高い男性が振り返った。


「やあ、我が家のお姫様。どうぞこちらへ…」


 そう言って笑顔を浮かべながら椅子を引き、クラウディア達にも順に席を進めた。


「クラウディア嬢、フィオナ嬢、いつもアデラが世話になっているね。ありがとう。アルトゥールとはクラスが同じでね、一緒に連れてきたんだよ」


 クラウディアがアルトゥールの顔を見て「どうしているのだろう?」という顔をしているのに気づき、そう説明した。その時にテーブルに近付いてくる人に気付きその方向を向くと、そこにいたのはジェラルド、リオネル、ローラントの3人だった。


「ジョスラン殿、ご令嬢方との同席の許可をいただけますか?」


 社交辞令のような微笑みを言葉を並べ、リオネルが声をかけてきた。
 彼の視線の先にはクラウディアがいるのだが、ジョスランのOKの返事とともに満面の笑みが浮かび、当然のようにクラウディアの横へ座る。

 そしてジョスランが口を開きその場をまとめた。「みんな、もう顔と名前は大丈夫だね」その言葉にクラウディアは改めて顔と名前を確認した。



「まあ、見て?あの二階席いらっしゃるのは公爵家の方々ではないかしら?」

「そうですわね。社交界でも一堂に会することなど春の一度だけですのに、眼福ですわね」

「公爵家の方はどうしてああ見目麗しい方々ばかりなのかしら」

「ご一緒できるものならご一緒したいですわ」


 食堂の階下の学園生からの羨望の眼差しには気付かず、二階のその場所はまるで別世界のような空間が広がった。





 食事も終わり歓談を始めていた時に、アルトゥールが思い出したようにライナーに問いただした。


「そう言えば、ライナー…君はクラウをフェストに誘ったそうだね」


 その言葉に反応したのはジェラルドとリオネルだった。彼らはことクラウディアに関しては、少々面倒なほど世話焼きなのだ。


「ええ、しました。光の祭典へ行ったことを話したのですが、我が領地のディエラ・フェストに来たことがないと言うのでお誘いしたのです」

「一緒に…かい?」

「その方が案内できるでしょう?」


 そう言うライナーの笑顔からは、アルトゥールでさえ純粋に楽しみたいという表情しか読み取れなかったが、実際にそう思っているのだろう。


「クラウディアは行きたいの?ディエラ・フェスト」


 リオネルの少し冷たさを感じる声が聞こえたクラウディアは、なぜそんなことを聞かれるのだろうかと不思議でならなかった。


「えっ…私??そうですね、他の領地のフェストも興味がありますわ」


 若干の上目遣いで答えるクラウディアに、リオネルもジェラルドもすこし焦った。こんな表情を簡単に見られると、誤解する人間が出てきてもおかしくないのだと。


「では、我が領地のヴィエント・フェストに来ませんか?風の織り成す素晴らしい光景に心が癒されますよ」

「ロヴェア・フェストにもいらして。老若男女問わず人気のあるフェストよ。絶対に参加すべきだわ」

「ウィルヴァルト・フェストにもだよ。男性陣には闘剣士トーナメントに参加してほしいし」


 ジョスランにフィオナ、そしてローラントも続く。
 それぞれフェストの宣伝大使のように、良いところを言いはじめ収拾がつかなくなりそうだったのを、アルトゥールがまとめた。


「ではみんなで一緒に行こうじゃないか」

「それでいいね。そうなると、我が領地が一番先だ」


 その言葉に笑顔で答えたのはローラントだった。




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