やり直ししてますが何か?私は殺される運命を回避するため出来ることはなんでもします!邪魔しないでください!

稲垣桜

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第九章

181 春の舞踏会2

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 会場では侯爵家までの招待客は全て入場済みで、これから六大公爵家の入場が始まる。

 ウィルバート家は黒。ウェルダネス家は青紫。ラファーガ家は緑をベースにその服装を合わせている。
 そしてこの三家が入場しただけで会場がざわめいた。
 ここ数年の舞踏会では、六代公爵家の令息令嬢に注目が集まっていることもあり、そのざわめきは仕方がないとしか言えない。
 それもそのはず、公爵家の嫡子のすべてがまだ独身で、婚約者の公表もないのだから縁を繋ぎたいと思う貴族からすると、格好の婚活の場なのだ。
 そして今年は、深層の令嬢として長い間 噂になっていたクロスローズ公爵令嬢が初めて顔を見せるのだから、更に期待が高まる。


 続くこと、グレイシア家はオレンジ。デフュール家は赤。クロスローズ家は白がベースになっている。それぞれの魔力の色を取り入れているのだが、あくまでもベースであり、細かい規定があるわけではない。


「ベイリー・リュカ・クロスローズ公爵、グレース公爵夫人、令息アルトゥール殿、令息ジェラルド殿、息女クラウディア嬢、ご入場です。


 案内の声と共にクロスローズの面々が入場すると同時に、会場の声はどよめきに変わった。そしてクラウディアに視線が集まるのがわかった。
 長い間、噂となっていた深窓の令嬢が初めてこの場に姿を現したのだ。そして、その少女の姿が想像していた以上に美しく、その場に居合わせた人々はそろって目を奪われていた。
 顔立ちは社交界の華と呼ばれたグレース公爵夫人の若い頃を彷彿とさせるが、それをはるかに上回るほどの美しさだった。そして、全員が入場を終えた後、次は王家のメンバーの入場だ。


「とても美しいご令嬢ですわね。若い頃のグレース様によく似ていらっしゃいますわ」

「しかし、公爵家なのに魔力が少ないとか……それはどうかと」

「そうですわね……筆頭のご令嬢ですのに、あまりにもお粗末ですわねぇ」

「あの美しさだけでも価値はあるのでは?」

「まあ、それはお飾り…ということでしょうか?」


 会場のあちらこちらからそんな話声が聞こえてくる。本人たちの耳には届かないものの、気分の良いものではない。しかし、それが社交界という場でもあった。


「エストレージャ王国、プロスペール・リリー・エストレージャ陛下、セシリア王妃、レイナルド王太子殿下、お出ましでございます」


 高い壇上に据えられた椅子に王家の面々が座り、舞踏会が始まった。
 最初に国王として新年を迎えた喜びを表し、グラスを掲げる。
 公爵家から順番に挨拶をはじめ、最後には前年の功労者や叙勲、褒章対象者を順に迎えることになっている。


「皆、今年も無事に新しい年を迎えられたこと嬉しく思う。今日、我が弟は隣国に出向いておるので、この場には参加できなく残念に思っている。弟も同じ気持ちだろう。では、新しい年に…」


 そう言って手に持ったグラスを掲げた。




「ベイリー、今年は娘が初めての参加だな。紹介はしてくれないのか?」

「陛下。そのように急かさないでいただきたい。クラウディア、挨拶を」


 ベイリーは後ろに控えていたクラウディアを呼び、自身の横へ立たせた。クラウディアの顔には緊張しているのか少し強張っている様なそんな風に見える。


「クラウディア・リュカ・クロスローズです。今年よりこの場に参加し、王家の皆様にお会いできましたこと、大変嬉しく思います」


 クラウディアはとても綺麗なカーテシーを披露し、それを見ていた周囲の貴族からは感嘆の息が漏れる。


「そなたがクラウディアか。いつもベイリーから話は聞いておる。とても聡明だそうだな」

「勿体ないお言葉です。陛下」

「クラウディア、あとで、レイナルドと踊ってはくれぬか?」

「私が王太子殿下とですか?」

「クラウディア嬢、私からもお願いしよう。後で私の相手をしてくれると嬉しい」

「かしこまりました」

「陛下、娘は初めてなのです。そう緊張させないでいただきたい」


 ベイリーは国王に対し苦情を言いつつ、挨拶を終えた。そしてダンスの時間が始まった。
 最初は王族という事もあり、国王陛下と王妃、レイナルド王太子殿下の相手にはルシエンテス侯爵家のブリジットが選ばれていた。
 婚約者のいない王太子の相手は、政治的なことも考え年齢的に見合う令嬢が順に務めることになっていたのだ。正直言ってその方が揉めたり噂になることはないのだからメリットしかないらしい。


