168 / 213
第八章
159 異質なモノの発見
しおりを挟む時間が朝から昼へと向かう頃、カトゥリエの森に到着した四人は、あの日のことを思い出すように足跡をたどることにした。
その場には先遣隊として、シモンが所属する第四近衛騎士団と第五騎士団から各10名ほどが現場入りしていた。
森から当日に野営を張った場所に向かって血の痕跡が残っていることが、その場で遭ったことを物語っている。
ここに駐屯している騎士団は、現場の保全と、魔物が出る可能性を考えて駐屯しているのだが、あの後に魔物の発生は一切報告されていなかった。
「魔物が出ないって、何かあるな。絶対…」
テオドールが確信を持って言い切るが、他の三人も同じ考えだった。
そのままAグループの進んだ道を辿り、森の奥へと進んだ。現場に血だまりがまだ残っているのを見て、あの時の光景が脳裏よ横切る。
何か良い方法があったのではないかと何度も考え、その度にニコラスの動きが止まった。
「ニック、大丈夫か?」
「…ああ、大丈夫だ」
リオネルはもう大丈夫なのだから、今は余計なことを考えるなと頭を振って、当時の事を詳細に思い出しながら当日の足取りを辿り森の奥へと足を進める。
『確かこの方向から魔物の気配を感じたな…』そう思いだし、その方向へとさらに足を進めるが、進むたびに何か嫌な感じを直感が感じ取っていた。
それが何がと問われても説明はできないのだが、肌が粟立つような、背筋が冷えるような不思議な感覚だった。
「……この感じ、なんだ?」
「お前達もわかるか?」
ルーファスも感じ取ったのか、眉間にしわを寄せながらあたりを見回し目を凝らした。木の上、下、藪の中、その場所を中心に範囲を広げてくまなく、見落とすことのないようにその何かを探した。
「これ…なんだ?」
テオドールが何かを見つけ声を上げた。
その声で三人がその場に集まり、テオドールが見ている視線の先を注視した。それは地面に魔術陣が描かれ、その中央には魔石と思われる石が置かれているが割れて粉々になっている。そしてそれは、周囲の藪の中に隠されるように設置されていたのだ。
「魔術陣だ…何の陣だ?シモン、わかるか?」
「いや…僕も色々なものを学んだが、これは見たことが無い。触れない方がいいだろうね」
「そうだな…魔術院へ連絡して、誰か寄越してもらおう」
テオドールが連絡を入れてくると言ってその場を離れ、残りの三人でさらに周辺を調べた。
すると他の場所からいくつか同じようなものが見つかった。それらもまた中央の魔石が割れている状態で、同じように藪の中に隠されるように設置されていたのだ。
そろそろ日も傾き、このままでは視界が利かなくなる時間帯になる。樹々の間から見える空を見上げ、地面に出来た影の長さに目をやる。
「場所だけ把握して戻ろう。テオから返事も聞きたいからな」
そう言って野営地へと引き返した。その間、周りの森を見回しても魔物の反応はないし、ほんの二日前の出来事なのにこの森の静けさは何かおかしいとそれぞれ感じていた。
あの日は確かにここであの訳の分からない魔獣と対峙したのにと、違和感しかなかった。
野営地に入ると、テオドールが魔術院へ連絡したという事でその返答を伝えに来た。
「ニック、魔術院からは専門家を明日の朝いちばんで寄越すそうだ。それまでは、見つけたものには触らないようにとのことだ」
テオドールの言葉に触らないという判断は正しかったな、と考えながら日も落ち、薄暗くなった空を見上げた。
――― ディーはどうしているだろうか…
王都の方角の遠い空を見て、彼女が早く目覚める事を祈った。
早く戻りたいと、早く帰って彼女の側に居たいと考えながらも、ここでの事を報告する任務をやり遂げると頭を切り替える。
翌日の朝、魔術院より数人が野営地へと顔を出した。
それぞれ、魔道具や魔術陣、魔法の痕跡を辿ることのできる人物だった。そしてその中にはコルビーの姿もあった。
「コルビー、お前も来たのか?」
「ああ、新人だからな。雑用もあるが経験の為だと駆り出された。それで…何があったんだ?」
