上 下
47 / 200
第五章

41 シモンと乗馬

しおりを挟む
「クラウ、今日も行くかい?」


 クロスローズの屋敷を訪ねてきたシモンは外を指差しながら、ニコッと微笑むのだがその笑顔が意味するものは一つだった。そもそもシモンの服装が乗馬服なのだから感が鈍くてもわかるだろう。


「はい、もちろん。準備してくるから、お兄様、外で待ってて」


 そう言って部屋を出て行くクラウディアの後ろ姿を見つめるシモンは、笑顔を浮かべて彼女が消えた扉を見つめていた。


 ―――クラウは元気だなぁ


 そう考えながら厩舎へと向かった。
 クラウディアが乗馬を習い始めてもう一年になるが、練習を相当しているのか今ではそのレベルは中級まで到達していた。この調子ならゆっくり学んでも学園へ入学する前には上級になるだろうと考え、馬を駆ける彼女の姿を思い浮かべた。


 ―――彼女が馬を操る姿も様になるだろうな


 そんなことを考えていると、クラウディアが乗馬服に着替えて駆けてくるのが見える。急いで来て転ばないかつい心配になって手を差し出したくなるが、そんな風に過保護なことは彼女は良しとしない性格だ。


「お兄様、お待たせしました」

「走ると危ないよ。ゆっくりでいいから気を付けて」


 シモンは注意を促しながら笑顔を浮かべて、クラウディアが一生懸命駆けてくる姿を見ていた。可愛いクラウディアが自分に向かってくる姿は何事にも代えられないほどの喜びを感じ、それこそ可愛い妹を見守る兄だ。


「クラウ、今日は私と一緒に乗るかい?」


 いつもはそれぞれの馬に騎乗するのだが、この日は一緒に乗るのもいいかと思ってクラウディアを抱き上げてそう聞いたのだが、シモンの心の中では可愛いクラウディアを甘やかせたい気持ちもあった。


「お兄様と?」

「そうだよ。お姫様、一緒に乗っていただけますか?」


 クラウディアはニコッと笑って頷いた。







「それじゃあ、少し遠くまで行ってみるかい?」


 クラウディアはちょこんと抱えられるようにシモンの前に座り、最初はゆっくり、そしてどんどんとスピードを上げて、昔、家族と行った湖を遠くに望む高台へと馬を走らせた。
 その街道はきれいに整備されていて、ゆっくりであればクラウディアでも来ることができるような場所だったので、様子見も兼ねての遠乗りだ。


「クラウ、大丈夫?」

「はい!」


 シモンの顔を見上げてニコッと笑うが、クラウディアはこんなに長い時間二人で馬に乗ることは初めてで、しかもシモンの動きもとても丁寧だ。


「わぁ~きれい」

「まだ他にも一緒に行きたいところはあるんだけどね、クラウが遠乗りできるようになったら一緒に行こうか?」

「はいっ、早く、お兄様と一緒に遠乗りにいけるようにもっと練習を頑張ります」


 そしてしばらく景色を楽しんだ後、ゆっくりと屋敷への帰路に着いた。
 その間中、色々な話をした。今、何を勉強しているだとか、興味のあることはどんなことだとか、どこへ行きたいかなど、部屋にいる時とは違って、外の新鮮な空気と広大な自然はいつもよりものびのびと話が出来た。

 クラウディアもまた、こういう時間の過ごし方も楽しいと思いながら、シモンと密着している時間が長いことで緊張していたことを本人に知られないかドキドキしていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。 リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。 しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。 もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。 そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。 それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。 少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。 そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。 ※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

処理中です...