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第七章
79 祖父の元へ
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「お祖父様、こんにちは」
「おお、クラウディア。元気そうだな」
いつも笑顔で迎えてくれるのだが、カルロスの部下からするとそういう表情を見ることはないそうで、笑顔を見られるとその日はいいことがあると言われているらしい。
「今日はどうしたんだ?」
「レイモンとブレイズに会いに来たの」
「レイモンさん、いますか?」
「これはクラウディア様、今日はどうなされたのですか?」
レイモン・ウィンドウは慌てて立ち上がり、クラウディアを部屋の中の椅子までエスコートをした。その姿はその辺にいる下級貴族よりもよっぽど貴族らしい。
風貌は年の頃30前と若く、肩まで伸びたさらさらの髪はライトブラウンで瞳は薄い緑をしている。ヒュー・ウエストと同じような雰囲気を纏っており、とても落ち着いた印象だ。
「これを、もう一回見てもらいたくて」
そう言って取り出したのは、ついこの間トランから届いた新作のポーションだった。
「ポーションですね。前に公爵様からご依頼を受けた時のことを思い出しましたよ。クラウディア様の頭の中を見てみたいものです」
はじめて作ったポーションをベイリー経由で鑑定を依頼したのがレイモンだったのだ。
その作り方や考え方にとても驚いたらしく、その後にここを訪れた際、レイモンに捉まり長々と相手をさせられたことを思い出していた。
鑑定に時間がかかるのであれば、ブレイズのところにでも行こうかと思っていたが「最優先事項です」と言われてこれでいいのかと心配になったが、ありがたく待たせてもらうことにした。
鑑定は専用の魔道具を使って行い、結果はリンクされた用紙に反映されるというもので、クラウディアも見るのは初めてだった。
「これが鑑定する魔道具?どういう仕組みなの?」
根掘り葉掘り聞きたい衝動に駆られ、目がキラキラと輝いているのだが、この仕組みに関しては少々複雑すぎて説明しきれないと判断し「今度、ゆっくりとお話しますね」と体よく逃げる。というか、またゆっくりと話す時間が欲しいと考えていた。
その意図がわからないわけではないが、クラウディアも好奇心に負け了承の返事をするのだった。
「魔道具のここに、対象物を置きます。そして、魔力を流す。ただ、魔力を流す際に繊細な魔力操作が必要なので、扱える人間が少ないことが難点なのです」
魔力が流れ始め、順々に発光する部分が移動していき、最後には全体が光を帯び、スーッと消えていく。
その時間の長さは鑑定する物によって違うらしいが、複雑なものほど時間がかかるようだ。今回は、そこまで長くなかったので、物自体は単純だったのだろう。
レイモンは鑑定結果が記された用紙に視線をやり、目を通したのだが、明らかに驚いているような表情を浮かべてクラウディアを見た。
「前回に鑑定した物より数段効果が高いですね。安全性も常習性も問題ありません」
「本当?ありがとう」
個別に詳細を記した用紙を一緒に渡されクラウディアも目を通した。レイモンの言った通り前回とは違う結果で、アナスタシアに戻ったらしっかりと確認しようと頭の中にメモをする。
―――この方法で他の薬草も試してみると意外とうまくいくかしら?
