やり直ししてますが何か?私は殺される運命を回避するため出来ることはなんでもします!邪魔しないでください!

稲垣桜

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第八章

155 願いを届けて

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 明るい空間に大樹がそびえている。
 その幹は大人が数人囲んでも手が届かないほど太く、その高さは見上げても上が見えないほど大きい。
 枝を大きく張り、その枝に葉をたくさん茂らせてキラキラと輝いている。
 


 『私…この場所、知っている……』
 

 クラウディアが遠くに見える大樹の根元へとゆっくりと歩いていくと、その下には教会で見ているヴェリタの神の像とそっくりの人物が大樹を見上げて優しく微笑んでいる。
 

 『……あなたは?』
 

 《 私かい?私は君たちの世界で神と言われているものだよ 》
 

 耳に届くというか頭に響くその声はどこか懐かしく、クラウディアの心に響いて染みわたるようだ。


 『私、ここでなにをして……』
 

 途端、リオネルの顔が、あの苦しそうな顔を思い出した。



  
 『あなたは本当に神なのですか?

  でしたら、リオネル様を助けてください。

  彼を、彼を助けて…』



  
 真剣に訴えるクラウディアに神が声をかけた
 

 《 彼が助かる方法は、君の中にある…》

 
 『私の中に…?』 

 
 《 君の力が目覚めれば、彼は助かるはずだよ…
 
   自分の意思をしっかりと持ちなさい…

   そうすれば、君の望む未来が手に入るだろう…
 
   諦めずに頑張りなさい…私の愛し子よ…… 》
 
 


 
 
 
 昼頃に目が覚めると、視界に入ってきたのは見知らぬ部屋の天井だった。
 天井を、壁を、窓を、それからぐるりと部屋を見回して、今どこにいるかを理解し、それと同時に今見ていた夢を思い出した。
 

 ―――今の夢は…本当なの?夢の中のヴェリタの神が言っていた言葉。私の力…そんなものがあるの?
 

 しかし、あるかないかではないのだ。やらなければリオネルを失うことになるのだ。
 
 



 
 
「お嬢様、お目覚めですか?」


 部屋には誰もいないと思っていたので、突然声を掛けられクラウディアはドキリとした。
 声の下方向に視線を向けると、そこにいたのはデフュールのお仕着せを着た女性だったが、若干服装が違う感じから上の立場の人なのだろう。

 
「ニコラス様からお嬢様のお世話を仰せつかりました、ノーマと申します」

「ニコラス様から?」

「はい。お嬢様の事を大変心配なさっておいででした。今、王城へ出向いておりますが、夕方までには戻りますのでここでお休みください」


 ニコラスに泣いて縋っていたことを思い出し、すぐにリオネルがどうなったのか心配になった。あの時の容体はおそらく重体に間違いない。
 こんな時に万能のポーションがあればと考えてしまうが、こればかりはまだ完成もしていないのだからどうすることも出来ない。

 
「ノーマさん。リオネル様の部屋へ行ってもよろしいですか?」

「それは、いけません。ニコラス様がお戻りになられてから…」

「お願いします。少しでも力になりたいの。ノーマさん。お願い」
 
「…わかりました。少しだけですよ」

「ありがとう」
 
 
 
 ノーマに案内されてリオネルの眠っている部屋へ行き、ベッドに横になったまま苦痛に顔を歪め、声を殺して痛みに耐えるリオネルの髪をそっと撫でて、思わず涙が流れ出る。


「リオネル様…早く、目を覚ましてください…」


 そう言って、彼の手を握り祈った。
 
 
 ――― ヴェリタの神よ。お願い。私に力を。

 
 自分に力があるのなら、そのすべてを出そうとリオネルの側に座り、手を握りしめ一心に祈った。自分の中にあるという力を引き出す方法もわからないのに、ただただ祈り続けた。
 

 ――― 私には光がある。このリオネル様の毒さえ消えれば、あとは傷だけになるわ。
 

 クラウディアは魔力を巡らせるように集中した。
 ここまでの傷を治す回復魔法は試していないし、たとえしていたとしても成功すると言えない。

 クラウディアはリオネルの体内の毒を流すように、傷が少しでも治るように…毒を包み傷が塞がるイメージを浮かべながら魔力に意識を集中した。
 自分に毒を移すことが出来れば、自身は浄化にリオネルは怪我の回復に専念できる。そう考えて魔力に意識を集めた。

 
 ―――またあの優しい笑顔を見せてください…リオネル様……
 

「フィシコ・トランスフェリメント」

 
 毒が自分へ移るように詠唱を唱えて魔力を流した。その後で傷を治るようにと治癒の上級魔法もかけてみる。

 
「リミエ・ラブレスュール・クラーレ」

  
 クラウディアも試したことのない上級の治癒魔法だから、どうなるかはわからない。

 そうこうしているうちに、突然、自分の魔力がごっそりと持って行かれる感覚がして、自分の中の魔力を封じていた鍵が壊れる音が頭の中に響いた。それに気が付いてクラウディアはノーマに声を掛けた。

 
「ごめんなさい。少しでいいのでリオネル様と二人にしていただけませんか?お願いします。ほんの少しでかまいません」
 
「わかりました。お嬢様、ほんの少しですよ」

 
 ――― 魔力がもっていかれる…お願い、もって…

 
 そして更に魔力と願いを込めると、リオネルの身体が金色の光を纏うように輝き始めた。
 
 





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