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第七章
69 ニコラス?
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この日も早々に着いて、走り込んで体を温め剣舞を始めていた。
考え事をしながら舞うのはダメだろうなと気が付き気持ちを切り替え、練習前の身体慣らしということもあるが、この剣舞をすることで練習への気合の入り方が違うので最初からやり直した。
サラもまた隣で同じようにしているのだが、サラの方が身長も高く手足が長いのでとても綺麗だ。
早く身長が伸びないものかと考えてしまうのは仕方ないことだろう。
剣舞も終え次の剣術の練習へと移る時、サラがクラウディアに問いかけてきた。
「ねえ、ディア。ニックの様子、気が付いてないの?」
「様子って?」
「ディアのこと、いっつも見てるわよ」
「そう?全然気が付かなかったけど…いつも通りでしょ?」
「絶対になにかあるわ。必ず突き止めてやるんだから」
そう言ってサラはニコラスの所へと駆けていった。
明らかに何か勘違いをしているとクラウディアは思ったのだが、サラの直感は実際はしっかりと本筋を捉えているのだった。
「ねえ、ニック。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いまいい?」
「どうした?」
ちょいちょいと手招きをしニコラスを屈ませて、耳元で囁くように話を始めた。
「ニックって、この間からディアの事ばっかり見てるでしょ?何かあったのかなって」
ニコラスの顔を見てニコッと笑って反応を確認しようとしたのだが、さすがに表情を隠すのが上手いニコラスに対してはそれは無理のようだった。
「何を言ってるんだ?俺はディアの上達度合いが早いからみてるだけだ」
そう言われてしまい『自分の勘は当たっているはずだ』と食い下がろうとしたのだが「気付いてないだろうが、サラもしっかりとチェックしてるからな」と言われて、いったん引くことにした。
―――絶対に突き止めてやるから!
そう心に決めてクラウディアの元へと戻った。
ニコラスのガードは思ったよりも堅いと考えて、サラは次の手を考えることにした。
自分の直感にすごい自信を持っているサラだけに、ニコラスの言ったことを素直に信じることはできなかったのだ。
―――絶対に白状させてやる!
高位貴族でもある彼らは、感情を表情に表すことのないように幼い頃から教え込まれている。
いくら友人関係や気を許す仲とはいえ、さとられたくないことは表情には出さないだろう。つまり無表情の時の心情は本人にしかわからないということだ。
そのことはサラもわかってはいるが、可愛い妹が関わっている以上どうしてもその仮面をはがしたくなる。
そしてこの日から、サラの徹底的な観察が始まることになった。
そうとは知らないニコラスは、サラの執拗な視線に気付いているものの、そんなことを考えているとは思っていなかった。ただ、よくやるな、という逆の視線をサラに向けていたほどだ。
「ディア、相手してくれないか?」
クラウディアはローラントに相手をして欲しいと言われたものの、自分なんかじゃ到底相手にはならないのになぜ声を掛けてくるのだろうと思って首を傾げる。
「私なんかで相手にならないでしょ?」
「そんなことはない。それにディアとやると、自分の動きがわかりやすいんだよ。付き合って」
「そうなの?わかったわ」
剣を軽く交えながら基本の部分で注意された箇所を見直していくのだが、その姿勢は至極真面目に感じてクラウディアも負けたくないという闘志に火が付くのを感じた。
ローラントは始めから兄弟揃って練習していればもっと強くなっていただろう。おそらく誰もがそう思っていることだろう。
「いい感じなった?」
「ああ、ディアとやると、基本が大事だってよくわかるんだよな」
「そう?」
「それだけ真面目に習ってたってことだよ」
ローラントにそう言われ、確かに習い始めてからというもの『基本が大事』と頭にあったから、ずっと素振りなども欠かさなかったことが出ているのだろうかと考える。
サラも同じく基本重視だ。
ニコラスやテオドールなどは基本はあるものの、今はほとんどが我流だったりする。その中でもローラントはどちらでもなかった。これから変わっていく所なのだろう。
そのまま少し休もうと端の方で腰を下ろしたのだが、テオドールが歩いてくるのを見て、何かあったのかな?と考えた。
「なあ、ディア」
「どうしたの?テオ」
不思議そうな顔をしているテオドールから声を掛けられ、何かあったのだろうかと気になった。
練習の時に何か失敗したかと考えたのだが、思い当たることはない。
「最近、ニックと何かあったのか?」
「ニックと?…うーん…別に、何もないと思うけど、どうして?」
「いや…最近のあいつの様子が、なんだか前と違うような感じがするんだ」
「そう言えば、サラもそんなこと言ってたような…」
「サラもか?」
クラウディアは全く気が付いていなかったのだが、彼らが気付くという事は、長い付き合いから来るものなのかもしれないと思い、少し羨ましく感じた。
自分にも少しの変化に気が付いてくれるような友人がいたらいいのにと、ふと思った。
「テオもサラもニックと付き合いが長いから?私、全然気が付かなかった」
その言葉にテオドールは何かを言いたそうな顔をしたが言葉を飲み込んで、一息ついてから話し始めた。
「今日、どうだ?サラもディアとお茶するのが好きみたいだからな」
「いいの?」
「当たり前だ。ここでは遠慮なんかするな」
クラウディアの肩をポンと叩き、また庭園で、と一言告げた。
考え事をしながら舞うのはダメだろうなと気が付き気持ちを切り替え、練習前の身体慣らしということもあるが、この剣舞をすることで練習への気合の入り方が違うので最初からやり直した。
サラもまた隣で同じようにしているのだが、サラの方が身長も高く手足が長いのでとても綺麗だ。
早く身長が伸びないものかと考えてしまうのは仕方ないことだろう。
剣舞も終え次の剣術の練習へと移る時、サラがクラウディアに問いかけてきた。
「ねえ、ディア。ニックの様子、気が付いてないの?」
「様子って?」
「ディアのこと、いっつも見てるわよ」
「そう?全然気が付かなかったけど…いつも通りでしょ?」
「絶対になにかあるわ。必ず突き止めてやるんだから」
そう言ってサラはニコラスの所へと駆けていった。
明らかに何か勘違いをしているとクラウディアは思ったのだが、サラの直感は実際はしっかりと本筋を捉えているのだった。
「ねえ、ニック。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いまいい?」
「どうした?」
ちょいちょいと手招きをしニコラスを屈ませて、耳元で囁くように話を始めた。
「ニックって、この間からディアの事ばっかり見てるでしょ?何かあったのかなって」
ニコラスの顔を見てニコッと笑って反応を確認しようとしたのだが、さすがに表情を隠すのが上手いニコラスに対してはそれは無理のようだった。
「何を言ってるんだ?俺はディアの上達度合いが早いからみてるだけだ」
そう言われてしまい『自分の勘は当たっているはずだ』と食い下がろうとしたのだが「気付いてないだろうが、サラもしっかりとチェックしてるからな」と言われて、いったん引くことにした。
―――絶対に突き止めてやるから!
そう心に決めてクラウディアの元へと戻った。
ニコラスのガードは思ったよりも堅いと考えて、サラは次の手を考えることにした。
自分の直感にすごい自信を持っているサラだけに、ニコラスの言ったことを素直に信じることはできなかったのだ。
―――絶対に白状させてやる!
高位貴族でもある彼らは、感情を表情に表すことのないように幼い頃から教え込まれている。
いくら友人関係や気を許す仲とはいえ、さとられたくないことは表情には出さないだろう。つまり無表情の時の心情は本人にしかわからないということだ。
そのことはサラもわかってはいるが、可愛い妹が関わっている以上どうしてもその仮面をはがしたくなる。
そしてこの日から、サラの徹底的な観察が始まることになった。
そうとは知らないニコラスは、サラの執拗な視線に気付いているものの、そんなことを考えているとは思っていなかった。ただ、よくやるな、という逆の視線をサラに向けていたほどだ。
「ディア、相手してくれないか?」
クラウディアはローラントに相手をして欲しいと言われたものの、自分なんかじゃ到底相手にはならないのになぜ声を掛けてくるのだろうと思って首を傾げる。
「私なんかで相手にならないでしょ?」
「そんなことはない。それにディアとやると、自分の動きがわかりやすいんだよ。付き合って」
「そうなの?わかったわ」
剣を軽く交えながら基本の部分で注意された箇所を見直していくのだが、その姿勢は至極真面目に感じてクラウディアも負けたくないという闘志に火が付くのを感じた。
ローラントは始めから兄弟揃って練習していればもっと強くなっていただろう。おそらく誰もがそう思っていることだろう。
「いい感じなった?」
「ああ、ディアとやると、基本が大事だってよくわかるんだよな」
「そう?」
「それだけ真面目に習ってたってことだよ」
ローラントにそう言われ、確かに習い始めてからというもの『基本が大事』と頭にあったから、ずっと素振りなども欠かさなかったことが出ているのだろうかと考える。
サラも同じく基本重視だ。
ニコラスやテオドールなどは基本はあるものの、今はほとんどが我流だったりする。その中でもローラントはどちらでもなかった。これから変わっていく所なのだろう。
そのまま少し休もうと端の方で腰を下ろしたのだが、テオドールが歩いてくるのを見て、何かあったのかな?と考えた。
「なあ、ディア」
「どうしたの?テオ」
不思議そうな顔をしているテオドールから声を掛けられ、何かあったのだろうかと気になった。
練習の時に何か失敗したかと考えたのだが、思い当たることはない。
「最近、ニックと何かあったのか?」
「ニックと?…うーん…別に、何もないと思うけど、どうして?」
「いや…最近のあいつの様子が、なんだか前と違うような感じがするんだ」
「そう言えば、サラもそんなこと言ってたような…」
「サラもか?」
クラウディアは全く気が付いていなかったのだが、彼らが気付くという事は、長い付き合いから来るものなのかもしれないと思い、少し羨ましく感じた。
自分にも少しの変化に気が付いてくれるような友人がいたらいいのにと、ふと思った。
「テオもサラもニックと付き合いが長いから?私、全然気が付かなかった」
その言葉にテオドールは何かを言いたそうな顔をしたが言葉を飲み込んで、一息ついてから話し始めた。
「今日、どうだ?サラもディアとお茶するのが好きみたいだからな」
「いいの?」
「当たり前だ。ここでは遠慮なんかするな」
クラウディアの肩をポンと叩き、また庭園で、と一言告げた。
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