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第五章
51 クラウディアの挑戦
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この日、クラウディアの姿は、屋敷の厨房にあった。
「ヨハン、厨房を使ってもいい?」
「お嬢様、今日は何を作るのですか?」
この1年ほどの間に、クラウディアは日本で食べていた料理を食べたくて、ヨハンに相談していくつもの料理を再現していた。
元々この国には日本で食べていたものがいくつもあるので、それが尚更、再現したいという気持ちに拍車をかけていたのかもしれない。トランへ行ってからというもの、懐かしい食材が手に入ることが嬉しくて仕方がなかった。
確かにこの世界には日本の物が多い。その事を不思議に思ってはいたが、嬉しい気持ちのほうが大きく、ただ享受していたのだが、それでは足りないものも多かった。その足りないもののなかに、味噌と醤油があったのだ。
確かに似たものはある。しかし、クラウディアが、深緒が思うものとは若干違うのだ。
どうにかならないかと考えていたのだが、トランで大豆の生産を目にし、麹の存在も知り、梅も見つけた。『これは作らなければ』と考えて、色々な材料をクロスローズに送ってもらう手筈を整え、ようやく届いたのだった。
「さて、味噌を仕込むかな。醤油も出来るよね」
そんな風に思いながら、厨房の一角を使って作りはじめる。日本では味噌は作っていたけれど、醤油は作ったことがなかったので、この国で醤油を作っている人から作り方を学び、うろ覚えの作り方と比較して作ることにしたのだ。
「さて、昨日のうちに大豆を水に浸しておいたから、茹でなきゃね」
大きな鍋にお湯を沸かし、大豆を茹で始めた。時間がかかるので朝からの作業だが、ただ待っているだけではつまらない。まあ、この家での私の扱いは、何でも知っていて何でも挑戦するお嬢様になっている為、多少変わったことをしても概ね温かい目で見てくれるのは助かっている。
この日も、大豆を茹でている間に何か作ろうかと考え、トランで手に入れたカレー粉をつかうことにした。
「そうだ、カレーパンを作ろう!」
早速、スパイスを合わせてカレー粉を作りはじめた。
強力粉が入った入れ物を手に取り、量りながらヨハンの顔を見る。「出来たら味見をしてもらえる?」と言ったところ、「お嬢様の作るものは全部美味しいので、もちろんいただきます」と笑顔で返事を返してきたので、味見係は確保できた。
粉類を量り終え、バターや砂糖など必要な分量を取り出して、順番に混ぜ合わせ、こね始める。発酵する時間に中の具を作ろうと、根菜類をいくつか野菜が入っているカゴから貰い、肉も分けてもらい、材料を切り始めた。
―――キーマカレーもいいかな。チーズは出来立てならいいかもしれない。
そう考えたものの、今回は普通の具の大きさにすることにして、煮始めた。
生地も倍くらいの大きさになり1次発酵も済んだので、ガス抜きをして等分してベンチタイムを取った。ベンチタイムが済んだら、具を詰めて形を整えパン粉も付けて二次発酵をする。その間に揚げ油を準備した。
「お嬢様。毎回思いますが、お嬢様はどこでこのようなレシピをお知りになったのですか?」
ヨハンが唐突にそう聞いてきた。唐突というのはまあ違うだろう。今まで思っていたことをようやく聞いてきたと言った方が正しいのかもしれない。まさか『前世の記憶です』などという訳にもいかず、とっさに口から出たのが、“本”だった。
「お祖父様からもらった本の中に、美味しそうな料理が載っていたの。それで、家庭教師の先生に、調べて貰ったり、自分で考えたの」
無理があるだろうが、子供は発想力が豊かという事で納得してくれたらしい。
そんな話をしているうちに二次発酵が終わったので、順番に油で揚げ始めた。
こんがりと色づいてくるパンを見ながら、みんなが喜んでくれるといいなと考えた。
油をきり、こんがりと揚がったパンを見つめ、「なかなか上手くできた」と自分を褒め、それらをみんなに渡して感想を聞いた。
「お嬢様、これ、おいしいです。中に入っているのは何ですか?」
「これはカレーよ。ご飯にかけると美味しいんだけど、今日はパンに入れて、カレーパンにしてみたの」
口々に感想を言い始めたので、概ね好評という事にした。しかし、これなら露店で売っても、パン屋で売ってもいいかもしれない。
それから茹で上がった大豆を風魔法で細かく砕き、水や塩、麹を混ぜて準備をしておいた樽に入れ、カビが生えないように塩を振ってから表面に浄化をかけた。