コルビーの言葉に苦い顔を浮かべたテオドールを見て、よほどの事が起こったんだろうと彼も推測できた。おそらく、口外できないこともあるのだろうと、あえてそれ以上は聞くこともしなかった。
「…先に調べてくれ。話はそれからだ」
テオドールに促されて、魔術院から来た数人と一緒に森の奥へと進んだ。先に現場に入っていたニコラスやシモンが彼らを迎え、見つけたそれを指さした。
「これなのだが、なにかわかるか?」
ヒュー・ウェストは魔術陣の専門で、隣にいるジェイデン・コルトは古代禁呪の研究家だ。
カルロスはテオドールからの報告を受けて、派遣する人材の選定に迷いはしたものの普通の知識を持つ者よりも異端と呼ばれるほど変わった知識を持っている方が適任だと考えジェイデンを選んでいた。そしてそれが正解だったとヒューも感じていた。
森に残されたそれを見てジェイデンは顔をしかめた。一緒に来たランス・グリュックは魔術の痕跡を感じることができるのだが、その彼もまたな青い顔をしている。
「私達は、ここへ来る前にカルロス様からこの件については口外厳禁の誓約を済ませております。ご安心ください。それでここで何があったか詳しく教えていただけますか?」
その言葉を受け、ここで起こったことを順を追って話した。何かがはじけるような音がした事、通常では考えられない魔物が出た事、その魔物の毒も通常の物とは違っていた事を。
「そうですか…」
そして他の場所も見回り、魔道具や魔石の扱いの専門家でもあるデレク・マドロスが、ジェイデンの指示の元、砕けた魔石を回収し1つ1つ箱にしまい、残った魔術陣は記録した後に綺麗に消去した。そして全ての回収が終わった後、ランスが頷いたことを確認しようやく一息ついた。
「これですべて回収しました。ランスは魔術の痕跡を感じることができるので、彼が把握している範囲のものはこれですべてです。他にはないでしょう」
目の前に並べられた魔石が入れられた箱を見て、ヒューの顔を見た。
「それで、これが、どんな作用があったのか教えて貰えてほしいのだが」
詳しいことを野営地に戻ってから話をすることにしてその場から引き上げた。森の中を移動している間、念のために周囲に警戒するが、魔物の気配や怪しい感じやはり感じない。
あの日の魔物はコレが原因だったのだろうか。そう考えると辻褄はあうだろう。
8
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説
闇夜の姫は、破壊王子に溺愛される。
カヨワイさつき
恋愛
物心ついた時から眠ると、うなされる女の子がいた。
目の下には、いつもクマがある、オリービア。
一方、デルラン王国の第4王子。
ヴィルは、産まれた時から魔力量が多く、
いつも何かしら壊していた。
そんなある日、貴族の成人を祝う儀が
王城で行われることになった。
興味はなかったはずが……。
完結しました❤
お気に入り登録、投票、ありがとうございます。
読んでくださった皆様に、感謝。
すごくうれしいです。😁
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
エリート騎士は、移し身の乙女を甘やかしたい
当麻月菜
恋愛
娼館に身を置くティアは、他人の傷を自分に移すことができる通称”移し身”という術を持つ少女。
そんなティアはある日、路地裏で深手を負った騎士グレンシスの命を救った。……理由は単純。とてもイケメンだったから。
そして二人は、3年後ひょんなことから再会をする。
けれど自分を救ってくれた相手とは露知らず、グレンはティアに対して横柄な態度を取ってしまい………。
これは複雑な事情を抱え諦めモードでいる少女と、順風満帆に生きてきたエリート騎士が互いの価値観を少しずつ共有し恋を育むお話です。
※◇が付いているお話は、主にグレンシスに重点を置いたものになります。
※他のサイトにも重複投稿させていただいております。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる