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第八章

135 孤児院へ

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「クラウディア嬢、久しぶりだね。元気だった?」

「リオネル様、クラウディアでいいですわ」

「君に早く会いたくて、悪いと思ったが早く来てしまったんだ、よかったかな?」


 微笑みながら優しい声でクラウディアに声をかけたのは、デフュール公爵家のリオネルでニコラスの弟だ。この日はアルトゥール、ジェラルドとの3人で剣を練習しようとジェラルドが声を掛けていて、クロスローズの領地へと来ていたのだ。

 
「早いな、リオ」

「ジェリー、今日はよろしく頼むな」


 そのすぐ後、アルトゥールも部屋へ入ってきて挨拶を交わし、この日の練習について話し始めた。それを横で聞いていたクラウディアが、ふとあることを思いついて口を挟む。
 今日のように天気が良く、しかも元気な若い青年がいるのだから、今日を利用しない手はないと思ったのだ。
 

「あの…今日、お時間があれは一緒に行ってもらいたいところがあるのですが、よろしいですか?」

「どこへ行くんだい、クラウ?」

「すぐ近くです」

 
 そう告げて、行先も言わずに馬車に乗り込んだのだ。ジェラルドがリオネルと会う予定があると聞いたので、今日、もしかしたら行けるかもしれないとシスターに時間を取ってもらってはいたが、まさかこう上手くいくとは思わなかった。剣の練習をする予定だったのでみんな動きやすい服装をしていることも好都合だった。
 そして、町の方向に馬車を走らせ、教会の側で馬車を停めた。
 

「クラウ。教会に用事があるのか?」
 

 ジェラルドからそう問われたが、返事は【いいえ】だ。
 行くのはこの横にある建物で、前に来た時、思いっきり遊べる相手がいればという話を聞いたので、みんなを巻き込むことを計画したのだ。
 

「こちらですわ」


 クラウディアが先導して教会の廊下を進み孤児院へと向かった。教会の建物を抜けた頃には、彼らの耳にも子供たちの元気な声が聞こえてきた。
 
 
「おねえちゃーん」


 孤児院にいる小さな男の子が、その可愛い手に花をもって一生懸命に駆け寄ってきた。
 

「まぁ、ジャック。今日も元気?」

「うん。これ、おねえちゃんにあげる」


 そう言って笑顔を浮かべて、小さな花を髪に刺してくれる。
 

「ありがとう。似合うかしら?」

「うん。おねえちゃんキレイ。おねえちゃん大好き」


 そう言ってクラウディアに抱き着く姿を見て、三人共呆気にとられていた。
 

「教会併設の孤児院か」

「ええ、そうです。以前から何度か訪問はしているのですが、シスターから子供たちと一緒に思いっきり遊べるような人がいないかと相談を受けていて、そこでお兄様とリオネル様にもお手伝いをしてもらおうかと」


 少しいたずらっ子っぽく微笑むと、兄達はクラウディアらしいと納得したような表情をして、リオネルは笑みを浮かべながら参ったなぁといった表情をしている。
 





「まぁクラウディア様。ありがとうございます。子供達も楽しみに待っておりますわ」

「いいえシスター。こちらこそ急に来てしまってご迷惑では?」


「とんでもない」とシスターに言われ、建物の奥の部屋へと移動すると、そこには満面の笑みをたたえた子供たちが待っていた。

 
「あっ、おねえちゃん。ぼく、いい子にして待ってたんだよ」

「おねえちゃん。わたしもー」


 あっという間にクラウディアの周りには子供たちの輪ができていた。一番外側にいた小さい男の子は、その輪の中に入れず隙間から割り込もうと頑張っている姿が、とても可愛い。