 王族のダンスが終わり、次の曲が流れて二曲目が始まった。
 会場のホールの中央には、夫婦や婚約者同士で踊りはじめる姿が見られ、そのホールの端のテーブルには食事も用意されており、立食形式だが色とりどりに飾られた見事な食事も並んでいる。

 この日、初めてのダンスをアルトゥールと踊ることになっていたクラウディアは、兄の手を取りホールへと進んだ。
 兄の姿はとても人目を引き、まさに王子様のような容貌なのだから仕方がないのだが、クラウディアの姿もまたとても人目を引いている。二人が並ぶことで、そこには近づきがたい雰囲気が漂い、ただただ憧れの視線を向ける事しかできない。まさに、物語に出てくる美男美女の二人だ。


「クラウ、緊張しているのか?」

「そうですわ。こんなに人目がある場所など初めてです。その前で踊るなど、心臓が止まりそうです」


 そう話しながらも、とても美しい完璧なダンスを披露し二人とも満足この上ない表情を浮かべている。


「クラウのデビューの相手が私で嬉しいよ」

「ずっと昔からお兄様に相手をしてもらうつもりでしたわ」


 微笑と共にその言葉を返すと、とても喜んだようで優しく腕を組んでみんなの居る場所へとさりげなくエスコートし、最後まで離すつもりはないようだった。
 そして続けてジェラルドが進み出て、クラウディアの手を取る。アルトゥールもジェラルドに目配せをしながら何かを伝えるようにジッと視線を向ける。


「クラウ。俺とも一曲、踊ってくれないか?」

「ふふっ、ジェラルドお兄様。そんな風におっしゃらなくても踊りますわ」

「このまま最後まで離したくないくらい、綺麗だよ」

「まあ、おりがとうございます」


 ジェラルドはこの日の為に苦手なダンスの練習を欠かさなかったのだ。
 何でも熟すアルトゥールに負けないよう、必死に練習を続けた甲斐があったのか、周囲から感嘆の声が上がるのを耳にして、少し緊張がほぐれ笑顔が零れた。


 ジェラルドとのダンスが終わりベイリーの元へと戻ると、そこには他家の公爵家当主の姿もあった。
 テオドールがジークフリートと一緒にベイリーといるのが見え、前日同様、この日もその正装姿に見惚れてしまう。いつもは高く結いあげる長い髪も正装の時は下で結んでいるようで、いつもとは違う雰囲気が新鮮で心臓はドキドキと速く打っていた。


「クラウディア嬢、よろしければ一曲、ご一緒しませんか?」


 テオドールのその言葉にベイリーが微笑みながら頷くので、クラウディアもまた「はい」と返事をした。テオドールから差し出された手を取ると、周囲がざわざわし始める。


「まあ、あの噂は本当だったのね」

「テオドール様がクロスローズ公爵令嬢にアプローチをなさっている話でしょう?」

「見てください。テオドール様のあのお顔。とても嬉しそうですわね」


 周囲からそうな声がクラウディアの耳にも入ってきた。噂があるとはロスから聞いていたが、こう直接聞くのは初めてだったのだ。


「ディア、今日は注目を浴びているな」

「そうかしら?自分の事でいっぱいいっぱいなのに、周りを見ている余裕なんてないのよね」

「ははっ、お前らしいな。ディアは今まで表に出なかっただろう?みんなお前に興味があるんだよ」

「そうなの?私からしたら、令嬢達のテオやニックに向けてる視線の方がすごいなぁって思うけど」

「まあ、ニックは踊ることはないし、俺も知り合いとだけしか踊らないからな」

「そうなの?」

「俺やシモンは付き合い上、何度かは踊るが、ニックは…今まで一度も踊ったことがないからな」

「一度も?」

「ああ、春の舞踏会に参加し始めた9年前からずっとだぞ。ある意味凄い奴だろ」



 その後、シモンにも声を掛けられ、兄との楽しいひと時を過ごした。
 クラウディアにとって、シモンは優しく頼りになる兄でもあり、憧れの存在でもあったので、アルトゥール同様、見守られている感じが心地良かった。


「シモンお兄様と、こうして踊るとは思いもしませんでしたわ」

「どうしてだい?私の可愛い天使のデビュタントなんだよ。一緒に踊って祝いたいんだ」

「ありがとうございます。お兄様」


 ふふふっと笑いながら、シモンの笑顔を見ながら色々なことを話した。
 今まで色々なことを教えてもらったクラウディアにとっての先生でもあり、そして兄でもあるのだから緊張することはないが、周囲の令嬢はそう感じていない様だった。



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