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第七章
76 魔道具の製作
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クラウディアはこの日乗馬でもしようと考えていたのだが、あいにく朝から雨模様で窓から外を眺めながらため息を一つ吐いた。
「はぁ…残念だわ。久しぶりに遠くまで行こうかと思っていたのに」
晴れそうにない厚い雨雲を見上げて呟いた。
夏なのだからこれは恵みの雨だが、出かけようと思っている時には残念に思ってしまう。だが、窓から見える木々や草花はとても生き生きして見え、思わず笑みが零れる。「来週の晴れた日でも行こう」そう思って、気持ちを切り替えた。
「そう言えば、収納魔法の付与したバッグ使ってないわね。この中に入れたものって、鮮度が保たれるのかな?それなら商会の荷物の運搬に仕えるわよね」
ヒューの元で作ったものはそのままカルロス預かりになっているので、帰って来てから自分のバッグに手を入れてみた。使うというより作る方が重要視していたこともあり、今の今まで使う事はなかった。
そもそも人の前で使う事は出来ないだろうと一応思っていたので、仕舞いこんでいるという方が合っているのかもしれない。
魔術陣の一部分を少し変えて時間の経過に関する箇所を重点的に改変させたので、この中では鮮度が保たれるっていうことになった。これを使えば、商会の生鮮物の運搬で、内陸部でも海産物が安価で手に入るようになるだろうと考えていた。
―――そういえば、バッグを使わないで、空間から繋がるのかな?
手ぶらでいる時に、その空間に転移陣のようなものでつながるのかと考えて、頭をひねり、案を絞り出そうとするのだが、なかなかうまくいかない。
考え方を変えて、空間に見えないバッグがあると仮定したうえで考えてみたが、これが意外とうまくいったみたいで、あっさりと出し入れできるようになった。
「複雑に考えたらだめなのか……」
あっさりと出来たものの人前で使うのは憚られるため、使うのは人の居ない時だけにしなければ……。バッグでさえもまだ世の中には出ていないのだから、カルロスの許可が出てからにしようと思い、とりあえずは必要そうなものを入れておこうと、ごそごそと引き出しの中を探っていると懐かしいものを見つけた。
「あ…折り紙だわ」
引き出しの奥に小さい頃に折った犬が出てきた。
折り紙というほどのものではないが、顔が上手に描けず何度も作り直したことを思い出す。
「この頃は、昔のことを思い出してなかったんだよね」
折り紙を手に取ると何だか無性に作りたくなり、折り紙をしようと考えて紙を探した。
クローゼットの中の、小さい頃に使っていたものが入れられている箱の中に折り紙を発見し、思わず顔がほころぶ。
「さて…何を折ろうかな」
自分が作れるものはそうないが、時間を潰すのには丁度いいだろうと考えて、机の上に折り紙を広げた。
「やっぱり、鶴は定番よね」そう言いながら鶴を折る。考えなくても折れるのは、体が覚えているという事なのだろう。そう考えながら次の紙を手に取った。そして、次々と出来上がっている。それを不思議な光景を見るようにメアリが覗き込んでいる。
「お嬢様、これは何ですか?蝶?こっちは鳥ですか?」
「そうよ。蝶と鶴。それで、これが魚よ。メアリも作る?教えてあげるわ」
クラウディアはメアリに風船を教えた。これなら、小さい子供に作ってあげると遊べるのでいいかと思ったのだ。深緒も子供の頃に母親に作ってもらったことを思い出した。
「こうやって、ここを入れて、それから、ここから膨らますのよ」
ふーっと息を吹き込み膨らませて、手の平でポンポンと弾ませてみる。
「まあ、お嬢様。これは楽しいですね」
「でしょ?本当なら、もっと薄い大きい紙で作りたいのよね」
そして蛙やバッタなども作ってみた。紙飛行機も作ったものの、この世界に飛行機はないので説明のしようがないので、名前なしで飛ばして遊ぶものだと胡麻化す。残念ながら覚えていたのは10個あまりだったが、これはこれで楽しかった。そして鶴の折り紙を手に取り、ふと考えた。
「これが飛んで行って、人に届けばいいのにな…」
そんなことを考えると、頭の中に色々な魔術陣が浮かんで、手がおろそかになりメアリから声を掛けられ、途中になっていたものを仕上げた。
「まあ、これは猫ですか?一枚の紙からこんなにできるなんて素晴らしいですね。お嬢様は何でも知っていらっしゃって、私の自慢のお嬢様ですわ」
メアリが感嘆の声を上げて、これでもかというほど褒めてくれる。そして、折りあがったものを一つ一つ興味深く見ていたので、「持って行く?」というと、「ありがとうございます」と笑顔になってエプロンのポケットに入れてニコニコとしていた。
その日の夜、ベッドに入って色々と方法を考え始めるとなかなか眠れず、日中に折った、鳩や蝶を手に取って色々な角度から眺めてみる。
「うーん、動かすのは大丈夫だと思うけど、どれだけの距離が行けるかな?目的に辿り着く方法もどうするか…」
クラウディアは何度も魔術陣を書いてみる。
「手紙にするなら魔術陣を見えないようにしないと。魔力を辿るより、目印を追う方がいいかな。手紙自体を運ぶ方法も有りか…」
それから、目的を認識する方法や、魔力を辿る方法、魔力の維持から他人が手に入れた場合、届いたことの確認など色々と考えて、気が付くと空が白んでいる。
「はぁ…もう朝?確か、今日はウィルバートに行く日よね…」
そのまま寝る事を諦め、ベランダへ出て思いっきり深呼吸をした。朝のすがすがしい空気を体に取り込み、この日も一日頑張ろうと心に決めて背伸びをした。
「はぁ…残念だわ。久しぶりに遠くまで行こうかと思っていたのに」
晴れそうにない厚い雨雲を見上げて呟いた。
夏なのだからこれは恵みの雨だが、出かけようと思っている時には残念に思ってしまう。だが、窓から見える木々や草花はとても生き生きして見え、思わず笑みが零れる。「来週の晴れた日でも行こう」そう思って、気持ちを切り替えた。
「そう言えば、収納魔法の付与したバッグ使ってないわね。この中に入れたものって、鮮度が保たれるのかな?それなら商会の荷物の運搬に仕えるわよね」
ヒューの元で作ったものはそのままカルロス預かりになっているので、帰って来てから自分のバッグに手を入れてみた。使うというより作る方が重要視していたこともあり、今の今まで使う事はなかった。
そもそも人の前で使う事は出来ないだろうと一応思っていたので、仕舞いこんでいるという方が合っているのかもしれない。
魔術陣の一部分を少し変えて時間の経過に関する箇所を重点的に改変させたので、この中では鮮度が保たれるっていうことになった。これを使えば、商会の生鮮物の運搬で、内陸部でも海産物が安価で手に入るようになるだろうと考えていた。
―――そういえば、バッグを使わないで、空間から繋がるのかな?
