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第五章
45 アインザムカイト王弟殿下
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「こちらへどうぞ、この部屋をお使いください」
神官長に案内された部屋は、この教会に来る高位貴族の為に用意されている部屋なのだが、飾り気はなくとても質素に仕上がっている。代々のクロスローズ公爵の考え方が垣間見え、私は好印象を持った。
そもそも教会というものはこういう質素な方が気持ちが顕れるもので、華美なものは意味がないとアインザムカイトは考えていた。
『クロスローズの教会は素晴らしいな。兄上がおっしゃるだけのことはある。この部屋も質素ながらも気品に満ちていて、それでいて落ち着く』と、案内された部屋を見回しながらそう考えていた。
「少し教会の中を見てくる。お前たちはここで休んでいろ」
従者達にそう告げてから部屋を後にした。
教会の長い廊下をゆっくりと周囲に目を配りながら進んでいくと、建物の造りのすばらしさに目を奪われる。
―――ここは相当古いな。石をくみ上げて作られているから、この石が醸し出す重厚さが歴史の重みをさらに増している。所々にある石組のアーチの繊細な仕上げも、昔の工人の腕の高さを伺わせている。
この様式は二百年以上前のものだろう。古い建物ほど頑丈にできているものだな。この扉の飾り彫りも趣があってなかなに良いものだが……、これは礼拝堂の扉か?
扉に手を添えそっと開けようとして、誰かが礼拝している邪魔になっても申し訳ないと思うと、なんだが急に胸がざわめいた。
礼拝堂を前にしてそう感じて一瞬手が止まったが、そのままそっと開けた。そして目に入った光景に思わず息をのむ。
とても美しい少女が一人、跪き一身に祈りを捧げている。
まだ幼さが残るその横顔はアインザムカイトの心をとらえるには十分で、楚々とした魅力に満ち溢れる少女の姿を目にし、心臓がギュッと握られるようなそんな衝撃があった。
―――扉の前で感じたあの胸のざわめきはこのことを示していたのか……
そんなことが頭をよぎりその少女の横顔に目が釘付けになるが、その瞬間、まるで時間が止まったかのような、そして何か大切な事を忘れているような不思議な感覚に襲われた。
―――この気持ちは…なんだ??
胸を押さえながら呆然と立ち尽くしていたアインザムカイトに神官長が声をかけた。
「王弟殿下、申し訳ございません。今しばらくは、こちらへの立ち入りは出来ないのです」
そう言って扉を閉め、アインザムカイトを礼拝堂から遠ざける。
「神官長。今の令嬢は…」
「私からは、何も申し上げることができないのです。申し訳ございません」
神官長は後ろ手にその扉を固く閉じ、頭を下げて入ることができないようにアインザムカイトの前に立ちはだかった。
クロスローズ公爵やラフィニエール猊下から『くれぐれも注意するように』と言われているのだから、王弟殿下とはいえそうやすやすと通す訳にはいかない。教会という場所は特区で、一番の権力者は国王ではなくラフィニエール猊下だ。
「そうか、では自分で聞くとする」
立ちはだかる神官長を軽く押しやるようにするが、神官もそう簡単に引き下がらなかった。
しばらく押し問答を続けた後にアインザムカイトが扉を開けたが、その時にはもう少女の姿はなかった。
「どこへ…」
姿が見えなくなったことで幻だったのではないかと一瞬思ったが、神官長のほっとした表情とその態度から、間違いなく現実なのだと考えた。
「王弟殿下。誠に申し訳ございません。先ほどの事に関しては、私共からは何も教えることはできないのです。ご容赦ください」
そう言って頭を深く下げる神官長に、これ以上聞いても無駄だろうと感じその場を後にした。ここで言い合いをしても埒が明かないとわかっているし、ヴェリダ教の神官たちを敵に回すような真似もしたくはない。
―――どういうことだ?箝口令が敷かれているのか?
