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第七章

75 顔合わせ

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 次の週、前回と同じレストランの個室にルードの姿があった。そして、レヴィとナッシュも一緒だった。


「今日は商会長に会ってもらうが、この顔合わせが終わった後、一度移動するからそのつもりで」


 軽く挨拶をして彼らの向かいの椅子に座る。
 そして向かい合ったもの同士、顔をまじまじと見つめた。
 当初の話通り、レヴィにはこの先、王都のロワールに支店が出来た時の支部長を任せ、ナッシュには腕を見込んで商会の警備部門を任せる事にした。

 
 そして粗方の話を終えてから用意されていた馬車に乗り込んだ。
 その馬車は町を抜けて貴族街の奥へと進んで行く。王都の貴族街など踏み入れたこともないのでどの屋敷がどの家門かもわからないまま、周囲の景色が変わっていくのを見て、その景色が進むにつれ二人の緊張も膨れ上がっていく。


「さあ、ここだ」


 今まで見たこともないほどの大きなお屋敷の前に着いたが、その門から屋敷は見えず、さらに木立の中を馬車で進むことになった。そしてようやく見えてきた邸の前で馬車から降りるとその屋敷の執事が声を掛けてきた。


「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」


 執事の案内で屋敷の中へと進んで行くのだが、貴族に仕えていたナッシュでさえ、これほど大きく気品に満ちた屋敷に入ったことはなかった。
 広い玄関ホールの壁に掛けられた絵画や、飾られている調度品の一つをとっても素晴らしいものばかりで、相当高位の貴族だと思われたがまだ誰からもその説明はなかった。

 そして応接室へ通され、座り心地の良いソファーに腰掛ける。この部屋もさすがに高位貴族と思われる内装で、そこまで華美ではないものの気品に満ちた落ち着きを感じる。

 ドアをノックする音と共に執事が入室し、その後ろから部屋へ入ってきたのは、白い肌に豊かな金の髪をもち、輝く瑠璃の瞳を持ったとても美しい少女だった。今まで、これほど美しい少女を見たことはなかった彼らは、一瞬時間が止まったような感覚に襲われる。


「クロスローズ公爵家ご息女、クラウディア様です」

「今日はわざわざ来てもらって悪かったわ。クラウディア・リュカ・クロスローズよ。よろしくね」

 
 二人は目を見開き、目の前に座る少女に釘付けになっていた。
 クロスローズと言えばこの王国の筆頭公爵家であり、王族の次に位が高い家門だ。そのような最高位の貴族が、平民の我々と一緒の部屋で、こんな間近で気軽に話しかけてくれるとは信じられなかった。

 
「こちらから、レヴィ・クラウト、そして、ナッシュ・ロックフォードです」

「大変だと思うけれど、大まかなことはもうルードに伝えて計画書にまとめてあるから、それを見て直すところや補完するところは埋めて、最終決定稿を作ってもらえるかしら?遅くとも冬までに纏められれば、春前には稼働できるわよね」


 満面の笑みを浮かべて目の前の二人に同意を得ようとしたのだが、思いの外緊張が解けていないようで、表情は固まったままだった。その様子を見てルードは二人に再度注意をした。


「クラウディア様の事を知っているのは、私達だけです。いいですね?一切、口外することは禁止です。それと、この先、私かクラウディア様に連絡を取る場合、ナッシュ、あなたに連絡係を務めていただきます」

「私……ですか?」


 なぜ自分が選ばれるのだろうかと考えたのだが、ルードの説明で納得がいく。 


「ナッシュは騎士としての実力もありますし、周囲への警戒力や気配を感じる能力が素晴らしいと聞いています。私どもとしては、クラウディア様の事を外部に漏らす訳にはいきません。極力連絡は避けたいのですが、そうはいかないでしょうし、あなたのその能力をフルに使っていただいて連絡役をお願いしたいのです」


 そこまで言われて嫌とも自信がないとも言えず頷いた。責任は大きいが、ここまで信頼されるのも悪いものではない。
 その後、次にすることを話して、追加の役員候補の六名との顔合わせの日程を決め、その日の話は終わりとなった。
 クラウディアが部屋から出た後、ようやく二人の緊張も少しは解けたようでため息が漏れるのが聞こえる。


「オーナーが筆頭公爵家のご令嬢だとは思いもしませんでしたよ。こんなに緊張したことは初めてです。言っていただければ、もう少し心構えというものも出来ましたのに」


 レヴィがルードに愚痴を言うようにそう言うと、ナッシュもまた同じように話し始めた。


「そうです。私も以前の仕事柄、色々な貴族の方に会う機会はありましたが、これほど高位の方には会う機会もなかったですし、あんなにお美しい方も初めてで、まともに話が出来ていたかも怪しいものですよ」 

「話をしていても緊張していたでしょう。それなら当日の方が秘密も守れます。リスクは負えませんから。では、町へ戻りながら次の段取りを話しましょうか」


 その言葉を最後にクロスローズの屋敷を後にした。



 
 その数日後、ルードは残りの人物とも面談をし、契約書を交わしてルード達に引き合わせた。
 
 マリソル・デボン
 ブランカ・アッシュランド
 ブラッドリー・ウェルワース
 ロクサーヌ・ウェストフォルム
 ルカ・マニング
 キーラ・メープル

 この30代前半の6名が、リベンジェス商会に加わった。

 商会を立ち上げる事を考えた時にナシュールの中心部に近く、以前、商店の倉庫兼店舗で今現在は空き家になっている建物に目をつけていて、今回、ルードとフィンに話をしながら内装の改修を始めていた。
  
 商会の建物の改修が終わらないうちから、フィンは頼まれた案件をまとめる為色々な場所へ赴き、色々な人に聞き込みをし、出店したい場所を探るべく通りの人の多さなどを観察したりと、数か月は王国内の主要都市を行き来する日々を送っていた。

 “提案者”から、料理本についても任せてもらい、そのメニューの試作にも余念がなく、各都市の名物料理や郷土料理、特産品まで事細かに調べ上げ、どういったものが好まれるかを考えていた。
 試作した料理は、その都市毎に試食をしてもらい、改善点などを見つけ、再度試食を…と何度もベストになるまで繰り返していた。

 
 店の形態も、固定のものや祭りなどの屋台形式、テイクアウト専門なども考え、料金の幅や客層に至るまで、どこにどんな店が相応しいかを色々なパターンを考えてまとめていた。


 ―――まだ日はある。もう少しじっくりと考えてみよう。


 手に持っていた資料を机の上に戻し、一度部屋を出る。そして、頭をスッキリさせようと外へと出て、空を見上げながら少し歩いた。
 



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