手ぶらでいる時に、その空間に転移陣のようなものでつながるのかと考えて、頭をひねり、案を絞り出そうとするのだが、なかなかうまくいかない。
考え方を変えて、空間に見えないバッグがあると仮定したうえで考えてみたが、これが意外とうまくいったみたいで、あっさりと出し入れできるようになった。
「複雑に考えたらだめなのか……」
あっさりと出来たものの人前で使うのは憚られるため、使うのは人の居ない時だけにしなければ……。バッグでさえもまだ世の中には出ていないのだから、カルロスの許可が出てからにしようと思い、とりあえずは必要そうなものを入れておこうと、ごそごそと引き出しの中を探っていると懐かしいものを見つけた。
「あ…折り紙だわ」
引き出しの奥に小さい頃に折った犬が出てきた。
折り紙というほどのものではないが、顔が上手に描けず何度も作り直したことを思い出す。
「この頃は、昔のことを思い出してなかったんだよね」
折り紙を手に取ると何だか無性に作りたくなり、折り紙をしようと考えて紙を探した。
クローゼットの中の、小さい頃に使っていたものが入れられている箱の中に折り紙を発見し、思わず顔がほころぶ。
「さて…何を折ろうかな」
自分が作れるものはそうないが、時間を潰すのには丁度いいだろうと考えて、机の上に折り紙を広げた。
「やっぱり、鶴は定番よね」そう言いながら鶴を折る。考えなくても折れるのは、体が覚えているという事なのだろう。そう考えながら次の紙を手に取った。そして、次々と出来上がっている。それを不思議な光景を見るようにメアリが覗き込んでいる。
「お嬢様、これは何ですか?蝶?こっちは鳥ですか?」
「そうよ。蝶と鶴。それで、これが魚よ。メアリも作る?教えてあげるわ」
クラウディアはメアリに風船を教えた。これなら、小さい子供に作ってあげると遊べるのでいいかと思ったのだ。深緒も子供の頃に母親に作ってもらったことを思い出した。
「こうやって、ここを入れて、それから、ここから膨らますのよ」
ふーっと息を吹き込み膨らませて、手の平でポンポンと弾ませてみる。
「まあ、お嬢様。これは楽しいですね」
「でしょ?本当なら、もっと薄い大きい紙で作りたいのよね」
そして蛙やバッタなども作ってみた。紙飛行機も作ったものの、この世界に飛行機はないので説明のしようがないので、名前なしで飛ばして遊ぶものだと胡麻化す。残念ながら覚えていたのは10個あまりだったが、これはこれで楽しかった。そして鶴の折り紙を手に取り、ふと考えた。
「これが飛んで行って、人に届けばいいのにな…」
そんなことを考えると、頭の中に色々な魔術陣が浮かんで、手がおろそかになりメアリから声を掛けられ、途中になっていたものを仕上げた。
「まあ、これは猫ですか?一枚の紙からこんなにできるなんて素晴らしいですね。お嬢様は何でも知っていらっしゃって、私の自慢のお嬢様ですわ」
メアリが感嘆の声を上げて、これでもかというほど褒めてくれる。そして、折りあがったものを一つ一つ興味深く見ていたので、「持って行く?」というと、「ありがとうございます」と笑顔になってエプロンのポケットに入れてニコニコとしていた。
その日の夜、ベッドに入って色々と方法を考え始めるとなかなか眠れず、日中に折った、鳩や蝶を手に取って色々な角度から眺めてみる。
「うーん、動かすのは大丈夫だと思うけど、どれだけの距離が行けるかな?目的に辿り着く方法もどうするか…」
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「手紙にするなら魔術陣を見えないようにしないと。魔力を辿るより、目印を追う方がいいかな。手紙自体を運ぶ方法も有りか…」
それから、目的を認識する方法や、魔力を辿る方法、魔力の維持から他人が手に入れた場合、届いたことの確認など色々と考えて、気が付くと空が白んでいる。
「はぁ…もう朝?確か、今日はウィルバートに行く日よね…」
そのまま寝る事を諦め、ベランダへ出て思いっきり深呼吸をした。朝のすがすがしい空気を体に取り込み、この日も一日頑張ろうと心に決めて背伸びをした。
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