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第五章

49 コルビー・グリーン

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 クラウディアはカルロスの部屋を出てブレイズの研究室へとやってきた。

 この研究室の助手の人が食事を持ってきたのを見て、お昼だと気付く。


「クラウディア、お昼は過ぎたが、もう食べたかい?」


 そう聞かれて、まだだと答えると追加で持ってくるように頼んでくれ、ブレイズと一緒に食べる事にした。


「そうそう、夕方になればコルビーが来るけど、それまで居るかい?」

「コルビーが来るの?じゃあ、来るまで居ようかな」


 簡単に食事を済ませて、研究室の書棚の本を手に取り、時間が過ぎるのを待った。





「叔父さん、いる?」

 学園から直接訪ねてきたコルビーが研究室の扉を開ける。


「コルビー、遅かったね。学園ってそんなに忙しいの?」

「クラウディア?久しぶりじゃないか。どうしたんだ?」


 彼の表情がぱあっと明るくなり、コルビーがクラウディアがいたことに心から喜んでいることが誰が見てもわかるほどだ。まあ年頃の男の子からすると、彼女ほどの綺麗な少女に会うとこんな表情をする気持ちもわかるものだ。


「君が来ているなら、真面目にしていればよかったな」

「また、なにかやったのか?」


 ブレイズがため息をつきながらコルビーに言うと、あっけらかんと答える。


「友達と居残りだったんだ。ちょっと、先生に悪戯したら見つかって、居残りで掃除をさせられてさあ」


 笑ってそう言ったのだが、少しも反省していない様子だった。ブレイズも『またか』という表情をしていて、コルビーは意外と子供なんだ、と思ったクラウディアだった。


「今日はどうしたんだ?また変なもの作ってるのか?」

「失礼ね。聞きたいことがあっておじいさまを訪ねてきたの」


 目の前に広げられた数々の魔術陣を書いた紙をみて、コルビーが呆れたように感心するようにクラウディアに言ったのだが、彼女も少しも悪びれないといった、あどけない表情を浮かべてさらっと答える姿を見て、思わずため息が漏れる。


「どのくらいで書いたんだ?」

「そうね…三日?四日かな?」


 彼女の前の前には書きかけの魔術陣があるのだが、パッと見るだけでもその複雑さと精巧さが見て取れ、コルビーも愕然としてしまい言葉が出てこない。


「おじさん…クラウディアの頭の中って、一体どうなっているんだ?」

「それを私に聞くか?…彼女を物差しで測るな。それは、無理だ…」


 二人で顔を見合わせ納得し合うような表情を浮かべているのを見て、何を言っているんだろう、と不思議に思いながら一枚の紙を手に取る。


「ねえ、コルビー?これ、どう??」


 満面の笑みを浮かべて、書いた魔術陣を見せてくるクラウディアを、複雑な気持ちで見つめ返した。その手にあるのは、どう見ても攻撃力を増大させるものだ。


「クラウディア……そんな魔術陣、使うのか?」

「うん、使おうと思って考えたんだもん」


 涼しい顔をしてそう言い放つ少女は、若干12歳なのだ。攻撃力の増大など必要のない貴族の令嬢なのになぜ?という思いしか湧いてこない。


「お父様達や騎士のみんなの剣に付与できるといいかなって思って考えたんだけど」

「そういうことなら…まあ、わかるけどさぁ…」


 ニコッと笑いかけてくる彼女の笑顔を見ると、何も言えなかった。女の子が考える事ではないと言いたい気持ちをぐっとこらえる。


 ―――あの笑顔に弱いんだよなぁ


「今日ね、魔術陣を教えてもらいに、ヒュー先生の所に行ってたの」

「ヒュー??なんだよ…俺も行きたかったな…」

「行きたかったの?」

「そうだよ。ヒューさんと話をする機会なんて早々ないんだぞ。あの人の講義もたまにしか開催しないし、倍率も高くて、なかなかいけないんだからな」

「へぇ~そうなんだ」


 そんなに忙しい人に時間を作ってもらい、申し訳なく思いながらも心の中でカルロスに感謝した。





 ブレイズが仕事をしている間にコルビーとも話が出来て、クラウディアにとってはとても楽しい時間だった。シモンも博識だが、この手の事はやはりコルビーに軍配が上がる。餅は餅屋なのだ。それに、ヒューとの話も為になるものばかりだった。


「ねえ、コルビー。ちょっと聞きたいんだけど…」


 静かだと思っていたら、何かを考えていたようで、彼女の顔は正に、『今悩んでいます』という事がわかるような、眉間にしわを寄せていたのだ。


「なんだ?わからないことか?」

「コルビーは転移陣の魔術陣は書ける?」

「転移陣は、この国の建国時に構築されたものだろう?」

「そうなんだけど、もっと簡易に構築できないかなって…」

「そんなことを考えるのは、多分お前だけだと思うぞ」

「そう?」


 コルビーに言われたものの、出来ないはずはないと考えて家にある転移陣をしっかりと見てみよう思い立ち、すぐに行動に移した。


「じゃあ、私もう帰るね。ブレイズさん、ありがとう。コルビーもまたね」

「おいっ…クラウディア」


 コルビーの声はクラウディアに届かなかったようで、言い終わる頃には、もう扉が閉まっていた。


「…クラウディアは忙しないなぁ…コルビー、お前も大変だな」


 含みのある笑みを浮かべコルビーを見つめながらそういうブレイズには、二人の関係がどう進んで行くのか少し心配になっていたものの、思いの外、コルビーが常識的な考えを持っていることを嬉しく思った。



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