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第八章
173 活動開始
しおりを挟むクロスローズの領地内で、屋敷から町へ向かう途中の森の中に、以前薬師の人が住んでいた家があるという話を聞いて、クラウディアはその家を見に出掛けた。
隣の部屋が手狭になってきたので、小さな家があれば隠れて色々とできるかと思って、その家を作業場として使うのもありだろうと考えたのだ。そしていずれは自室の隣の部屋と転移陣で結んでしまおうかと考えていた。
行ってみると、二階建ての普通の家だった。薬師と聞いていたので、平屋の小さな家を想像していたが、どうやら家族で住んでいたようだ。
薬草を扱う部屋も使いやすいように配置されているし、ダイニングテーブルが置ける少し大きい部屋を中心に、小さな台所と水回りもしっかりと揃っていた。
部屋も倉庫や薬草庫など大小合わせて6つもあって、改装すれば快適に過ごせそうだ。
薬草を扱う部屋と魔道具を扱う部屋は単独で用意して、残りの資料などをまとめて大きめの部屋に置くようにすれば、使いやすいだろう。
庭に面した一室は、ゆっくりできるように開口部を大きくしてテラスでも作ろうかと想像を膨らませる。
この家の事をベイリーに話した時「では、ディアーナ・ティルトンの家として使いなさい」と使用の許可をもらっていたので、遠慮なく手を掛けようと考えていたのだ。
大体の見取り図を作り希望の間取りをその上に赤で書き入れて、この日訪れる予定の大工に手渡そうと思っていた。
「さすがに本職に頼まなきゃダメよね」
そんなことを考えて、庭へと目を向ける。
この家に面する庭には薬草を育てている畑や、それ以上の広さがある手付かずの場所もあったので、家とは別にこの場所の手入れもすることにした。
「この辺りに小さなガセボを作ろうかな。花もたくさん植えたいし」
こじんまりとした庭を楽しめるような空間を思い浮べて、これも家と並行して進めるように計画した。
とりあえずは雪が解けてからの着工となったので、しばらくは出来上がりを思い浮べながらクラウディアは夢見心地に浸った。
◇ ◇ ◇
臥せっていたことで体力が落ち、なかなかウィルバートの練習に参加できない日が続いた。
そしてようやく納得がいくほどに回復して、ベイリーから許可が下りたこともあり、この日、やっと参加するためにウィルバートへとやってきた。
外には雪がちらつくこの季節は、屋内の鍛錬場のあるウィルバートが羨ましいといつも思う。
この日は早めに屋敷に着いたのだが、意外にも出迎えたのはサラではなくテオドールだった。
「ディア、今日から参加だな。身体はもういいのか?」
「うん。もうすっかり」
そして「こっちにおいで」とテオドールはクラウディアの手を取って、自身の部屋へと連れて行った。
「ようやく渡せるな。待っていただろう?」
テオドールは自室の棚に置かれていた箱を手に取り、クラウディアに手渡した。その中身は、彼女が楽しみにしていたあの剣だった。
「テオ……嬉しい。夢にまで出てきたのよ」
箱を受け取ってすぐに開けて手に取った。
あの日に見た美しい剣が目の前に、そして、自身の手の中にある。その感動は言葉で表すよりもその表情に如実に表れていた。
「その顔が見られてよかった。クロスローズに行った時に置いてこようとも思ったんだが、その顔が見たくて……遅くなって悪かったな」
頭を撫でながらそう言うテオドールは、少し申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「ううん。家にあったら、使いたくなっていただろうから、今の方がよかったわ。ありがとう、テオ」
クラウディアは満面の笑みを浮かべてテオドールにお礼を言った。
その表情は、彼にとって凄く嬉しい反応だったようで同じように笑顔を浮かべている。
「いい顔だな。クラウディア…大切にしてくれると嬉しい。それと、これも」
クラウディアの手にもう一つ、細長い小さな箱が渡された。
それを開けると、その中にはいくつものかんざしが入っている。テオドールがどうしても自分が選んだものを贈りたかったのだと、あの後から注文していたらしい。
それを渡す彼の瞳がキラキラと輝いて見えて、クラウディアの鼓動は早く打ち始めた。
「テオ…」
彼の腕の中に捕らえられ、強く抱きしめられる。
「愛している、クラウディア」
数か月ぶりに見たテオドールの熱い眼差しを真正面から受け、心臓が高鳴るのがわかる。そのまま優しく額に口付けをされ、クラウディアの鼓動が更に速くなっていった。
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