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第八章

113 クロスローズ夫妻

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「ねえ、あなた。最近、なんだか楽しそうね?」

「わかるかい?グレース」



 休みの日、久しぶりにアマラ・グレースへと出掛けたクロスローズ夫妻は、咲き始めた薔薇を見ながら最近の事を話し始めた。
 グレースは子供が三人いるとは思えないほど若々しく、ベイリーと並ぶと周囲の人は必ず視線を向け、うっとりとした顔を浮かべている。それほど素敵な二人なのだ。


「どうやらクラウディアの想いは叶いそうでね」

「あら?あのピアスの方かしら?どなただったの?私に教えてくださらない?」

「そうだね…何から話そうかな」


 ベイリーはグレースを腕に抱きながら、ふふっと笑いが出る。

 ニコラスの評判は知っている。人柄も、そして実力も。

 その何もかもが、自分が知る若者の中でも一番の人物だ。


「実はね。クラウディアへ求婚しているのは二人いるんだ」

「お二人…ですか?では、そのどちらか…という事ですわね」

「そうだよ。グレースもよく知っている人物だ」


 グレースはベイリーにそう言われて、少し考え込むように視線を巡らせた。
 ルビーの色は濃い赤だったのだから、そこから導き出せるのは一握りの人物。いや、ある家門だけだ。


「カミラ様のお子ね。あの濃い赤色はカミラ様のデフュールの家門の色ですもの」

「さすがだねグレース。ああそうだよ。ニコラス殿だ」


 グレースはその名前に驚きながら、納得したかのように頷き微笑んだ。
 その微笑みを見てベイリーもまた微笑みを湛えてグレースを見つめ返した。


「でも、デフュールともなると、この先が大変ですわね」

「それは私に任せてくれるかい?娘の幸せの為なら私に出来ない事はないよ」

「そうですわね。あなたがおっしゃったことで叶わなかったことはないですもの」


 立ち上がったベイリーはそっとグレースに手を差し伸べ、薔薇の咲く庭園を歩み始めた。
 この庭園はベイリーがグレースの為に作った公園だ。プロポーズをしたこの場所には二人の思い出が詰まっている。


「アルトゥールにもジェラルドにも良い人が出来るといいわね」

「そうだね。社交界へと出るようになれば出会いもあるだろう。クラウディアは特別だったからね」

「ねえ、あなた。わたくし、ニコラス様とお話がしたいわ。カミラ様にお願いしようかしら」

「グレース。それは少し待ってくれないか?まだ決まっていないのだからね。私がちゃんとその場を作るから、それまで待っていてくれないかな」


 ベイリーはグレースにだけ見せる、人には見せることのない少し情けない顔をしながら、グレースにしばらく待つように伝えた。それだけで納得するようなグレースではないが、会ったとしてもクラウディアの事を話すようなことはしないだろうと、その点に関しては彼女を信頼していた。


「グレース。大丈夫だから待っていておくれ」

「ふふふっ…わかりましたわ」





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