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稲垣桜

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第六章

58 王への報告と当主会議

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 ジルベルトから伝えられたクラウディアが見ていた夢の内容について、当主間で何度も話し合い実際に起こったことを確認して、最後に王へと報告を上げるための精査する話し合いの時間を取った。

 内務大臣に任命されているベイリーだが、これは公にできる事柄でもない為、人払いを兼ねて報告できるタイミングを計っていた。
 そうは言っても現在進行形の事柄でもない為、この先の事を考えて調査を担当する人間も必要ではとも考えていた。

  
 そこで現在の宰相でもあるファース・フォン・ソレール侯爵の兄でもあるディルク・ヴィン・ラファーガ公爵に謁見の申し入れと人払いの手助けを頼むことにした。

 ベイリーは役職以外に筆頭公爵家当主として国王の相談相手も受け持っている為、謁見することは難しいことではない。だが、きちんと順序を踏んだ方が真実味も増すと言うところだろう。 


「陛下、こちらが報告書です」


 ベイリーが渡した数枚の書類に目を通し、わずかに眉間にしわを寄せるのが目に入る。

 手渡した報告書は、クラウディアが思い出した事を再度調べ上げ書き上げたものだった。


 この国の国王、プロスペース・リリ-・エストレージャは王太子と同じ銀の髪に金の瞳が特徴的で一見優しそうな雰囲気を醸し出しているが、実際の人物像としては腹黒いと言わざるを得ない。しかし、その本質を知っているのはベイリーをはじめとした公爵家の人間くらいだろう。

 特にベイリーは自分と同じ人種だと思っており、騙し合うように話し合うことを楽しみにしていた頃もあったのだ。
 そしてその外見が優しい印象を持たれるため、どうしても甘く見てくる人間がいる。表面の顔に騙されて没落していった家門は数知れず。国王を軽んじる人間にはしっかりと鉄槌を下すのが信条だ。


「あの時は、君が何を言い出すのかと思っていたよ。信じるには荒唐無稽すぎる事だからね」


 数日前に、ベイリーはクラウディアが未来を見ていることを告白し、今までの出来事とこの先に起こりうる出来事を先に大まかにだが報告していた。

 ただ報告書として上申するより、先に情報を入れておく方が考える時間が取れて正常な判断ができると考えたからだ。この信じがたい出来事に対し、ラフィニエールの助言もあったことが納得させる一助になったのだろうと考えた。


 「今は信じるべきだと考えている。こうして公爵家の当主が連名で署名しているのだからラフィニエールもそう考えているのだろう?私の代でこの国を終わらせるわけにはいかないからな。大切な国民を守るのは私の役目だ」


 報告書には公爵家の当主が連名で署名し、この先の出来事に対する連携を約束する契約書が添付されていた。
 もちろん国内が荒れた場合には率先して動くこともしっかりと明記されている。明記しなくても動くことが決まってはいるが、国王陛下に対する忠誠心を現わす手段として従来からの慣わしのようになっている。


「では…」

「この件に関しては、対応するチームに任せよう。ベイリー、人員は君に任せる。また報告を頼む」

「わかりました。では早々に選別にかかります」







 この件に関しての最初の当主会議から、もう四年が過ぎようとしていた。

 年に何度か顔を合わせる度に、この先をどうするかを相談していたのだが、徐々に現実味を帯びてきている気配のようなものを感じていた。とはいえ、そこまで切羽詰まっているようなものではなく、ただ、いつもと違うような感じがすると言ったくらいの変化なのだが。

 ジルベルトが見た光景を自分も見る事ができていれば、もっと詳細や人物場所の特定ができたのではないかと考えてしまう。しかし、今更そんなことを言っても仕方がない。


「ベイリー、最近のクラウディアはどうだ?」

「色々と活動的だよ。表向きは療養中だから姿を見せる事はないが、知識の吸収には余念がないね」


 ウェルダネス公爵のクリストフから聞かれてそう答えたのだが、本当に最近のクラウディアは出来る事をすべてやろうと力を入れ過ぎているような気がしていて、親としては心配でもあった。

 ジルベルトから見せてもらった事業計画書ももう動き始めている。それを考えると無理をしていないかとどうしても考えてしまう。


「今日、出してるお酒だが、クラウディアが作ったんだよ。どうだい?感想が欲しいんだけどね」


 目の前にロックで出された、琥珀色をしているグラスを手に取る。フルーティな香りがして、口に含むとわずかに酸味と桃のような味もする。そして何よりアルコールが強い。


「これは美味いな。アルコールは強いが、甘くて飲みやすい。妻が喜びそうだ」

「そうだろう?グレースも気に入ってしまってね。可愛い娘が作ってくれたと思うと尚更だ。はちみつとレモン水や、お湯で割るのもおすすめだよ」


 悦に入ったような表情で他の当主を見つめながら、グラスを傾け、優越感に浸る。


「これはどうやって作ったのか教えて貰えるのか?」

「ウメとロックシュガーと酒でできると聞いたが、帰りに持って帰るかい?」


 その言葉にみんなが頷き、帰りに一瓶ずつ持って帰ることになった。



「それと、もう一つ。父から面白い報告があってね」


 そう言って、机の上に箱を置いた。去年、クラウディアがヒューと一緒に完成させた収納魔法を付与した箱だった。
 あのときに出来たものはカルロスに預けてあったのだが、ようやく解析が終わったのか一度ベイリーに手渡されたのだ。クラウディアは、もう自分で作れることもあり、それは試作品としてカルロスに預けてあった。

 
「なんだ?この箱は」

「昨年、クラウディアが作ったものなのだが、解析がようやく終わったと父から渡されたのだよ」


 そう言いながら、箱の中からいくつもの本を取り出してみる。もちろん、その大きさに入るわけはない量の本が出てくるのだが、その光景を見て、ただただ言葉を失っていた。

 
「これは…収納魔法じゃないか」

「うちのクラウディアは天才だね。失われた魔道具を復活させるとは思いもしなかったよ」


 ベイリーは我が子が一番といった笑顔を浮かべながら自慢話のように話し始める。


「父からはまだ口外すべきではないと言われたが、こればかりは君達に言っておこうと思ってね。それと、ジークフリート。テオドール殿を時々借りてもいいかな?アルトゥールとジェラルドの剣術の相手をしてもらいたいのだよ」

「それはかまわないが、お前のとこの騎士団か、ニコラス達の練習に一緒に参加すればいいのではないか?」

「自分の所だと甘えが出ても困る。それに彼らと一緒やる場合のリスクはとれない。わかっているだろう?春になってから時々でいいが我が家に来てもらいたいのだが、それでいいかい?」


「ああ、わかった。あいつにも言っておこう」


 お酒を酌み交わしながら家の事や国の事などを話し、この日の当主会議は幕を閉じた。






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