39 / 213
第四章
34 ピクニック
しおりを挟む
「クインお兄様、準備できました?早く行きましょう!」
元気いっぱいの笑顔をしたクラウディアがクインの手を引っ張るように階下へと降りていく。
玄関にはカイラードが待っていて、二人に向かって手を上げる。
「兄上、遅い。クラウに呼び行かせるなんてダメじゃないですか」
いつもは言われる立場の弟なので、今回は自分の方が早かったと言わんばかりに兄に向って一言、言う。
「すまないな。じゃあ行こうか」
当のクインは、その弟の言葉をまったく気に留める様子もなく聞き流している。彼にとってはクラウディアの笑顔の方が重要だから、カイラードの言葉は耳に届かない。
「湖まで行きましょう」
この時期のレイカー湖は湖畔のセレッソの並木がとても綺麗で、小さなピンク色の花びらが風に舞う風景はとても美しいと聞いていた。それを聞いて一度訪れてみたいと思っていたのだった。
屋敷からレイカー湖までは馬車で1時間ほどかかるのだが、その道中、兄達との話に花が咲き、その時間はあっという間に過ぎた。
湖畔の小さな宿屋に馬車を停め、そこからセレッソの並木までは歩くことにした。
綺麗に整備された小道を普段目にすることのない湖畔の風景を堪能しながら、前方に見える並木道まで歩いた。この時間は人の出が少ないようでクラウディア達もゆっくりとした時間を過ごせそうだった。
「きれい…」
その場にいた全員が、一面にピンク色の霞がかかっているかのような光景に目を奪われた。
時折、枝から舞い落ちる小さな花びらが、風にひらひらと舞い落ちる様子は、とても素敵で優雅に見えた。
―――桜。こんな場所で桜並木が見られるなんて…
日本での花見を思い出し、その懐かしさから思わず涙が出そうになった。そしてセレッソの花が見える場所に敷物を広げ、話をしながら持ってきた軽食を取り出し並べた。
「クインお兄様。王宮ではどのようなことをしているのですか?」
クインがジルベルトと一緒に王都でも王宮に近い場所にある屋敷で過ごすことが多く、そこから王宮へと出かけていることを知っているのだが、どんなことをしているのか聞いたことがなくて気になっていた。
「王宮に行くことは月に数回しかないけど、ほとんどは王宮内の教会や結界の確認や保全だよ」
「結界…ですか?」
「ああ、エストレージャ王国の王宮でも結界はあると思うが聞いていないかい?」
「聞いたことはないです」
「そうか。まあ、あまり口外するようなものではないからな。知っているものが少ないのかもしれないね」
「結界……」
少し考え込むような表情をすると、クインは「結界のことは追々教えるからもう少し待っていてね」と期待する返事をくれた。
「わかりました。では、食べましょう。私も手伝ったのよ」
クラウディアは、厨房にもよく出入りするので料理長とも仲が良く、今回も食べやすいものをリクエストしていたらしい。
「クラウも手伝ったのかい?それじゃあ残さないようにしないとね」
並べた軽食を食べてゆっくりと横になったり、湖の水で遊んだりして時間を過ごし、日が傾き始める前に帰路へ着いた。また来ようと約束をして…
元気いっぱいの笑顔をしたクラウディアがクインの手を引っ張るように階下へと降りていく。
玄関にはカイラードが待っていて、二人に向かって手を上げる。
「兄上、遅い。クラウに呼び行かせるなんてダメじゃないですか」
いつもは言われる立場の弟なので、今回は自分の方が早かったと言わんばかりに兄に向って一言、言う。
「すまないな。じゃあ行こうか」
当のクインは、その弟の言葉をまったく気に留める様子もなく聞き流している。彼にとってはクラウディアの笑顔の方が重要だから、カイラードの言葉は耳に届かない。
「湖まで行きましょう」
この時期のレイカー湖は湖畔のセレッソの並木がとても綺麗で、小さなピンク色の花びらが風に舞う風景はとても美しいと聞いていた。それを聞いて一度訪れてみたいと思っていたのだった。
屋敷からレイカー湖までは馬車で1時間ほどかかるのだが、その道中、兄達との話に花が咲き、その時間はあっという間に過ぎた。
湖畔の小さな宿屋に馬車を停め、そこからセレッソの並木までは歩くことにした。
