83 / 213
第七章
75 顔合わせ
しおりを挟む
次の週、前回と同じレストランの個室にルードの姿があった。そして、レヴィとナッシュも一緒だった。
「今日は商会長に会ってもらうが、この顔合わせが終わった後、一度移動するからそのつもりで」
軽く挨拶をして彼らの向かいの椅子に座る。
そして向かい合ったもの同士、顔をまじまじと見つめた。
当初の話通り、レヴィにはこの先、王都のロワールに支店が出来た時の支部長を任せ、ナッシュには腕を見込んで商会の警備部門を任せる事にした。
そして粗方の話を終えてから用意されていた馬車に乗り込んだ。
その馬車は町を抜けて貴族街の奥へと進んで行く。王都の貴族街など踏み入れたこともないのでどの屋敷がどの家門かもわからないまま、周囲の景色が変わっていくのを見て、その景色が進むにつれ二人の緊張も膨れ上がっていく。
「さあ、ここだ」
今まで見たこともないほどの大きなお屋敷の前に着いたが、その門から屋敷は見えず、さらに木立の中を馬車で進むことになった。そしてようやく見えてきた邸の前で馬車から降りるとその屋敷の執事が声を掛けてきた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
執事の案内で屋敷の中へと進んで行くのだが、貴族に仕えていたナッシュでさえ、これほど大きく気品に満ちた屋敷に入ったことはなかった。
広い玄関ホールの壁に掛けられた絵画や、飾られている調度品の一つをとっても素晴らしいものばかりで、相当高位の貴族だと思われたがまだ誰からもその説明はなかった。
そして応接室へ通され、座り心地の良いソファーに腰掛ける。この部屋もさすがに高位貴族と思われる内装で、そこまで華美ではないものの気品に満ちた落ち着きを感じる。
ドアをノックする音と共に執事が入室し、その後ろから部屋へ入ってきたのは、白い肌に豊かな金の髪をもち、輝く瑠璃の瞳を持ったとても美しい少女だった。今まで、これほど美しい少女を見たことはなかった彼らは、一瞬時間が止まったような感覚に襲われる。
「クロスローズ公爵家ご息女、クラウディア様です」
「今日はわざわざ来てもらって悪かったわ。クラウディア・リュカ・クロスローズよ。よろしくね」
二人は目を見開き、目の前に座る少女に釘付けになっていた。
クロスローズと言えばこの王国の筆頭公爵家であり、王族の次に位が高い家門だ。そのような最高位の貴族が、平民の我々と一緒の部屋で、こんな間近で気軽に話しかけてくれるとは信じられなかった。
「こちらから、レヴィ・クラウト、そして、ナッシュ・ロックフォードです」
「大変だと思うけれど、大まかなことはもうルードに伝えて計画書にまとめてあるから、それを見て直すところや補完するところは埋めて、最終決定稿を作ってもらえるかしら?遅くとも冬までに纏められれば、春前には稼働できるわよね」
満面の笑みを浮かべて目の前の二人に同意を得ようとしたのだが、思いの外緊張が解けていないようで、表情は固まったままだった。その様子を見てルードは二人に再度注意をした。
「クラウディア様の事を知っているのは、私達だけです。いいですね?一切、口外することは禁止です。それと、この先、私かクラウディア様に連絡を取る場合、ナッシュ、あなたに連絡係を務めていただきます」
「私……ですか?」
なぜ自分が選ばれるのだろうかと考えたのだが、ルードの説明で納得がいく。
「ナッシュは騎士としての実力もありますし、周囲への警戒力や気配を感じる能力が素晴らしいと聞いています。私どもとしては、クラウディア様の事を外部に漏らす訳にはいきません。極力連絡は避けたいのですが、そうはいかないでしょうし、あなたのその能力をフルに使っていただいて連絡役をお願いしたいのです」
そこまで言われて嫌とも自信がないとも言えず頷いた。責任は大きいが、ここまで信頼されるのも悪いものではない。
その後、次にすることを話して、追加の役員候補の六名との顔合わせの日程を決め、その日の話は終わりとなった。
クラウディアが部屋から出た後、ようやく二人の緊張も少しは解けたようでため息が漏れるのが聞こえる。
「オーナーが筆頭公爵家のご令嬢だとは思いもしませんでしたよ。こんなに緊張したことは初めてです。言っていただければ、もう少し心構えというものも出来ましたのに」