「レイモンさん、ありがとう。また持ってくるから、鑑定お願いね」
「お待ちしてますよ。ゆっくり話す時間もお願いしますね」
「もちろんよ」
レイモンとの魔道具談義を後日にすることを約束して、部屋を後にした。
ブレイズの研究室に着くとコルビーが来ていて、クラウディアが来ていたことを知らなかったと驚かれたのだが、そのままいつも通りの魔道具の話に花が咲いた。
レイモンの所の鑑定魔道具についても話したのだが、やはり魔道具は奥深いものだと思った。
そしてブレイズからは、以前送っておいた通信魔道具のことを聞いてみた。
「ブレイズ。この間送った魔道具ってどうだった?」
「ああ、よくできてたぞ。仕上げも綺麗だし上出来だ。だが、あれは実際に使ってみないと、どこが不足しているか確認できないからな。今、カルロス様が持っていらっしゃる」
「お祖父様が持っているの?」
「可愛い孫が作ったものだからと言って、持っていかれたんだ」
「お前、また何か作ったのか?本当に何でも思いつくんだな」
「はぁ…あいつに付き合わないで帰ってこればよかった」
「今日、学園だったんでしょ?」
「今日は休みだったんだ。なのに、テオが付きあえって」
「テオって…もしかして……」
「テオドール・エーレ・ウィルバート。俺の友達なんだが、クラウディアは同じ公爵家だから知ってるだろう?」
「知ってるけど、コルビー、彼と友達なの?」
「友達と言うか悪友だな…アルドーレ騎士学校の時は、先生に悪戯してよく二人で居残りさせられたんだよな」
「そんなことしてたの?子供ね…」
「いやいや…クラウディアに言われたくないな。お前だって子供だろう?」
「私、そんなことしないもの」
声を出して笑い合った。クラウディアにとって、ここまで気を使わないで話せる友人はそういないので、ここでの時間は好きだった。
コンコンとノックする音がして、扉が開く。
「ブレイズ、ここにクラウディアが来ていると思うのだが…」
顔を出したのはヒューで、レイモンからクラウディアが来ていることを聞いたらしくすぐ訪ねて来たのだった。
「ヒュー先生、どうしたのですか?」
「レイモンから君が来ていると聞いてね。時間があれば私の研究室に来ないか?この間の手紙に書いてあった魔術陣を考えてみたんだが、聞きたい事もあるし、どうかな?」
「行きます!今日、ヒュー先生がいないと聞いてて、残念に思っていたので、嬉しいです」
「俺も行ってもいいですか?」
コルビーが目をキラキラと輝かせて突然大声でそう言った。
「君は、コルビー…だったか?ブレイズの甥の」
「はい。コルビー・ブレイズです。ヒューさんの講義を何度か受けさせてもらっています。今日は会えて嬉しいです」
「そんなに緊張しなくていい。同僚だろう?じゃあ、君も来るといい。ブレイズ、いいか?」
ブレイズは「行かせなかったら後でうるさいから」と快諾し、ヒューの研究室へと向かった。
「クラウディア、君が書いたあの魔術陣、今までにない考察だったよ。付与を上掛けして、更に重ねるなんてね」
「細かい情報をいくつも入れるためにはそれしか思いつかなくて…」
「そこから少しずつ削っていくと、最終的に出来上がるようになるよ」
机の上にクラウディアが考えた魔術陣を改めて書いて、赤で直しているところがいくつもあった。
それらを見てみると、省略されたり置き換えられたりと一番最適だろうと考えたものが更に良い方向へと直されている。
「クラウディア、これは何の魔術陣なんだい?座標に…映像…音?」
「これは、通信魔道具なんだけど、映像と音も一緒に送れるように出来ないかと思って」
「映像と音?」
「うん。街の範囲で音だけのは出来てるけど、範囲を国内くらいには広げたいのよね。顔を見て話ができるように」
「そんなの…できるの…か…?てか、音のは出来てるって……」
ヒューがコルビーのその疑問に答えた。
「君がそう思うのはよくわかる。私もこれを見るまではそう思っていたからね」
そう言って、コルビーの前に紙を持ってきて説明を始めた。
「いいかい?まずここが映像を取り込むところだろう?そして、ここが送るところ。声も一緒にだよ。そして、ここが相手の座標の確認と、これが発信座標を示している。そして、魔力を流すことでやり取りができるが、本体のここ。これに魔力の登録をすることで、使える人物を設定できるようになっているんだ」
