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第七章

92 店のオープン

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 リベンジェス商会に頼んでいた、レストランのオープンの日が決まった。

 フィンと何度も会って話し合いをして、店の形態や内装、提供メニューも決定した。雇う人員も何度かの面接で決め、前もって新人教育を行った。
 その点は、リベンジェス商会が責任を持ってくれたので心配はなかったし、彼らなら間違いなく良い結果を残してくれる。


 店の名前は、レストランは“アンビシオン”。食堂は“グランツ”。テイクアウト専門店は“リトス”となった。
 グランツでは日替わり定食をメインにし、ランチタイムも導入した。
 リトスではお昼にはお弁当を、夜には持ち帰り用総菜を導入し、お弁当の中身は日替わりで一択としたのだ。その内容はこれから増やしていくことにして、最初は開店という事もあり、メニューの品数は少なめに設定した。
 そしてその横には料理本を置き、売り子が「こちらにレシピが書いてありますよ」と宣伝もしている。
 このレシピも絵をふんだんに使用し目でも理解できるように作られていて、商会内でも好評だった。今までの料理本といえば言葉だけで書かれていて、いまいちわかり辛いものが多いとクラウディアも思っていて、日本の料理本のように誰でも使いやすいようにわかりやすいように考えたのだった。
 

「フィン、どう?」

「ディアーナ様。見てください。お弁当は、もう売り切れました。食堂の方も、いい手ごたえです」 


 フィンと何度か会ううちに“クラウディア”ではなくディアーナとしての方が都合がよいと考え、このところはディアーナで会っていた。
 この日、オープンしてから10日ほど経った頃に見に来たのだがまだまだ盛況のようだ。
 オープンした当初、クラウディアもディアーナの姿でオープンスタッフとしてグランツとリトスの手伝いに来ていたので、従業員たちとは顔なじみになっていた。


「様はいらないわよ。この格好なのに様が付いてると可笑しいでしょ?」

「わかりました。では、ディアーナ。また、収支や感想をまとめて連絡します。それと…夜にアンビシオンに予約を入れておきました。支配人のセドリック・リンデンに伝えてありますのでご安心を」


 セドリック・リンデンは上流階級向けのレストランの支配人だが、とりあえずは一号店ということとナシュールの店ということで顔合わせをしたのだ。
 さすがにリベンジェス商会が選ぶ人材は、誰が見ても口を揃えてOKを出すような人物ばかりだとクラウディアは感心した。

 
「ありがとう。しっかり宣伝してくるわ」

「よろしくお願いしますね。ディアーナ様一家が来店することがここでは一番の宣伝ですから」



 
 夜になり、クラウディアは家族そろってアンビシオンへと足を運んだ。
 この店のことはベイリーにも報告してあるが、その他には一切話をしてはいない。それは家族でも例外ではなかった。


「これは領主様、ようこそいらっしゃいました」


 支配人のセドリックがベイリーに声を掛けて、この店の中でも一番見晴らしのいい窓際の席へと案内する。
 この店は一応個室も完備してはいるが、この日は領主が来ているという宣伝効果を高めるためにあえて人から良く見える場所を準備してもらったのだ。


「支配人、今日は開店したばかりで忙しいのにすまないね」

「いえ、この店の開店に尽力してくださった商会の方々が大変優秀なので、とても順調に動けております。それに、開店日に領主様にご来店いただけるなど、これほど光栄なことはございません」

「そうかい?では、この店のおすすめを頼むことにしようか」 


 この店は上流階級をターゲットにしているものの、一般的なコース料理はあえて設定をしていない少し変わった店で、コースであれば前菜から始まりスープや魚料理、肉料理と軽く10皿近くになる。
 だが、この店では多くても3皿と決めてある。前菜、メイン料理、デザートの3つだ。もちろん単品で頼むことも追加することも自由にできるので最低3皿というだけなのだ。

 ここナシュールは海から遠いので一般的に肉料理が多いのだが、高級店に限っては魚料理も種類は豊富にあり、メイン料理はこの中から選ぶことになる。もちろんコンセプトに沿ったもので、ハーブやスパイスを使った料理に限られている。
 

 この日のメイン料理は、ハーブを使った子羊の香草焼きにスパイスの効いたオムレツのカットされたものが付け合わせについていた。
 この香草焼きはハーブで香り付けしたラム肉を焼いたもので、オムレツは茹でて細かくしたジャガイモとベーコンにスパイスを混ぜて卵でとじたタイプのものだ。どちらもハーブやスパイスの香りに食欲を刺激されるほど美味しかった。

 ラム肉は臭みもなく肉も柔らかい。ハーブの香りにニンニクも効いていて、肉の上に乗せられているハーブがまた香りを立たせているようで、目でも楽しめる料理だ。
 オムレツもジャガイモとベーコンの食感が良くスパイスも効いていて、ラム肉と一緒に食べるといい感じだなと思った。


「これは美味しい。今までこんなに香りがよくて刺激のあるものは食べたことがない。これはワインも進みそうだね」


 ベイリーの表情からも心からの言葉だと思い、クラウディアも嬉しかった。
 公爵家当主ともなるといままでに色々なものを食べてきているはずだからこそ、その人物の口から美味しいという言葉が出るという事は、それはお世辞ではなく本当だと受け止めるべきだろう。


「父上、この料理は本当においしいですね。このスパイスですか?とても気に入りました」

「まあ、ジェラルド。そんなに気に入ったの?」 


 みんなで口々に料理の感想を言い合い、クラウディアは料理のチョイスは間違いではなかったと思った。
 そしてフィンのリサーチも的確だった事も嬉しかった。
 気軽に料理を楽しんでもらおうと、あえてコース料理を設定しなかったことが意外とよかったのかもしれない。

 メイン料理の後にはハーブティとスパイスがきいたチーズケーキがデザートとして提供された。


「うん。これもいいね」


 甘さが控え目に仕上げられたチーズケーキは、スパイスと合うか心配だったがそれも杞憂だったようだ。
 ハーブティはカモミールを用意してもらい、リラックス効果や消化促進に効果があることを話すと、これもまた好評だった。


「私はこの店を気に入ったのだが、クラウディアはどうだい?」

「私も気に入りました。今度は他の料理も食べてみたいです」

「そうか。では、また来るとしよう。皆も賛成だね?」





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