やり直ししてますが何か?私は殺される運命を回避するため出来ることはなんでもします!邪魔しないでください!

稲垣桜

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第七章

91 緊張

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 ウィルバートの練習に本格的に参加して1年が過ぎ、その間に色々なことがあった。
 想いを告げられたり、高価な贈り物を貰ったりと、最近は練習に来るたびに何かあるような気もしている。

 ニコラスは仕事の関係で毎回参加できるわけではないのだが、最近では参加率が意外と高かったりする。今日もサラから参加することを聞いていたので、正直嬉しくもあり、また何とも言ない緊張もしていた。

 そしてテオドールもまた、クラウディアへアプローチを繰り返している事もあり、正直言ってウィルバートでの練習は心苦しい瞬間が山のようにあって困る。


「ねえ、ディア?先に少しやらない?」


 剣を持って立ち上がるサラに頷いて同じく立ち上がる。
 剣舞の練習も終わっていたので、本練習前の少しの時間を使って対戦することにした。


「いいよ。でも、サラ強いからね」


 幼いころから剣術を嗜んでいるサラは、クラウディアが初めて練習に参加したときにはもう上級に手が届くほどのレベルだった。それなのにクラウディアの為に時間を割いてくれ、そして妹のように可愛がってくれて、サラには頭が上がらなかった。
 サラのように強くなりたい。ただそれだけが目標だった。


 「「よろしくおねがいします」」


 声をかけて剣を交えた。
 練習前の身体慣らしということもあり、サラはクラウディアに合わせたレベルで付き合ってくれている。


「ディア、ここ数か月でレベルが上がってるね「そうかな?でも、体力をもっと付けなきゃ」 


 そうしているうちに、三人がジークフリートと一緒にやってくるのが見えた。練習開始の時間になったのだろう。


 「サラ、ディア、始めるぞ」


 その声で二人は剣を下ろして一礼し、ジークフリートの前に駆け寄る。




「ディアーナ、もう2年目になるか?続くか心配していたが、よく頑張っているな。剣舞もしっかりと覚えているし、これなら父親も喜ぶぞ」

「ありがとうございます。でも、まだまだです。サラの足元にも及ばないので、もっと練習をしなければいけないと思っているところです」


 クラウディアはサラと知り合えたことが本当に良かったと思っていた。自分の目標となった、姉のような存在でもあるサラの存在は、クラウディアにとってもかけがえのないものとなってきているのだ。


「サラと比べてはダメだぞ。あいつは特別だ。だが、ディアーナも今のように練習していけばすぐ強くなれる」


 ウィルバート当主から褒めてもらったことは、クラウディアの自信にもなり「毎日、頑張ろう!」そう思ったのだった。そしてその日の練習はいつもよりも気合が入った。強くなれると言われては、やらないという選択肢はなかった。


 
「テオドール、サラとやってみろ。ローラント、お前は私が相手をしよう」


 ジークフリートがそう言って、細かく指示を出していると、クラウディアの側にニコラスがやってきた。


 「ディア、疲れたか?」


 練習とは違う優しい表情のニコラスがクラウディアに話しかけてきた。練習の時は少し甘い顔を浮かべることもあるが基本的には厳しい。


 「少しはね…まだまだ体力を付けなきゃって思った」


 剣を握り素振りをしながらそう言ったら「こうしたほうがいいぞ」と後ろから姿勢を正してくれた。
 「ほら、ここが開いていると力が逃げる」耳元で声を出されるとドキドキしてしまい、まともな練習になりそうにない。


「良くなったな。これを覚えておけ。大事なことだ」

「こうね、わかった。ありがとう、ニック」

「ディア、お前はどうして剣術を習うんだ?」


 ニコラスが思ったことは確かなのだ。
 前にテオドールにも聞かれた事だが、公爵家なのだからいくらでも護衛として雇うことはできる。


 「私は、自分の身は自分で守りたいの。身近に迫った危機は自分でしか対応できないでしょ?」


 前回の、あの切られた瞬間を思い出し、目を閉じ唇を噛み締めた。もしあの時と同じ事が起こるのならば、自分でなんとかしようと思って剣術を習い始めたのだから。


「普通に生活している限りはそんな場面はそうそうないだろう?」


 ニコラスの声に、現実に引き戻される。


「そうだけど、習いたかったし、今はとても充実しているわ」


 満面の笑みを浮かべるクラウディアがとても眩しく見えて、思わず抱きしめてしまいたくなる。その気持ちをどうにか押しとどめるようにして彼女を見ていた。






「サラは休め。ディアーナはテオとやってみろ。ニコラスはローラントとだ」


 ジークフリートの指示通り、間隔を置いて始める。サラも少し離れたところで休みながら、それぞれの対戦を見ていた。ジークフリートはニコラスやテオドールの相手をする時には、一切手を抜かないので、彼らは必死に応戦しているような感じになっている。いくらニコラスが強いとはいえ、まだ当主クラスには敵わない様だ。

 テオドールはジークフリートに何かを言われたのか、クラウディアの相手をする時、何かとアドバイスを入れてくれた。自分の欠点のわからなかったことを気付かせてくれる、そんなところが嬉しかった。


「ディア、本当に頑張ってるな。これなら、アルドーレの新人なんかには負けないぞ」

「もう、揶揄わないでよ。そんなわけない事ぐらいわかってるわよ」 


 ははっとテオドールは笑いながら軽々とクラウディアの剣を受け、すぐに反撃に転じた。慌てて間合いを取り、息を整える。


「あぁ!もう一回!」


 苦手な方向から攻撃をしてくるテオドールに苦慮しながら、何とか対策を練る。自分が苦手なところを教えてくれているのだから、そこを克服すればいいだけだ。
 冷静に考えながら何度か攻撃をかわす。そして、一瞬のスキを作り反撃する。


「おっ、やるな」


 テオドールの意図していることが分かったので、それからはあっという間にコツをつかめた。が、流石にテオドールに勝てるわけもなかった。


「はぁ…テオ、ありがとう」

「いや、よくできてたぞ。お前のいいところは、諦めないところだな。ただ、少しやりすぎるけどな」


 笑いながら肩をポンと叩く。クラウディアとしては、やりすぎというような言葉はよく聞くので、何とも言えない気持ちになる。


「知りたい事もたくさんあるし、やりたい事もたくさんあるからね。時間だって、無限にあるわけじゃないから、無駄にできないよ」

「まあ、そうだけどな…もっと時間があればいいと思うときはあるな」

「そうでしょう?私も、もっと時間があったらっていつも考えてるわ」


  そう言ったクラウディアの表情が少し暗くなったような気がしたが、すぐに元に戻る。そして振り返ってテオドールを見た。
 


 
 
 練習が終わり、この日もサラと他愛のない話をして別れ、帰路へ着こうと思っていると、いつものようにニコラスに捕まった。


「ディア、さっきの事だが…」


 もう忘れていてほしかったが、流石にそう都合よくはいかないようだった。


 「何かあったら、俺を呼べ。頼れ。いいな?約束だぞ」


 そう言ってクラウディアを優しく抱き止めて頭を撫でる。
 その手は優しく、心配してくれてるのがわかるそんな声だった。その優しい声に、そして温もりに安堵の気持ちを感じ、ドキドキする気持ちをどうしていいのかわからなかった。


「ありがとう」

「あたりまえだろう?お前を守る役目は、他の人間には任せたくないからな」







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