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第八章
101 アルトゥールの想い
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アルトゥールは、フェストから帰ってきてからベイリーに聞きたいことがあると声をかけた。
ベイリーもアルトゥールの真剣な眼差しに何かを感じたのか、執務室に来るように告げ、そのまま部屋へと向かい、机をはさんで向かい合って座った。
「父上、クラウディアはセグリーヴ侯爵家からいつ戻るのですか?療養など口実なのでしょう?何か理由があるからあの子は向こうで生活しているのではないのですか?」
ベイリーは、ふぅっと小さな溜息を一つ吐きアルトゥールの顔を見た。その顔は、ごまかしはきかないだろうとわかるほど真剣だった。
「アルトゥール。お前は今年いくつになる?」
「19になります」
「19か…では、もう頃合いか」
しばらくの沈黙の後、ベイリーはアルトゥールを椅子に座らせた。その向かい側に自分も腰を掛け、膝に肘を置き手を組む。呼吸を一つ二つしてから、真正面から顔を見た。
「父上。教えてください。私はクラウの兄です。妹を守る義務があります」
「……わかった。しかし、このことは誰にも話してはいけないよ。もちろん、クラウにも知っていることは知られないようにしなさい」
「クラウにもですか?…わかりました。一切口外しません」
そして、ベイリーはクラウが倒れたことから始まった全てを話した。なにもかも包み隠さず。
「それは…事実なのですか?」
「ああそうだ。この件に関してはまぎれもない事実だとわかっている。クラウも全てを知っている。自分の運命もだ」
言葉を発せずに呆然としているアルトゥールを見ながら、ベイリーは言葉を続けた。
「クラウは今まで色々なことに挑戦していたのを知っているか?」
「お祖父様とも頻繁に連絡を取っていることは知っています。それに帰ってくる度に忙しそうにしていることも聞いていますし、何より時々動き方が……」
「動き方が…どうした?」
「あの動き方は剣術を習っている動きです」
ベイリーはアルトゥールの意外な洞察力に驚いた。そんなにあからさまな動きはしていないはずだが、それに気が付くのは相当なものだろう。まあ相手が妹だからこそかもしれない。
「クラウは運命を変えようとしているのだ。自分の運命も変わると信じてな…」
「……シモン殿はご存じなのですか?何度もクラウディア会いにきているではないですか」
「シモン殿には話していない。だが、彼は聡明な人間だ。クラウディアに何かしら感じていることはあるだろう」
部屋に戻り、父親から聞いた、この先、四年の間に起こるであろう出来事を自分なりに整理してみた。そして自分に何ができるのだろうかと、自問自答して眠れない夜を過ごした。
―――兄としてできる事は何がある。
フェストでのあの切ない顔を思い出して、アルトゥールの視界はわずかに滲んだ。
翌週、クラウディアがフェストの日に注文をしたラペルピンが届いたので、家族に渡すためにそれぞれの部屋を訪ねた。
自分用を着けてみたが、そう主張もしない金の薔薇とその中央の青い石が程よい大きさで、その出来上がりにはとても満足していた。
「お兄様、いますか?」その声にすぐ反応があり、扉を開けると、アルトゥールの部屋にジェラルドもいて、ちょうどよかったと思い部屋に入る。
「お兄様、これを。この間のフェストで買ったラペルピンです」
二人に箱を手渡して反応を見たのだが、兄の表情はいつものように優しい表情なので、嬉しいのかどうかわからない。
「クラウディア、ありがとう。普段使い出来るように選んでくれたのなら、毎日つけようかな」
そう言って箱を開けて中身を取り出し、着けてくれる?と言われ二人の襟に付けてみる。中央の青い石が二人の目の色と同じで、選ぶのが難しかったことを思い出した。薔薇の花でもこの二人にはとても似合っているなと襟元に付けながらそう思った。
ベイリーもアルトゥールの真剣な眼差しに何かを感じたのか、執務室に来るように告げ、そのまま部屋へと向かい、机をはさんで向かい合って座った。
「父上、クラウディアはセグリーヴ侯爵家からいつ戻るのですか?療養など口実なのでしょう?何か理由があるからあの子は向こうで生活しているのではないのですか?」
ベイリーは、ふぅっと小さな溜息を一つ吐きアルトゥールの顔を見た。その顔は、ごまかしはきかないだろうとわかるほど真剣だった。
「アルトゥール。お前は今年いくつになる?」
「19になります」
「19か…では、もう頃合いか」
しばらくの沈黙の後、ベイリーはアルトゥールを椅子に座らせた。その向かい側に自分も腰を掛け、膝に肘を置き手を組む。呼吸を一つ二つしてから、真正面から顔を見た。
「父上。教えてください。私はクラウの兄です。妹を守る義務があります」
「……わかった。しかし、このことは誰にも話してはいけないよ。もちろん、クラウにも知っていることは知られないようにしなさい」
「クラウにもですか?…わかりました。一切口外しません」
そして、ベイリーはクラウが倒れたことから始まった全てを話した。なにもかも包み隠さず。
「それは…事実なのですか?」
「ああそうだ。この件に関してはまぎれもない事実だとわかっている。クラウも全てを知っている。自分の運命もだ」
言葉を発せずに呆然としているアルトゥールを見ながら、ベイリーは言葉を続けた。
「クラウは今まで色々なことに挑戦していたのを知っているか?」
「お祖父様とも頻繁に連絡を取っていることは知っています。それに帰ってくる度に忙しそうにしていることも聞いていますし、何より時々動き方が……」
「動き方が…どうした?」
「あの動き方は剣術を習っている動きです」
ベイリーはアルトゥールの意外な洞察力に驚いた。そんなにあからさまな動きはしていないはずだが、それに気が付くのは相当なものだろう。まあ相手が妹だからこそかもしれない。
「クラウは運命を変えようとしているのだ。自分の運命も変わると信じてな…」
「……シモン殿はご存じなのですか?何度もクラウディア会いにきているではないですか」
「シモン殿には話していない。だが、彼は聡明な人間だ。クラウディアに何かしら感じていることはあるだろう」
部屋に戻り、父親から聞いた、この先、四年の間に起こるであろう出来事を自分なりに整理してみた。そして自分に何ができるのだろうかと、自問自答して眠れない夜を過ごした。
―――兄としてできる事は何がある。
フェストでのあの切ない顔を思い出して、アルトゥールの視界はわずかに滲んだ。
翌週、クラウディアがフェストの日に注文をしたラペルピンが届いたので、家族に渡すためにそれぞれの部屋を訪ねた。
自分用を着けてみたが、そう主張もしない金の薔薇とその中央の青い石が程よい大きさで、その出来上がりにはとても満足していた。
「お兄様、いますか?」その声にすぐ反応があり、扉を開けると、アルトゥールの部屋にジェラルドもいて、ちょうどよかったと思い部屋に入る。
「お兄様、これを。この間のフェストで買ったラペルピンです」
二人に箱を手渡して反応を見たのだが、兄の表情はいつものように優しい表情なので、嬉しいのかどうかわからない。
「クラウディア、ありがとう。普段使い出来るように選んでくれたのなら、毎日つけようかな」
そう言って箱を開けて中身を取り出し、着けてくれる?と言われ二人の襟に付けてみる。中央の青い石が二人の目の色と同じで、選ぶのが難しかったことを思い出した。薔薇の花でもこの二人にはとても似合っているなと襟元に付けながらそう思った。
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