レヴィがルードに愚痴を言うようにそう言うと、ナッシュもまた同じように話し始めた。
「そうです。私も以前の仕事柄、色々な貴族の方に会う機会はありましたが、これほど高位の方には会う機会もなかったですし、あんなにお美しい方も初めてで、まともに話が出来ていたかも怪しいものですよ」
「話をしていても緊張していたでしょう。それなら当日の方が秘密も守れます。リスクは負えませんから。では、町へ戻りながら次の段取りを話しましょうか」
その言葉を最後にクロスローズの屋敷を後にした。
その数日後、ルードは残りの人物とも面談をし、契約書を交わしてルード達に引き合わせた。
マリソル・デボン
ブランカ・アッシュランド
ブラッドリー・ウェルワース
ロクサーヌ・ウェストフォルム
ルカ・マニング
キーラ・メープル
この30代前半の6名が、リベンジェス商会に加わった。
商会を立ち上げる事を考えた時にナシュールの中心部に近く、以前、商店の倉庫兼店舗で今現在は空き家になっている建物に目をつけていて、今回、ルードとフィンに話をしながら内装の改修を始めていた。
商会の建物の改修が終わらないうちから、フィンは頼まれた案件をまとめる為色々な場所へ赴き、色々な人に聞き込みをし、出店したい場所を探るべく通りの人の多さなどを観察したりと、数か月は王国内の主要都市を行き来する日々を送っていた。
“提案者”から、料理本についても任せてもらい、そのメニューの試作にも余念がなく、各都市の名物料理や郷土料理、特産品まで事細かに調べ上げ、どういったものが好まれるかを考えていた。
試作した料理は、その都市毎に試食をしてもらい、改善点などを見つけ、再度試食を…と何度もベストになるまで繰り返していた。
店の形態も、固定のものや祭りなどの屋台形式、テイクアウト専門なども考え、料金の幅や客層に至るまで、どこにどんな店が相応しいかを色々なパターンを考えてまとめていた。
―――まだ日はある。もう少しじっくりと考えてみよう。
手に持っていた資料を机の上に戻し、一度部屋を出る。そして、頭をスッキリさせようと外へと出て、空を見上げながら少し歩いた。
「今日は商会長に会ってもらうが、この顔合わせが終わった後、一度移動するからそのつもりで」
軽く挨拶をして彼らの向かいの椅子に座る。
そして向かい合ったもの同士、顔をまじまじと見つめた。
当初の話通り、レヴィにはこの先、王都のロワールに支店が出来た時の支部長を任せ、ナッシュには腕を見込んで商会の警備部門を任せる事にした。
そして粗方の話を終えてから用意されていた馬車に乗り込んだ。
その馬車は町を抜けて貴族街の奥へと進んで行く。王都の貴族街など踏み入れたこともないのでどの屋敷がどの家門かもわからないまま、周囲の景色が変わっていくのを見て、その景色が進むにつれ二人の緊張も膨れ上がっていく。
「さあ、ここだ」
今まで見たこともないほどの大きなお屋敷の前に着いたが、その門から屋敷は見えず、さらに木立の中を馬車で進むことになった。そしてようやく見えてきた邸の前で馬車から降りるとその屋敷の執事が声を掛けてきた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
執事の案内で屋敷の中へと進んで行くのだが、貴族に仕えていたナッシュでさえ、これほど大きく気品に満ちた屋敷に入ったことはなかった。
広い玄関ホールの壁に掛けられた絵画や、飾られている調度品の一つをとっても素晴らしいものばかりで、相当高位の貴族だと思われたがまだ誰からもその説明はなかった。
そして応接室へ通され、座り心地の良いソファーに腰掛ける。この部屋もさすがに高位貴族と思われる内装で、そこまで華美ではないものの気品に満ちた落ち着きを感じる。
ドアをノックする音と共に執事が入室し、その後ろから部屋へ入ってきたのは、白い肌に豊かな金の髪をもち、輝く瑠璃の瞳を持ったとても美しい少女だった。今まで、これほど美しい少女を見たことはなかった彼らは、一瞬時間が止まったような感覚に襲われる。
「クロスローズ公爵家ご息女、クラウディア様です」
「今日はわざわざ来てもらって悪かったわ。クラウディア・リュカ・クロスローズよ。よろしくね」
二人は目を見開き、目の前に座る少女に釘付けになっていた。
クロスローズと言えばこの王国の筆頭公爵家であり、王族の次に位が高い家門だ。そのような最高位の貴族が、平民の我々と一緒の部屋で、こんな間近で気軽に話しかけてくれるとは信じられなかった。