「これで夏が終わる頃にお味噌ができるわ」出来上がった時に何を作ろうかを考えながら、その樽を食品庫の中の涼しい日陰へと移動させた。
「ヨハン、厨房を使ってもいい?」
「お嬢様、今日は何を作るのですか?」
この1年ほどの間に、クラウディアは日本で食べていた料理を食べたくて、ヨハンに相談していくつもの料理を再現していた。
元々この国には日本で食べていたものがいくつもあるので、それが尚更、再現したいという気持ちに拍車をかけていたのかもしれない。トランへ行ってからというもの、懐かしい食材が手に入ることが嬉しくて仕方がなかった。
確かにこの世界には日本の物が多い。その事を不思議に思ってはいたが、嬉しい気持ちのほうが大きく、ただ享受していたのだが、それでは足りないものも多かった。その足りないもののなかに、味噌と醤油があったのだ。
確かに似たものはある。しかし、クラウディアが、深緒が思うものとは若干違うのだ。
どうにかならないかと考えていたのだが、トランで大豆の生産を目にし、麹の存在も知り、梅も見つけた。『これは作らなければ』と考えて、色々な材料をクロスローズに送ってもらう手筈を整え、ようやく届いたのだった。
「さて、味噌を仕込むかな。醤油も出来るよね」
そんな風に思いながら、厨房の一角を使って作りはじめる。日本では味噌は作っていたけれど、醤油は作ったことがなかったので、この国で醤油を作っている人から作り方を学び、うろ覚えの作り方と比較して作ることにしたのだ。
「さて、昨日のうちに大豆を水に浸しておいたから、茹でなきゃね」
大きな鍋にお湯を沸かし、大豆を茹で始めた。時間がかかるので朝からの作業だが、ただ待っているだけではつまらない。まあ、この家での私の扱いは、何でも知っていて何でも挑戦するお嬢様になっている為、多少変わったことをしても概ね温かい目で見てくれるのは助かっている。
この日も、大豆を茹でている間に何か作ろうかと考え、トランで手に入れたカレー粉をつかうことにした。
「そうだ、カレーパンを作ろう!」
早速、スパイスを合わせてカレー粉を作りはじめた。
強力粉が入った入れ物を手に取り、量りながらヨハンの顔を見る。「出来たら味見をしてもらえる?」と言ったところ、「お嬢様の作るものは全部美味しいので、もちろんいただきます」と笑顔で返事を返してきたので、味見係は確保できた。
粉類を量り終え、バターや砂糖など必要な分量を取り出して、順番に混ぜ合わせ、こね始める。発酵する時間に中の具を作ろうと、根菜類をいくつか野菜が入っているカゴから貰い、肉も分けてもらい、材料を切り始めた。
―――キーマカレーもいいかな。チーズは出来立てならいいかもしれない。
そう考えたものの、今回は普通の具の大きさにすることにして、煮始めた。
生地も倍くらいの大きさになり1次発酵も済んだので、ガス抜きをして等分してベンチタイムを取った。ベンチタイムが済んだら、具を詰めて形を整えパン粉も付けて二次発酵をする。その間に揚げ油を準備した。
「お嬢様。毎回思いますが、お嬢様はどこでこのようなレシピをお知りになったのですか?」
ヨハンが唐突にそう聞いてきた。唐突というのはまあ違うだろう。今まで思っていたことをようやく聞いてきたと言った方が正しいのかもしれない。まさか『前世の記憶です』などという訳にもいかず、とっさに口から出たのが、“本”だった。
「お祖父様からもらった本の中に、美味しそうな料理が載っていたの。それで、家庭教師の先生に、調べて貰ったり、自分で考えたの」
無理があるだろうが、子供は発想力が豊かという事で納得してくれたらしい。
そんな話をしているうちに二次発酵が終わったので、順番に油で揚げ始めた。
こんがりと色づいてくるパンを見ながら、みんなが喜んでくれるといいなと考えた。
油をきり、こんがりと揚がったパンを見つめ、「なかなか上手くできた」と自分を褒め、それらをみんなに渡して感想を聞いた。
「お嬢様、これ、おいしいです。中に入っているのは何ですか?」
「これはカレーよ。ご飯にかけると美味しいんだけど、今日はパンに入れて、カレーパンにしてみたの」
口々に感想を言い始めたので、概ね好評という事にした。しかし、これなら露店で売っても、パン屋で売ってもいいかもしれない。
それから茹で上がった大豆を風魔法で細かく砕き、水や塩、麹を混ぜて準備をしておいた樽に入れ、カビが生えないように塩を振ってから表面に浄化をかけた。
「これで夏が終わる頃にお味噌ができるわ」出来上がった時に何を作ろうかを考えながら、その樽を食品庫の中の涼しい日陰へと移動させた。
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