 
「みんな。今日はね、お外でたくさん遊んでくれるお兄ちゃんたちを連れてきたの」

「えー。やったー。ぼく、おにごっこしたーい」

「ぼくもたたかいごっこやりたーい」

 
 口々にやりたいことを言いはじめ、クラウディアの後ろにいたアルトゥールとジェラルド、リオネルの周りに集まり始めた。

 
「おにいちゃん。あそぼう」

「おにいちゃん。おそといこう」

「ねーねーおにいちゃん。名まえはなんていうのー」
 

 子供たちに囲まれることなど滅多にない三人は、いきなりの展開にビックリしていたが、その状況に一番早く対応できたのはリオネルだった。
 

「よーし。お兄ちゃんと一緒に鬼ごっこしよう。みんな、外に行くぞ」

「わーい」


 あっという間に子供たちは外へと活動場所を移した。
 

「お兄ちゃんたちも行こう」


 小さな女の子に手を取られるようにアルトゥールとジェラルドがその後ろを進んでいき、クラウディアも外へ出てシスターと一緒に木陰で雑談を始めた。

 
「クラウディア様。お伺いしていませんでしたが、あの方々は…」

「私の兄のアルトゥールとジェラルドです。もう一方はデフュール公爵家のリオネル様です。子供たちの相手をするのには最適だと思って、連れてきてしまいましたの」


 笑いながらそう話をすると、公爵家の方々に遊んでいただくとは恐れ多いと恐縮し始めたのだが、そこはクラウディアも同じ公爵家ということを忘れているのではと思ってしまう。
 

「気になさることはないですわ。見てください。みんな楽しそうではありませんか」


 クラウディアの視線の先には、はにかみながら子供を抱き上げるアルトゥールや、一緒になって芝生の上を転がっているジェラルド、そして笑顔で子供たちを追い回すリオネルがいた。
 その姿を見て、幸せな気持ちになったのはクラウディアだけではなかった。三人共こんなに笑った日はないというほど、笑い、走り、転がりまわったのだった。
 
 
 



「子供たち…元気だな。可愛いよ」


 そう言って笑いながらクラウディアの横に座ったのはリオネルだった。

 
「クラウディア…君が、私の兄の事をどう思っているのか、聞いてもいいか?」


 切ない表情でクラウディアを見つめ、その答えを早く言って欲しいと願っている。そんな切ない顔をしている。あの日、火の祭典の時の二人の姿を見て、さらに求婚までしているという事まで聞いて、リオネルは兄を見る度に少しだが苛立ちを覚えていた。

 
「リオネル様…」
 
 
「「「おいにいちゃーん」」」


 リオネルが答えを聞く前に、子供たちがリオネルに飛びかかってきた。
 

「こら、お前たち。大事なところで」

「おにいちゃん、おねえちゃんのことすきなの?」

「ああ、そうだよ。おにいちゃんは、おねえちゃんのこと、大好きなんだ」


 リオネルは頬を赤く染め、蕩けるような甘い微笑みを浮かべながらクラウディアを見つめた。
 そんな顔をされては、クラウディアも何も言えなくなってただ見つめ返すしかできないが、イケメンがこんな表情をするのは卑怯だと思った。
 

「ぼくもーおねえちゃんのことだいすきー」

「そうか?じゃあライバルだな」

「らいばるー?うん。らいばるー」


 笑顔になった子供たちに囲まれるリオネルが、クラウディアに手を差し出した。

 
「クラウディア、君も一緒にいこう」


 子供たちの輪の中にクラウディアも混ざり、夕方近くまで子供たちから解放されることはなかった。
 
 
 
「リオネル様、今日は本当にありがとうございます。早めに帰るつもりだったのですが、こんな時刻まで申し訳ございません。お兄様もありがとうございます。それで……、もしよければ、また次に行くときもご一緒していただけると嬉しいのですけれど…」

「今日は本当に行ってよかったよ。クラウディアの今まで見たことのない一面を見られたし」
 
「そうだな。もっと早くに言ってほしかったな」


 三人は思いの外楽しかったようで、次回を楽しむようなことを話し始める様子を、微笑ましく思う瞬間だった。




 
 
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