上 下
61 / 200
第六章

54 公爵夫人のお茶会

しおりを挟む
 年に何度か、当主会議が行われる時や大きい行事ごとが終わった後などに、それぞれの公爵夫人主催で持ち回りでお茶会を開いていた。

 当主会議の時は夫妻で開催場所の屋敷へ訪れ、当主は会議に夫人はお茶会に……といった具合だ。


 この日は、数日前に王宮で王妃主催のお茶会が開催されたこともあり、話題は尽きることはないだろうと、クロスローズ公爵邸でのお茶会を計画していた。

 クロスローズ公爵夫人のグレースは、結婚前は社交界の華と呼ばれるほど美しく、その微笑みは数多の令息の心を鷲掴みにしたという逸話がある。そして当時、まだ公爵令息だったベイリーに口説き落とされたのだ。涙をのんだ令息は多かったが、相手がベイリーでは仕方ないと諦めも早かったらしい。
 

 そんなグレースがこの日に選んだお茶会の場所は夏に入る前で天気も良いこともあって、庭園内にあるガセボで開催することにした。この場所はグレースのお気に入りの場所でもあり、四季折々の花が楽しめるようになっている。
 

 
 お昼を回ったころ、そろそろ準備を完了させておこうとメイドたちも慌ただしく動き始めた。
 大方は終わっているのだが、抜けがあっては公爵家の顔に泥を塗ってしまうと、それこそ糸くずの1本、砂粒の1つまで目を配らせている。

 クラウディアもまたこのお茶会に来る夫人たちに食べて貰おうと、朝からお菓子作りに精を出していた。


「お嬢様、これはどうしますか?」

「それは、細かく砕いて、型の底に敷き詰めてもらっていい?」

「敷き詰めるのですね。わかりました」


 クラウディアは屋敷の厨房で、みんなの邪魔にならないようにお茶会に出すお菓子を作っていた。
 この日はチーズケーキを作ろうと考えて、何度か試作に試作を重ねていたのだ。




 そして、ウェルダネス公爵夫妻の到着を皮切りに、クロスローズ公爵家に次々と各家の当主夫妻が到着した。

 そして当主はそのまま会議の間へ向かい、夫人はお茶会の場である庭園へと案内された。

 庭園のテーブルには、クラウディアが朝から作っていたチーズケーキが準備されている。もちろん、何度も試食した自信作だ。


「公爵夫人の皆様、今日はようこそ母のお茶会へ。今日はわたくしが作りましたチーズケーキを準備しましたので、ぜひ、味わっていただければ嬉しいです」


 慎ましやかに挨拶をしたのだが、貴族でも規格外の公爵家の奥方達はクラウディアのその挨拶を終えた後、揃って口を開いた。


「まぁ、クラウディア。グレースに似て美人に育って」

「そうよね。ウチは男だけだから羨ましいわ」


 一般的に見せる淑女の姿は何処に?といったくらいに女学生のようなノリで話している夫人達を見て、クラウディアも思わず笑顔になる。何度も見て知ってはいるが、この姿はここでしか見ることのできない貴重なものなのだ。


「そうそう、この間の王妃主催のお茶会なんだけどね」

「ああ、あれ。交流なんて言いながらの王太子の相手探しでしょう?」

「そうなの。娘より親の目の方が輝いていたわね」

「まあ、王太子殿下はとても優秀だと聞いているし、性格もいいらしいから悪くないと思うけど、流石に次期王妃って立場は重いわよね」


 笑い合いながらそんなことを話しているけれど、彼女たちは自分たちの娘を王太子妃にするつもりなど一切ないのだからもはや他人事のように話している。
 六大公爵家は王家に対して発言権はあれど一応は臣下なのだから、もう少し敬意をもって話をするのかと思いきやさすがに夫人ともなると少し違うようだ。

 もちろん誰かに聞かっることのないように会話遮断の魔道具を使用しているのは言うまでもなかった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

〖完結〗愛人が離婚しろと乗り込んで来たのですが、私達はもう離婚していますよ?

藍川みいな
恋愛
「ライナス様と離婚して、とっととこの邸から出て行ってよっ!」 愛人が乗り込んで来たのは、これで何人目でしょう? 私はもう離婚していますし、この邸はお父様のものですから、決してライナス様のものにはなりません。 離婚の理由は、ライナス様が私を一度も抱くことがなかったからなのですが、不能だと思っていたライナス様は愛人を何人も作っていました。 そして親友だと思っていたマリーまで、ライナス様の愛人でした。 愛人を何人も作っていたくせに、やり直したいとか……頭がおかしいのですか? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

処理中です...