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第七章

83 ニコラスSIDE

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 彼女のあの笑顔を見ていると心が温かくなる。

 ふいに見せる可愛さにも目を奪われ、その度に心臓が跳ねる。


 初めて会った時、心の奥底で何かを訴えかける感情があった。それが何かわからないまま、自分が女性に抱く警戒心や嫌悪感が湧き出て冷たい態度をとっていたことは否めない。
 だが何度顔を合わせても、彼女の態度はいままでの令嬢達とは全く違って、一切の恋慕の情など抱く様子もそういう視線すらも向けてくることはなかった。


 練習の時でも極力接触は避けていたのも事実だ。

 彼女を近くに感じると、どういう訳か胸がざわつく。
 容姿や声ではない心の奥底にある何かが訴えかけてくるような、そんな不思議な気持ちが湧いてくる事を認めたくなかった。

 俺はその意味も分からず、その何かを避けていた。



 今まで気軽に接してきた令嬢はサラしかいなかった。

 だが、今では練習で顔を合わせる度にの存在が気になって仕方がない。
 心の奥底から湧き上がる彼女への表現しようのない不思議な想いが、そしてあの屈託のない笑顔が、今では抱きしめたいという気持ちとなって溢れ出てくる。


 これまで誰に対しても、そんな気持ちなど一度も感じたことなどないのに。

 この気持ちを抑えるのがどれだけ大変か…顔にでも出てテオ達に気付かれるわけにはいかない。



 この日の練習で、彼女に結婚しようと、本気だと言ったが受け入れてはもらえなかった。
 誰とも結婚する気はないのだと言った彼女の表情は、無理に笑顔を浮かべているように見えた。


 何かを隠しているのだろうか?

 テオとも何もないと言ってはいたが、それを鵜呑みにするのは危険だろうとも直感で感じた。



 俺は公爵家の人間だ。
 俺だけの一方的な想いで成就することはないのだから、どうにかして彼女を振り向かせたい。

 どうやったら彼女の考えを変えられる?

 どうすれば前向きに考えてもらえる?


 しかし、もし俺を選んでくれるなら、父上には悪いが弟に家督を譲ることもいとわない。彼女さえ側に居てくれれば、それだけで生きていける。

 彼女の笑顔が見たい。

 彼女の声を聞きたい。

 強く抱きしめて彼女の温もりを感じたい。


 ウィルバートから帰る度に、心に穴が開くような気持になる。
 早く次の練習にならないかと、その日は彼女は参加するのだろうかと。


 ウィルバートに行き、その姿を確認するまで心臓が早鐘を打つ。


 誰にも渡したくない。

 自分の腕の中だけに留めておきたい。

 自分にだけあの笑顔を見せて欲しい。


 こんな醜い考えを持つとは思わなかった。

 なんとかして彼女に俺の想いを受け止めてもらいたい…


 

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