ヒューの指さす場所、場所に書かれている魔術陣は、細かく繊細で、それらがいくつも重なるように構成されている。コルビーは説明されてようやく理解は出来たものの、自分では絶対に思いつかない回路だと思った。
「クラウディア…これ、一人で考えたのか?」
「思いついてからここまでするのには時間がかかったけど、形になったのはヒュー先生のアドバイスがあったからよ」
あっけらかんと話す彼女の顔を見て、どうあがいても敵わないんだという気持ちに襲われ、背筋に寒気が走った。敵わないなら、その分の知識を享受する方が得策だろう。
「コルビー、これは君が形にしてみるかい?ブレイズも喜んで手伝うだろう。これが出来れば、君の腕も上がること間間違いないが、どうする?」
ヒューのその言葉に、コルビーの好奇心が溢れ出てくるのを自覚した。ここでやらないという選択肢はない。
「やります。いえ…やらせてください」
「おお、クラウディア。元気そうだな」
いつも笑顔で迎えてくれるのだが、カルロスの部下からするとそういう表情を見ることはないそうで、笑顔を見られるとその日はいいことがあると言われているらしい。
「今日はどうしたんだ?」
「レイモンとブレイズに会いに来たの」
「レイモンさん、いますか?」
「これはクラウディア様、今日はどうなされたのですか?」
レイモン・ウィンドウは慌てて立ち上がり、クラウディアを部屋の中の椅子までエスコートをした。その姿はその辺にいる下級貴族よりもよっぽど貴族らしい。
風貌は年の頃30前と若く、肩まで伸びたさらさらの髪はライトブラウンで瞳は薄い緑をしている。ヒュー・ウエストと同じような雰囲気を纏っており、とても落ち着いた印象だ。
「これを、もう一回見てもらいたくて」
そう言って取り出したのは、ついこの間トランから届いた新作のポーションだった。
「ポーションですね。前に公爵様からご依頼を受けた時のことを思い出しましたよ。クラウディア様の頭の中を見てみたいものです」
はじめて作ったポーションをベイリー経由で鑑定を依頼したのがレイモンだったのだ。
その作り方や考え方にとても驚いたらしく、その後にここを訪れた際、レイモンに捉まり長々と相手をさせられたことを思い出していた。
鑑定に時間がかかるのであれば、ブレイズのところにでも行こうかと思っていたが「最優先事項です」と言われてこれでいいのかと心配になったが、ありがたく待たせてもらうことにした。
鑑定は専用の魔道具を使って行い、結果はリンクされた用紙に反映されるというもので、クラウディアも見るのは初めてだった。
「これが鑑定する魔道具?どういう仕組みなの?」
根掘り葉掘り聞きたい衝動に駆られ、目がキラキラと輝いているのだが、この仕組みに関しては少々複雑すぎて説明しきれないと判断し「今度、ゆっくりとお話しますね」と体よく逃げる。というか、またゆっくりと話す時間が欲しいと考えていた。
その意図がわからないわけではないが、クラウディアも好奇心に負け了承の返事をするのだった。
「魔道具のここに、対象物を置きます。そして、魔力を流す。ただ、魔力を流す際に繊細な魔力操作が必要なので、扱える人間が少ないことが難点なのです」
魔力が流れ始め、順々に発光する部分が移動していき、最後には全体が光を帯び、スーッと消えていく。
その時間の長さは鑑定する物によって違うらしいが、複雑なものほど時間がかかるようだ。今回は、そこまで長くなかったので、物自体は単純だったのだろう。
レイモンは鑑定結果が記された用紙に視線をやり、目を通したのだが、明らかに驚いているような表情を浮かべてクラウディアを見た。
「前回に鑑定した物より数段効果が高いですね。安全性も常習性も問題ありません」
「本当?ありがとう」
個別に詳細を記した用紙を一緒に渡されクラウディアも目を通した。レイモンの言った通り前回とは違う結果で、アナスタシアに戻ったらしっかりと確認しようと頭の中にメモをする。
―――この方法で他の薬草も試してみると意外とうまくいくかしら?
