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第六章
54 公爵夫人のお茶会
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年に何度か、当主会議が行われる時や大きい行事ごとが終わった後などに、それぞれの公爵夫人主催で持ち回りでお茶会を開いていた。
当主会議の時は夫妻で開催場所の屋敷へ訪れ、当主は会議に夫人はお茶会に……といった具合だ。
この日は、数日前に王宮で王妃主催のお茶会が開催されたこともあり、話題は尽きることはないだろうと、クロスローズ公爵邸でのお茶会を計画していた。
クロスローズ公爵夫人のグレースは、結婚前は社交界の華と呼ばれるほど美しく、その微笑みは数多の令息の心を鷲掴みにしたという逸話がある。そして当時、まだ公爵令息だったベイリーに口説き落とされたのだ。涙をのんだ令息は多かったが、相手がベイリーでは仕方ないと諦めも早かったらしい。
そんなグレースがこの日に選んだお茶会の場所は夏に入る前で天気も良いこともあって、庭園内にあるガセボで開催することにした。この場所はグレースのお気に入りの場所でもあり、四季折々の花が楽しめるようになっている。
お昼を回ったころ、そろそろ準備を完了させておこうとメイドたちも慌ただしく動き始めた。
大方は終わっているのだが、抜けがあっては公爵家の顔に泥を塗ってしまうと、それこそ糸くずの1本、砂粒の1つまで目を配らせている。
クラウディアもまたこのお茶会に来る夫人たちに食べて貰おうと、朝からお菓子作りに精を出していた。
「お嬢様、これはどうしますか?」
「それは、細かく砕いて、型の底に敷き詰めてもらっていい?」
「敷き詰めるのですね。わかりました」
クラウディアは屋敷の厨房で、みんなの邪魔にならないようにお茶会に出すお菓子を作っていた。
この日はチーズケーキを作ろうと考えて、何度か試作に試作を重ねていたのだ。
そして、ウェルダネス公爵夫妻の到着を皮切りに、クロスローズ公爵家に次々と各家の当主夫妻が到着した。
そして当主はそのまま会議の間へ向かい、夫人はお茶会の場である庭園へと案内された。
庭園のテーブルには、クラウディアが朝から作っていたチーズケーキが準備されている。もちろん、何度も試食した自信作だ。
「公爵夫人の皆様、今日はようこそ母のお茶会へ。今日はわたくしが作りましたチーズケーキを準備しましたので、ぜひ、味わっていただければ嬉しいです」
慎ましやかに挨拶をしたのだが、貴族でも規格外の公爵家の奥方達はクラウディアのその挨拶を終えた後、揃って口を開いた。
「まぁ、クラウディア。グレースに似て美人に育って」
「そうよね。ウチは男だけだから羨ましいわ」
一般的に見せる淑女の姿は何処に?といったくらいに女学生のようなノリで話している夫人達を見て、クラウディアも思わず笑顔になる。何度も見て知ってはいるが、この姿はここでしか見ることのできない貴重なものなのだ。
「そうそう、この間の王妃主催のお茶会なんだけどね」
「ああ、あれ。交流なんて言いながらの王太子の相手探しでしょう?」
「そうなの。娘より親の目の方が輝いていたわね」
「まあ、王太子殿下はとても優秀だと聞いているし、性格もいいらしいから悪くないと思うけど、流石に次期王妃って立場は重いわよね」
笑い合いながらそんなことを話しているけれど、彼女たちは自分たちの娘を王太子妃にするつもりなど一切ないのだからもはや他人事のように話している。
六大公爵家は王家に対して発言権はあれど一応は臣下なのだから、もう少し敬意をもって話をするのかと思いきやさすがに夫人ともなると少し違うようだ。
もちろん誰かに聞かっることのないように会話遮断の魔道具を使用しているのは言うまでもなかった。
当主会議の時は夫妻で開催場所の屋敷へ訪れ、当主は会議に夫人はお茶会に……といった具合だ。
この日は、数日前に王宮で王妃主催のお茶会が開催されたこともあり、話題は尽きることはないだろうと、クロスローズ公爵邸でのお茶会を計画していた。
クロスローズ公爵夫人のグレースは、結婚前は社交界の華と呼ばれるほど美しく、その微笑みは数多の令息の心を鷲掴みにしたという逸話がある。そして当時、まだ公爵令息だったベイリーに口説き落とされたのだ。涙をのんだ令息は多かったが、相手がベイリーでは仕方ないと諦めも早かったらしい。
そんなグレースがこの日に選んだお茶会の場所は夏に入る前で天気も良いこともあって、庭園内にあるガセボで開催することにした。この場所はグレースのお気に入りの場所でもあり、四季折々の花が楽しめるようになっている。
お昼を回ったころ、そろそろ準備を完了させておこうとメイドたちも慌ただしく動き始めた。
大方は終わっているのだが、抜けがあっては公爵家の顔に泥を塗ってしまうと、それこそ糸くずの1本、砂粒の1つまで目を配らせている。
クラウディアもまたこのお茶会に来る夫人たちに食べて貰おうと、朝からお菓子作りに精を出していた。
「お嬢様、これはどうしますか?」
「それは、細かく砕いて、型の底に敷き詰めてもらっていい?」
「敷き詰めるのですね。わかりました」
クラウディアは屋敷の厨房で、みんなの邪魔にならないようにお茶会に出すお菓子を作っていた。
この日はチーズケーキを作ろうと考えて、何度か試作に試作を重ねていたのだ。
そして、ウェルダネス公爵夫妻の到着を皮切りに、クロスローズ公爵家に次々と各家の当主夫妻が到着した。
そして当主はそのまま会議の間へ向かい、夫人はお茶会の場である庭園へと案内された。
庭園のテーブルには、クラウディアが朝から作っていたチーズケーキが準備されている。もちろん、何度も試食した自信作だ。
「公爵夫人の皆様、今日はようこそ母のお茶会へ。今日はわたくしが作りましたチーズケーキを準備しましたので、ぜひ、味わっていただければ嬉しいです」
慎ましやかに挨拶をしたのだが、貴族でも規格外の公爵家の奥方達はクラウディアのその挨拶を終えた後、揃って口を開いた。
「まぁ、クラウディア。グレースに似て美人に育って」
「そうよね。ウチは男だけだから羨ましいわ」
一般的に見せる淑女の姿は何処に?といったくらいに女学生のようなノリで話している夫人達を見て、クラウディアも思わず笑顔になる。何度も見て知ってはいるが、この姿はここでしか見ることのできない貴重なものなのだ。
「そうそう、この間の王妃主催のお茶会なんだけどね」
「ああ、あれ。交流なんて言いながらの王太子の相手探しでしょう?」
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「まあ、王太子殿下はとても優秀だと聞いているし、性格もいいらしいから悪くないと思うけど、流石に次期王妃って立場は重いわよね」
笑い合いながらそんなことを話しているけれど、彼女たちは自分たちの娘を王太子妃にするつもりなど一切ないのだからもはや他人事のように話している。
六大公爵家は王家に対して発言権はあれど一応は臣下なのだから、もう少し敬意をもって話をするのかと思いきやさすがに夫人ともなると少し違うようだ。
もちろん誰かに聞かっることのないように会話遮断の魔道具を使用しているのは言うまでもなかった。
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