やり直ししてますが何か?私は殺される運命を回避するため出来ることはなんでもします!邪魔しないでください!

稲垣桜

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第八章

159 異質なモノの発見

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 時間が朝から昼へと向かう頃、カトゥリエの森に到着した四人は、あの日のことを思い出すように足跡をたどることにした。
 その場には先遣隊として、シモンが所属する第四近衛騎士団と第五騎士団から各10名ほどが現場入りしていた。
 森から当日に野営を張った場所に向かって血の痕跡が残っていることが、その場で遭ったことを物語っている。
 
 ここに駐屯している騎士団は、現場の保全と、魔物が出る可能性を考えて駐屯しているのだが、あの後に魔物の発生は一切報告されていなかった。

 
「魔物が出ないって、何かあるな。絶対…」


 テオドールが確信を持って言い切るが、他の三人も同じ考えだった。
 そのままAグループの進んだ道を辿り、森の奥へと進んだ。現場に血だまりがまだ残っているのを見て、あの時の光景が脳裏よ横切る。

 何か良い方法があったのではないかと何度も考え、その度にニコラスの動きが止まった。

 
「ニック、大丈夫か?」

「…ああ、大丈夫だ」


 リオネルはもう大丈夫なのだから、今は余計なことを考えるなと頭を振って、当時の事を詳細に思い出しながら当日の足取りを辿り森の奥へと足を進める。
 
 
 『確かこの方向から魔物の気配を感じたな…』そう思いだし、その方向へとさらに足を進めるが、進むたびに何か嫌な感じを直感が感じ取っていた。
 
 それが何がと問われても説明はできないのだが、肌が粟立つような、背筋が冷えるような不思議な感覚だった。

 
「……この感じ、なんだ?」

「お前達もわかるか?」


 ルーファスも感じ取ったのか、眉間にしわを寄せながらあたりを見回し目を凝らした。木の上、下、藪の中、その場所を中心に範囲を広げてくまなく、見落とすことのないようにその何かを探した。

 
「これ…なんだ?」

 
 テオドールが何かを見つけ声を上げた。
 その声で三人がその場に集まり、テオドールが見ている視線の先を注視した。それは地面に魔術陣が描かれ、その中央には魔石と思われる石が置かれているが割れて粉々になっている。そしてそれは、周囲の藪の中に隠されるように設置されていたのだ。
 

「魔術陣だ…何の陣だ?シモン、わかるか?」

「いや…僕も色々なものを学んだが、これは見たことが無い。触れない方がいいだろうね」

「そうだな…魔術院へ連絡して、誰か寄越してもらおう」


 テオドールが連絡を入れてくると言ってその場を離れ、残りの三人でさらに周辺を調べた。
 すると他の場所からいくつか同じようなものが見つかった。それらもまた中央の魔石が割れている状態で、同じように藪の中に隠されるように設置されていたのだ。

 そろそろ日も傾き、このままでは視界が利かなくなる時間帯になる。樹々の間から見える空を見上げ、地面に出来た影の長さに目をやる。
 

「場所だけ把握して戻ろう。テオから返事も聞きたいからな」


 そう言って野営地へと引き返した。その間、周りの森を見回しても魔物の反応はないし、ほんの二日前の出来事なのにこの森の静けさは何かおかしいとそれぞれ感じていた。
 あの日は確かにここであの訳の分からない魔獣と対峙したのにと、違和感しかなかった。
 
 野営地に入ると、テオドールが魔術院へ連絡したという事でその返答を伝えに来た。


「ニック、魔術院からは専門家を明日の朝いちばんで寄越すそうだ。それまでは、見つけたものには触らないようにとのことだ」


 テオドールの言葉にという判断は正しかったな、と考えながら日も落ち、薄暗くなった空を見上げた。
 

 ――― ディーはどうしているだろうか…
 

 王都の方角の遠い空を見て、彼女が早く目覚める事を祈った。
 早く戻りたいと、早く帰って彼女の側に居たいと考えながらも、ここでの事を報告する任務をやり遂げると頭を切り替える。
 

 
 
 翌日の朝、魔術院より数人が野営地へと顔を出した。
 それぞれ、魔道具や魔術陣、魔法の痕跡を辿ることのできる人物だった。そしてその中にはコルビーの姿もあった。


「コルビー、お前も来たのか?」

「ああ、新人だからな。雑用もあるが経験の為だと駆り出された。それで…何があったんだ?」


 コルビーの言葉に苦い顔を浮かべたテオドールを見て、よほどの事が起こったんだろうと彼も推測できた。おそらく、口外できないこともあるのだろうと、あえてそれ以上は聞くこともしなかった。


「…先に調べてくれ。話はそれからだ」


 テオドールに促されて、魔術院から来た数人と一緒に森の奥へと進んだ。先に現場に入っていたニコラスやシモンが彼らを迎え、見つけたそれを指さした。
 

「これなのだが、なにかわかるか?」
 

 ヒュー・ウェストは魔術陣の専門で、隣にいるジェイデン・コルトは古代禁呪の研究家だ。
 カルロスはテオドールからの報告を受けて、派遣する人材の選定に迷いはしたものの普通の知識を持つ者よりも異端と呼ばれるほど変わった知識を持っている方が適任だと考えジェイデンを選んでいた。そしてそれが正解だったとヒューも感じていた。

 森に残されたそれを見てジェイデンは顔をしかめた。一緒に来たランス・グリュックは魔術の痕跡を感じることができるのだが、その彼もまたな青い顔をしている。

 
「私達は、ここへ来る前にカルロス様からこの件については口外厳禁の誓約を済ませております。ご安心ください。それでここで何があったか詳しく教えていただけますか?」
 

 その言葉を受け、ここで起こったことを順を追って話した。何かがはじけるような音がした事、通常では考えられない魔物が出た事、その魔物の毒も通常の物とは違っていた事を。

 
「そうですか…」

 
 そして他の場所も見回り、魔道具や魔石の扱いの専門家でもあるデレク・マドロスが、ジェイデンの指示の元、砕けた魔石を回収し1つ1つ箱にしまい、残った魔術陣は記録した後に綺麗に消去した。そして全ての回収が終わった後、ランスが頷いたことを確認しようやく一息ついた。

 
「これですべて回収しました。ランスは魔術の痕跡を感じることができるので、彼が把握している範囲のものはこれですべてです。他にはないでしょう」


 目の前に並べられた魔石が入れられた箱を見て、ヒューの顔を見た。


「それで、これが、どんな作用があったのか教えて貰えてほしいのだが」


 詳しいことを野営地に戻ってから話をすることにしてその場から引き上げた。森の中を移動している間、念のために周囲に警戒するが、魔物の気配や怪しい感じやはり感じない。


 あの日の魔物はが原因だったのだろうか。そう考えると辻褄はあうだろう。



 
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