上 下
77 / 213
第七章

69 ニコラス?

しおりを挟む
 この日も早々に着いて、走り込んで体を温め剣舞を始めていた。
 考え事をしながら舞うのはダメだろうなと気が付き気持ちを切り替え、練習前の身体慣らしということもあるが、この剣舞をすることで練習への気合の入り方が違うので最初からやり直した。

 サラもまた隣で同じようにしているのだが、サラの方が身長も高く手足が長いのでとても綺麗だ。
 早く身長が伸びないものかと考えてしまうのは仕方ないことだろう。
 剣舞も終え次の剣術の練習へと移る時、サラがクラウディアに問いかけてきた。


「ねえ、ディア。ニックの様子、気が付いてないの?」

「様子って?」

「ディアのこと、いっつも見てるわよ」

「そう?全然気が付かなかったけど…いつも通りでしょ?」

「絶対になにかあるわ。必ず突き止めてやるんだから」


 そう言ってサラはニコラスの所へと駆けていった。

 明らかに何か勘違いをしているとクラウディアは思ったのだが、サラの直感は実際はしっかりと本筋を捉えているのだった。


「ねえ、ニック。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いまいい?」

「どうした?」


 ちょいちょいと手招きをしニコラスを屈ませて、耳元で囁くように話を始めた。


「ニックって、この間からディアの事ばっかり見てるでしょ?何かあったのかなって」


 ニコラスの顔を見てニコッと笑って反応を確認しようとしたのだが、さすがに表情を隠すのが上手いニコラスに対してはそれは無理のようだった。


「何を言ってるんだ?俺はディアの上達度合いが早いからみてるだけだ」


 そう言われてしまい『自分の勘は当たっているはずだ』と食い下がろうとしたのだが「気付いてないだろうが、サラもしっかりとチェックしてるからな」と言われて、いったん引くことにした。


 ―――絶対に突き止めてやるから!


 そう心に決めてクラウディアの元へと戻った。
 ニコラスのガードは思ったよりも堅いと考えて、サラは次の手を考えることにした。
 自分の直感にすごい自信を持っているサラだけに、ニコラスの言ったことを素直に信じることはできなかったのだ。


 ―――絶対に白状させてやる!


 高位貴族でもある彼らは、感情を表情に表すことのないように幼い頃から教え込まれている。
 いくら友人関係や気を許す仲とはいえ、さとられたくないことは表情には出さないだろう。つまり無表情の時の心情は本人にしかわからないということだ。

 そのことはサラもわかってはいるが、可愛い妹が関わっている以上どうしてもその仮面をはがしたくなる。



 そしてこの日から、サラの徹底的な観察が始まることになった。
 そうとは知らないニコラスは、サラの執拗な視線に気付いているものの、そんなことを考えているとは思っていなかった。ただ、よくやるな、という逆の視線をサラに向けていたほどだ。


「ディア、相手してくれないか?」


 クラウディアはローラントに相手をして欲しいと言われたものの、自分なんかじゃ到底相手にはならないのになぜ声を掛けてくるのだろうと思って首を傾げる。


「私なんかで相手にならないでしょ?」

「そんなことはない。それにディアとやると、自分の動きがわかりやすいんだよ。付き合って」

「そうなの?わかったわ」


 剣を軽く交えながら基本の部分で注意された箇所を見直していくのだが、その姿勢は至極真面目に感じてクラウディアも負けたくないという闘志に火が付くのを感じた。
 ローラントは始めから兄弟揃って練習していればもっと強くなっていただろう。おそらく誰もがそう思っていることだろう。


「いい感じなった?」

「ああ、ディアとやると、基本が大事だってよくわかるんだよな」

「そう?」

「それだけ真面目に習ってたってことだよ」


 ローラントにそう言われ、確かに習い始めてからというもの『基本が大事』と頭にあったから、ずっと素振りなども欠かさなかったことが出ているのだろうかと考える。
 サラも同じく基本重視だ。
 ニコラスやテオドールなどは基本はあるものの、今はほとんどが我流だったりする。その中でもローラントはどちらでもなかった。これから変わっていく所なのだろう。 

 そのまま少し休もうと端の方で腰を下ろしたのだが、テオドールが歩いてくるのを見て、何かあったのかな?と考えた。


「なあ、ディア」

「どうしたの?テオ」


 不思議そうな顔をしているテオドールから声を掛けられ、何かあったのだろうかと気になった。
 練習の時に何か失敗したかと考えたのだが、思い当たることはない。


「最近、ニックと何かあったのか?」

「ニックと?…うーん…別に、何もないと思うけど、どうして?」

「いや…最近のあいつの様子が、なんだか前と違うような感じがするんだ」

「そう言えば、サラもそんなこと言ってたような…」

「サラもか?」


 クラウディアは全く気が付いていなかったのだが、彼らが気付くという事は、長い付き合いから来るものなのかもしれないと思い、少し羨ましく感じた。
 自分にも少しの変化に気が付いてくれるような友人がいたらいいのにと、ふと思った。


「テオもサラもニックと付き合いが長いから?私、全然気が付かなかった」


 その言葉にテオドールは何かを言いたそうな顔をしたが言葉を飲み込んで、一息ついてから話し始めた。


「今日、どうだ?サラもディアとお茶するのが好きみたいだからな」

「いいの?」

「当たり前だ。ここでは遠慮なんかするな」


 クラウディアの肩をポンと叩き、また庭園で、と一言告げた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...