よほどの身分なのだと思うが、王弟である自分にも話すことができないとなると些か疑問が残った。だが『まあ、調べればすぐわかるだろう』と、結局のところそう言う考えに行きついたが、そう考えると、少しは気持ちは軽くなる。優秀な人材は多いのだからわかるのは時間の問題だろうと思ったからだ。
神官長に案内された部屋は、この教会に来る高位貴族の為に用意されている部屋なのだが、飾り気はなくとても質素に仕上がっている。代々のクロスローズ公爵の考え方が垣間見え、私は好印象を持った。
そもそも教会というものはこういう質素な方が気持ちが顕れるもので、華美なものは意味がないとアインザムカイトは考えていた。
『クロスローズの教会は素晴らしいな。兄上がおっしゃるだけのことはある。この部屋も質素ながらも気品に満ちていて、それでいて落ち着く』と、案内された部屋を見回しながらそう考えていた。
「少し教会の中を見てくる。お前たちはここで休んでいろ」
従者達にそう告げてから部屋を後にした。
教会の長い廊下をゆっくりと周囲に目を配りながら進んでいくと、建物の造りのすばらしさに目を奪われる。
―――ここは相当古いな。石をくみ上げて作られているから、この石が醸し出す重厚さが歴史の重みをさらに増している。所々にある石組のアーチの繊細な仕上げも、昔の工人の腕の高さを伺わせている。
この様式は二百年以上前のものだろう。古い建物ほど頑丈にできているものだな。この扉の飾り彫りも趣があってなかなに良いものだが……、これは礼拝堂の扉か?
扉に手を添えそっと開けようとして、誰かが礼拝している邪魔になっても申し訳ないと思うと、なんだが急に胸がざわめいた。
礼拝堂を前にしてそう感じて一瞬手が止まったが、そのままそっと開けた。そして目に入った光景に思わず息をのむ。
とても美しい少女が一人、跪き一身に祈りを捧げている。
まだ幼さが残るその横顔はアインザムカイトの心をとらえるには十分で、楚々とした魅力に満ち溢れる少女の姿を目にし、心臓がギュッと握られるようなそんな衝撃があった。
―――扉の前で感じたあの胸のざわめきはこのことを示していたのか……
そんなことが頭をよぎりその少女の横顔に目が釘付けになるが、その瞬間、まるで時間が止まったかのような、そして何か大切な事を忘れているような不思議な感覚に襲われた。
―――この気持ちは…なんだ??
胸を押さえながら呆然と立ち尽くしていたアインザムカイトに神官長が声をかけた。
「王弟殿下、申し訳ございません。今しばらくは、こちらへの立ち入りは出来ないのです」
そう言って扉を閉め、アインザムカイトを礼拝堂から遠ざける。
「神官長。今の令嬢は…」
「私からは、何も申し上げることができないのです。申し訳ございません」
神官長は後ろ手にその扉を固く閉じ、頭を下げて入ることができないようにアインザムカイトの前に立ちはだかった。
クロスローズ公爵やラフィニエール猊下から『くれぐれも注意するように』と言われているのだから、王弟殿下とはいえそうやすやすと通す訳にはいかない。教会という場所は特区で、一番の権力者は国王ではなくラフィニエール猊下だ。
「そうか、では自分で聞くとする」
立ちはだかる神官長を軽く押しやるようにするが、神官もそう簡単に引き下がらなかった。
しばらく押し問答を続けた後にアインザムカイトが扉を開けたが、その時にはもう少女の姿はなかった。
「どこへ…」
姿が見えなくなったことで幻だったのではないかと一瞬思ったが、神官長のほっとした表情とその態度から、間違いなく現実なのだと考えた。
「王弟殿下。誠に申し訳ございません。先ほどの事に関しては、私共からは何も教えることはできないのです。ご容赦ください」
そう言って頭を深く下げる神官長に、これ以上聞いても無駄だろうと感じその場を後にした。ここで言い合いをしても埒が明かないとわかっているし、ヴェリダ教の神官たちを敵に回すような真似もしたくはない。
―――どういうことだ?箝口令が敷かれているのか?
よほどの身分なのだと思うが、王弟である自分にも話すことができないとなると些か疑問が残った。だが『まあ、調べればすぐわかるだろう』と、結局のところそう言う考えに行きついたが、そう考えると、少しは気持ちは軽くなる。優秀な人材は多いのだからわかるのは時間の問題だろうと思ったからだ。
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