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第八章

174 ウィルバートの練習に復帰

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 彼の部屋を出て、屋内の練習場へと向かう。そこには既にジークフリートとサラの姿があった。


「ディア、久しぶり」

「サラ!」


 駆け寄って笑顔で抱き合う二人は、本当の姉妹のようだ。


「クラウディア、もう大丈夫そうだな」

「おじさま…すみませんでした」


 謝る彼女の頭をポンとたたき、ジークフリートは練習の開始を告げた。それから走り込んで体を温めてほぐし、剣を握った。

 
「ねえ、その剣、どうしたの?」


 クラウディアの持っている剣を見てサラが聞いてきたので、テオドールから貰ったのだと話す。


「兄さんが?ディアに贈ったの?それ、本当?」


 とても驚いた表情をするので、何か悪いことなのかと思ってしまう。もしかして、剣を贈るという行為に意味があるのだろうかと深読みをしてしまったが、そういう意味はないようで、ホッと胸をなでおろした。


「兄さんがねぇ…意外とやるのね」


 そんな話をしているうちに、テオドールとニコラスが練習場に入ってくる姿が見えた。
 二人が並んで歩くと、どうしても目を引いてしまう。氷華と漆黒の貴公子の威力は凄まじい。
 
 
 この日のクラウディアの練習は、ジークフリートの独断で軽めに設定されてしまい、なんだか気持ちも体もすっきりとしなかった。
 でもその言葉に反論できるはずもなく、サラにも「もっとやりたいよ…」と愚痴を言ってしまうほど不満が溜まった。


「仕方ないでしょ?急に体を動かして怪我をするより、ゆっくりペースを上げていかなきゃ。みんなそう言うわよ」


 そうかなと思いながら、皆の練習を見ながら、テオドールから貰った剣を使って剣舞の練習を始めた。
 いつもと違って、気に入った剣をつかっていたからか、どうも顔がにやけていたようで、練習後にニコラスに指摘された。
 

「剣を眺めて何をにやけてるんだ?」


 ニコラスの一言で我に返り、慌てて自分の頬を叩いた。――やばい、やばい、顔が緩んでるのかな?


「変な顔してた?恥ずかしい…」
 
「その剣、どうしたんだ?」

「これ…テオが贈ってくれたの」

 
 ―――これが日記に書いてあった剣か…


「ちょっと見せてくれ」


 ニコラスに言われて剣を見せるが、その表情は真剣で、剣の隅々まで見ている。


「いい剣だな…使いやすいだろう?」

「うん。軽くて持ちやすくて……夏に一度見せてくれたんだけど、ようやく手に出来て凄く嬉しいの」


 ニコラスは満面の笑みを浮かべる彼女の顔を見てすっきりとしない、もやもやとした感情に支配される感覚に陥っていくのを感じ、まるで焦っているように思った。
 そして喜ぶ彼女の顔を見つめたまま、何も言えないでいた。
 

「ニック?」
 
「そんなに喜ばれる顔を見ると、なんだか悔しいな」


 不貞腐れたような顔をしているニコラスは珍しいなと思いはしたものの、今日のクラウディアは、練習に参加できたことと、この剣の事で頭がいっぱいだったため、そのニコラスの表情をしっかりと読み取ることができていなかった。
 そしてテオドールがクラウディアに声をかけた。
 

「ディア、使ってみてどうだ?」

「テオ、凄く使いやすかった。本当にありがとう。フォルスさんにもお礼言わなきゃね」
 

 また連れて行ってやると言われてニコニコとしていたのを、ニコラスに咎められる。そういえば、ニコラスとは練習でしか会っていないような気もするなとクラウディアはそんなことを考えていた。




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