「こちらから、レヴィ・クラウト、そして、ナッシュ・ロックフォードです」
「大変だと思うけれど、大まかなことはもうルードに伝えて計画書にまとめてあるから、それを見て直すところや補完するところは埋めて、最終決定稿を作ってもらえるかしら?遅くとも冬までに纏められれば、春前には稼働できるわよね」
満面の笑みを浮かべて目の前の二人に同意を得ようとしたのだが、思いの外緊張が解けていないようで、表情は固まったままだった。その様子を見てルードは二人に再度注意をした。
「クラウディア様の事を知っているのは、私達だけです。いいですね?一切、口外することは禁止です。それと、この先、私かクラウディア様に連絡を取る場合、ナッシュ、あなたに連絡係を務めていただきます」
「私……ですか?」
なぜ自分が選ばれるのだろうかと考えたのだが、ルードの説明で納得がいく。
「ナッシュは騎士としての実力もありますし、周囲への警戒力や気配を感じる能力が素晴らしいと聞いています。私どもとしては、クラウディア様の事を外部に漏らす訳にはいきません。極力連絡は避けたいのですが、そうはいかないでしょうし、あなたのその能力をフルに使っていただいて連絡役をお願いしたいのです」
そこまで言われて嫌とも自信がないとも言えず頷いた。責任は大きいが、ここまで信頼されるのも悪いものではない。
その後、次にすることを話して、追加の役員候補の六名との顔合わせの日程を決め、その日の話は終わりとなった。
クラウディアが部屋から出た後、ようやく二人の緊張も少しは解けたようでため息が漏れるのが聞こえる。
「オーナーが筆頭公爵家のご令嬢だとは思いもしませんでしたよ。こんなに緊張したことは初めてです。言っていただければ、もう少し心構えというものも出来ましたのに」
レヴィがルードに愚痴を言うようにそう言うと、ナッシュもまた同じように話し始めた。
「そうです。私も以前の仕事柄、色々な貴族の方に会う機会はありましたが、これほど高位の方には会う機会もなかったですし、あんなにお美しい方も初めてで、まともに話が出来ていたかも怪しいものですよ」
「話をしていても緊張していたでしょう。それなら当日の方が秘密も守れます。リスクは負えませんから。では、町へ戻りながら次の段取りを話しましょうか」
その言葉を最後にクロスローズの屋敷を後にした。
その数日後、ルードは残りの人物とも面談をし、契約書を交わしてルード達に引き合わせた。
マリソル・デボン
ブランカ・アッシュランド
ブラッドリー・ウェルワース
ロクサーヌ・ウェストフォルム
ルカ・マニング
キーラ・メープル
この30代前半の6名が、リベンジェス商会に加わった。
商会を立ち上げる事を考えた時にナシュールの中心部に近く、以前、商店の倉庫兼店舗で今現在は空き家になっている建物に目をつけていて、今回、ルードとフィンに話をしながら内装の改修を始めていた。
商会の建物の改修が終わらないうちから、フィンは頼まれた案件をまとめる為色々な場所へ赴き、色々な人に聞き込みをし、出店したい場所を探るべく通りの人の多さなどを観察したりと、数か月は王国内の主要都市を行き来する日々を送っていた。
“提案者”から、料理本についても任せてもらい、そのメニューの試作にも余念がなく、各都市の名物料理や郷土料理、特産品まで事細かに調べ上げ、どういったものが好まれるかを考えていた。
試作した料理は、その都市毎に試食をしてもらい、改善点などを見つけ、再度試食を…と何度もベストになるまで繰り返していた。
店の形態も、固定のものや祭りなどの屋台形式、テイクアウト専門なども考え、料金の幅や客層に至るまで、どこにどんな店が相応しいかを色々なパターンを考えてまとめていた。
―――まだ日はある。もう少しじっくりと考えてみよう。
手に持っていた資料を机の上に戻し、一度部屋を出る。そして、頭をスッキリさせようと外へと出て、空を見上げながら少し歩いた。
17
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冷たい婚姻の果てに ~ざまぁの旋律~
ゆる
恋愛