綺麗に整備された小道を普段目にすることのない湖畔の風景を堪能しながら、前方に見える並木道まで歩いた。この時間は人の出が少ないようでクラウディア達もゆっくりとした時間を過ごせそうだった。
「きれい…」
その場にいた全員が、一面にピンク色の霞がかかっているかのような光景に目を奪われた。
時折、枝から舞い落ちる小さな花びらが、風にひらひらと舞い落ちる様子は、とても素敵で優雅に見えた。
―――桜。こんな場所で桜並木が見られるなんて…
日本での花見を思い出し、その懐かしさから思わず涙が出そうになった。そしてセレッソの花が見える場所に敷物を広げ、話をしながら持ってきた軽食を取り出し並べた。
「クインお兄様。王宮ではどのようなことをしているのですか?」
クインがジルベルトと一緒に王都でも王宮に近い場所にある屋敷で過ごすことが多く、そこから王宮へと出かけていることを知っているのだが、どんなことをしているのか聞いたことがなくて気になっていた。
「王宮に行くことは月に数回しかないけど、ほとんどは王宮内の教会や結界の確認や保全だよ」
「結界…ですか?」
「ああ、エストレージャ王国の王宮でも結界はあると思うが聞いていないかい?」
「聞いたことはないです」
「そうか。まあ、あまり口外するようなものではないからな。知っているものが少ないのかもしれないね」
「結界……」
少し考え込むような表情をすると、クインは「結界のことは追々教えるからもう少し待っていてね」と期待する返事をくれた。
「わかりました。では、食べましょう。私も手伝ったのよ」
クラウディアは、厨房にもよく出入りするので料理長とも仲が良く、今回も食べやすいものをリクエストしていたらしい。
「クラウも手伝ったのかい?それじゃあ残さないようにしないとね」
並べた軽食を食べてゆっくりと横になったり、湖の水で遊んだりして時間を過ごし、日が傾き始める前に帰路へ着いた。また来ようと約束をして…
8
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします
稲垣桜
恋愛
エリザベス・ファロンは黎明の羅針盤(アウローラコンパス)と呼ばれる伝説のパーティの一員だった。
メンバーはすべてS級以上の実力者で、もちろんエリザベスもSS級。災害級の事案に対応できる数少ないパーティだったが、結成してわずか2年足らずでその活動は休眠となり「解散したのでは?」と人は色々な噂をしたが、今では国内散り散りでそれぞれ自由に行動しているらしい。
エリザベスは名前をリサ・ファローと名乗り、姿も変え一般冒険者として田舎の町ガレーヌで暮らしている。
その町のギルマスのグレンはリサの正体を知る数少ない人物で、その彼からラリー・ブレイクと名乗る人物からの依頼を受けるように告げられる。
それは彼女の人生を大きく変えるものだとは知らずに。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義なところもあります。
※えっ?というところは軽くスルーしていただけると嬉しいです。
どうせ去るなら爪痕を。
ぽんぽこ狸
恋愛
実家が没落してしまい、婚約者の屋敷で生活の面倒を見てもらっているエミーリエは、日の当たらない角部屋から義妹に当たる無邪気な少女ロッテを見つめていた。
彼女は婚約者エトヴィンの歳の離れた兄妹で、末っ子の彼女は家族から溺愛されていた。
ロッテが自信を持てるようにと、ロッテ以上の技術を持っているものをエミーリエは禁止されている。なので彼女が興味のない仕事だけに精を出す日々が続いている。
そしていつか結婚して自分が子供を持つ日を夢に見ていた。
跡継ぎを産むことが出来れば、自分もきっとこの家の一員として尊重してもらえる。そう考えていた。
しかし儚くその夢は崩れて、婚約破棄を言い渡され、愛人としてならばこの屋敷にいることだけは許してやるとエトヴィンに宣言されてしまう。
希望が持てなくなったエミーリエは、この場所を去ることを決意するが長年、いろいろなものを奪われてきたからにはその爪痕を残して去ろうと考えたのだった。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる