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第七章

59 春の舞踏会

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 春になり、例年通り祭祀が行われ、それの終了とともに舞踏会が行われた。


 今年は、王太子レイナルドと、ジェラルド、リオネル、ローラントが初参加となり、その会場の多くの視線は彼らに集まっていた。
 それぞれ家族で入場をし、国王への挨拶を終えてからそれぞれ会場に散り歓談となるのだが、やはり一番の視線を集めていたのは王太子のレイナルドだった。


 国王と同じ輝く銀髪に金の瞳を持つレイナルドは、誰が見ても王子を体現していて、その爽やかな笑顔は見た令嬢達の心を鷲掴みにしている。
 王子だからといって弱々しい感じもなく、剣を嗜み勉学にも励んでいることは周知の事実で、次期国王として期待されている人物だった。

 そして横に保護者のように寄り添う王弟でもあるアインザムカイトは、レイナルドの後見を表明し、早々に王位継承権を放棄したことにより、王家特有の銀髪は金が混じり、金の瞳も琥珀色へと変化をしていた。
 この国の王家にはヴェリダ神の血が流れているとされており、直系の王家のみ銀髪と金の瞳を受け継ぎ、継承を放棄したものはそのが徐々に変化していくのだ。


「レイ、今日は初めての参加だから緊張しているか?」

「叔父上、そんなことを言っていられません。私は見本にならねばいけない立場ですからね」

「そうだな。友達と一緒に令嬢達と踊ってくるといい。それも王太子としての役目だ。だが、わかっているな?」

「わかっています。期待を持たせるような発言や行動はしません」


 アドバイスというような一言二言を交わし、アインザムカイトはレイナルドを会場へと送り出した。
 叔父というより兄と言った方がいいほど二人の関係は近しい。レイナルドもアインザムカイトのことは兄のように慕い憧れている存在でもあった。だからこそ、こういう場でレイナルドも失敗するような姿を見せるつもりはなかった。



 ベイリーは今回、ジェラルドが初めての参加という事でアルトゥールと一緒に行動をさせながらその様子を見ていた。その時に視線が合ったのがアセシナートだった。軽く頭を下げる姿を目にし、同じ光の一族という事もあって声をかけた。


「これはアセシナート殿。久しいですね」

「クロスローズ公爵。お久しぶりでございます。父が亡くなった時には色々と助けていただき、ありがとうございました」


 ルリアーノ前当主のダグラスが転落事故で亡くなり、当時二十歳のアセシナートが当主となったことで、同じ光の一族として継承の手助けや助言をしたことがあり、その時以来の再会だった。
 アセシナートは外務省で働いているため、日常で会うことも無い為こういう場で顔を見る事くらいしかないのだ。


「今年はジェラルド殿が参加されたとか。おめでとうございます」

「いや。ようやくと言ったところだよ。年月が流れるのが早いような遅いような不思議な感じだ」

「そうですね。私も当主を継いで六年目になりますから。そういえば、確かご令嬢もいらっしゃいましたね。クラウディア嬢…でしたか?」


 ニコッと柔らかな笑顔を浮かべてベイリーに問いかけた。ここ数年、クラウディアの話題に事欠いたことはない社交界で、こうもはっきりと聞いてくるのも珍しいと思いながら、ベイリーもありきたりに言葉を返した。


「クラウディアなら、元気にしているよ。ここへの参加はまだ二年あるが、可愛い子でね。正直、表には出したくないんだがこれも決まり事だからね」

「お元気なら良かったでね、魔力が減ったとか療養中だとか色々と噂が流れていますが、どれも無責任な話ではないですか。公爵も否定されないのですか?」

「否定しようがしまいが、知る者だけが知っていればいいことだろう?そう思わないか」


 ベイリーの殊更冷たい視線を感じたアセシナートは、それに気が付いていないように振舞い、挨拶をしてその場から離れた。





 そしてこの年の舞踏会は、初参加の四人に話題を持って行かれ散会となった。

 もちろん、例のごとくニコラスは誰とも踊ることなくリオネルを代わりに差し出していたとか、シモンもいつも通り家門の令嬢のみ相手にしていたとか。そしてテオドールは一度目で学んだのか、母親の目をかいくぐるように逃げているとか、三者三様の思いがそこで展開されていたようだ。



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