「レイモンさん、ありがとう。また持ってくるから、鑑定お願いね」
「お待ちしてますよ。ゆっくり話す時間もお願いしますね」
「もちろんよ」
レイモンとの魔道具談義を後日にすることを約束して、部屋を後にした。
ブレイズの研究室に着くとコルビーが来ていて、クラウディアが来ていたことを知らなかったと驚かれたのだが、そのままいつも通りの魔道具の話に花が咲いた。
レイモンの所の鑑定魔道具についても話したのだが、やはり魔道具は奥深いものだと思った。
そしてブレイズからは、以前送っておいた通信魔道具のことを聞いてみた。
「ブレイズ。この間送った魔道具ってどうだった?」
「ああ、よくできてたぞ。仕上げも綺麗だし上出来だ。だが、あれは実際に使ってみないと、どこが不足しているか確認できないからな。今、カルロス様が持っていらっしゃる」
「お祖父様が持っているの?」
「可愛い孫が作ったものだからと言って、持っていかれたんだ」
「お前、また何か作ったのか?本当に何でも思いつくんだな」
「はぁ…あいつに付き合わないで帰ってこればよかった」
「今日、学園だったんでしょ?」
「今日は休みだったんだ。なのに、テオが付きあえって」
「テオって…もしかして……」
「テオドール・エーレ・ウィルバート。俺の友達なんだが、クラウディアは同じ公爵家だから知ってるだろう?」
「知ってるけど、コルビー、彼と友達なの?」
「友達と言うか悪友だな…アルドーレ騎士学校の時は、先生に悪戯してよく二人で居残りさせられたんだよな」
「そんなことしてたの?子供ね…」
「いやいや…クラウディアに言われたくないな。お前だって子供だろう?」
「私、そんなことしないもの」
声を出して笑い合った。クラウディアにとって、ここまで気を使わないで話せる友人はそういないので、ここでの時間は好きだった。
コンコンとノックする音がして、扉が開く。
「ブレイズ、ここにクラウディアが来ていると思うのだが…」
顔を出したのはヒューで、レイモンからクラウディアが来ていることを聞いたらしくすぐ訪ねて来たのだった。
「ヒュー先生、どうしたのですか?」
「レイモンから君が来ていると聞いてね。時間があれば私の研究室に来ないか?この間の手紙に書いてあった魔術陣を考えてみたんだが、聞きたい事もあるし、どうかな?」
「行きます!今日、ヒュー先生がいないと聞いてて、残念に思っていたので、嬉しいです」
「俺も行ってもいいですか?」
コルビーが目をキラキラと輝かせて突然大声でそう言った。
「君は、コルビー…だったか?ブレイズの甥の」
「はい。コルビー・ブレイズです。ヒューさんの講義を何度か受けさせてもらっています。今日は会えて嬉しいです」
「そんなに緊張しなくていい。同僚だろう?じゃあ、君も来るといい。ブレイズ、いいか?」
ブレイズは「行かせなかったら後でうるさいから」と快諾し、ヒューの研究室へと向かった。
「クラウディア、君が書いたあの魔術陣、今までにない考察だったよ。付与を上掛けして、更に重ねるなんてね」
「細かい情報をいくつも入れるためにはそれしか思いつかなくて…」
「そこから少しずつ削っていくと、最終的に出来上がるようになるよ」
机の上にクラウディアが考えた魔術陣を改めて書いて、赤で直しているところがいくつもあった。
それらを見てみると、省略されたり置き換えられたりと一番最適だろうと考えたものが更に良い方向へと直されている。
「クラウディア、これは何の魔術陣なんだい?座標に…映像…音?」
「これは、通信魔道具なんだけど、映像と音も一緒に送れるように出来ないかと思って」
「映像と音?」
「うん。街の範囲で音だけのは出来てるけど、範囲を国内くらいには広げたいのよね。顔を見て話ができるように」
「そんなの…できるの…か…?てか、音のは出来てるって……」
ヒューがコルビーのその疑問に答えた。
「君がそう思うのはよくわかる。私もこれを見るまではそう思っていたからね」
そう言って、コルビーの前に紙を持ってきて説明を始めた。
「いいかい?まずここが映像を取り込むところだろう?そして、ここが送るところ。声も一緒にだよ。そして、ここが相手の座標の確認と、これが発信座標を示している。そして、魔力を流すことでやり取りができるが、本体のここ。これに魔力の登録をすることで、使える人物を設定できるようになっているんだ」
ヒューの指さす場所、場所に書かれている魔術陣は、細かく繊細で、それらがいくつも重なるように構成されている。コルビーは説明されてようやく理解は出来たものの、自分では絶対に思いつかない回路だと思った。
「クラウディア…これ、一人で考えたのか?」
「思いついてからここまでするのには時間がかかったけど、形になったのはヒュー先生のアドバイスがあったからよ」
あっけらかんと話す彼女の顔を見て、どうあがいても敵わないんだという気持ちに襲われ、背筋に寒気が走った。敵わないなら、その分の知識を享受する方が得策だろう。
「コルビー、これは君が形にしてみるかい?ブレイズも喜んで手伝うだろう。これが出来れば、君の腕も上がること間間違いないが、どうする?」
ヒューのその言葉に、コルビーの好奇心が溢れ出てくるのを自覚した。ここでやらないという選択肢はない。
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