新しい街で始まる第二の人生――過去の傷を抱えながらも、未来への希望を見つけるために歩むラファエラ。支えるレオナルドとの絆が深まる中、彼女は新しい家族と共に、愛と自由に満ちた新たな物語を紡いでいく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る
甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。
家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。
国王の政務の怠慢。
母と妹の浪費。
兄の女癖の悪さによる乱行。
王家の汚点の全てを押し付けられてきた。
そんな彼女はついに望むのだった。
「どうか死なせて」
応える者は確かにあった。
「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」
幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。
公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。
そして、3日後。
彼女は処刑された。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
執着のなさそうだった男と別れて、よりを戻すだけの話。
椎茸
恋愛
伯爵ユリアナは、学園イチ人気の侯爵令息レオポルドとお付き合いをしていた。しかし、次第に、レオポルドが周囲に平等に優しいところに思うことができて、別れを決断する。
ユリアナはあっさりと別れが成立するものと思っていたが、どうやらレオポルドの様子が変で…?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
君が届かなくなる前に。
谷山佳与
恋愛
女神フレイアが加護する国、フレイアス王国。
この国には伝説があり、女神の色彩を持つものは豊かさと平和をもたらすと言われている。
この国の王太子殿下の正妃候補の内の一人は六公爵家の一つ、知のエレノール。代々宰相を務めてきたこの家の末姫は、貴族には必ずあるという、魔力を一切持っておらず、ふさわしくないと言われてはいるけど・・・。
※誤字など地味に修正中です。 2018/2/2
※お気に入り登録ありがとうございます。励みになります^^ 2018/02/28
※誤字脱字、修正中です。お話のベースは変わりませんが、新たに追加されたエピソードには「✩」がタイトルの最後に付けております。 2019/3/6
※最後までお読みいただきありがとう御座ます。ライラックのお話を別リンクで執筆中です。ヒロインメインとはなりますがご興味のある方はそちらもよろしくお願いいたします。
2019/4/17
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです
くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は……
※息抜きに書いてみたものです※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から愛を押し付けられる
当麻月菜
恋愛
侯爵令嬢のマリアンヌには二人の親友がいる。
一人は男爵令嬢のエリーゼ。もう一人は伯爵令息のレイドリック。
身分差はあれど、3人は互いに愛称で呼び合い、まるで兄弟のように仲良く過ごしていた。
そしてマリアンヌは、16歳となったある日、レイドリックから正式な求婚を受ける。
二つ返事で承諾したマリアンヌだったけれど、婚約者となったレイドリックは次第に本性を現してきて……。
戸惑う日々を過ごすマリアンヌに、兄の護衛騎士であるクリスは婚約破棄をやたら強く進めてくる。
もともと苦手だったクリスに対し、マリアンヌは更に苦手意識を持ってしまう。
でも、強く拒むことができない。
それはその冷たい態度の中に、自分に向ける優しさがあることを知ってしまったから。
※タイトル模索中なので、仮に変更しました。
※2020/05/22 タイトル決まりました。
※小説家になろう様にも重複投稿しています。(タイトルがちょっと違います。そのうち統一します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる