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第四章

34 ピクニック

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「クインお兄様、準備できました?早く行きましょう!」


 元気いっぱいの笑顔をしたクラウディアがクインの手を引っ張るように階下へと降りていく。
 玄関にはカイラードが待っていて、二人に向かって手を上げる。
 

「兄上、遅い。クラウに呼び行かせるなんてダメじゃないですか」


 いつもは言われる立場の弟なので、今回は自分の方が早かったと言わんばかりに兄に向って一言、言う。
 

「すまないな。じゃあ行こうか」


 当のクインは、その弟の言葉をまったく気に留める様子もなく聞き流している。彼にとってはクラウディアの笑顔の方が重要だから、カイラードの言葉は耳に届かない。


「湖まで行きましょう」


 この時期のレイカー湖は湖畔のセレッソの並木がとても綺麗で、小さなピンク色の花びらが風に舞う風景はとても美しいと聞いていた。それを聞いて一度訪れてみたいと思っていたのだった。
 屋敷からレイカー湖までは馬車で1時間ほどかかるのだが、その道中、兄達との話に花が咲き、その時間はあっという間に過ぎた。


  湖畔の小さな宿屋に馬車を停め、そこからセレッソの並木までは歩くことにした。
 綺麗に整備された小道を普段目にすることのない湖畔の風景を堪能しながら、前方に見える並木道まで歩いた。この時間は人の出が少ないようでクラウディア達もゆっくりとした時間を過ごせそうだった。


「きれい…」


 その場にいた全員が、一面にピンク色の霞がかかっているかのような光景に目を奪われた。
 時折、枝から舞い落ちる小さな花びらが、風にひらひらと舞い落ちる様子は、とても素敵で優雅に見えた。 


 ―――桜。こんな場所で桜並木が見られるなんて…


 日本での花見を思い出し、その懐かしさから思わず涙が出そうになった。そしてセレッソの花が見える場所に敷物を広げ、話をしながら持ってきた軽食を取り出し並べた。


「クインお兄様。王宮ではどのようなことをしているのですか?」


 クインがジルベルトと一緒に王都でも王宮に近い場所にある屋敷で過ごすことが多く、そこから王宮へと出かけていることを知っているのだが、どんなことをしているのか聞いたことがなくて気になっていた。


「王宮に行くことは月に数回しかないけど、ほとんどは王宮内の教会や結界の確認や保全だよ」

「結界…ですか?」

「ああ、エストレージャ王国の王宮でも結界はあると思うが聞いていないかい?」

「聞いたことはないです」

「そうか。まあ、あまり口外するようなものではないからな。知っているものが少ないのかもしれないね」

「結界……」


 少し考え込むような表情をすると、クインは「結界のことは追々教えるからもう少し待っていてね」と期待する返事をくれた。 


「わかりました。では、食べましょう。私も手伝ったのよ」


 クラウディアは、厨房にもよく出入りするので料理長とも仲が良く、今回も食べやすいものをリクエストしていたらしい。
 

「クラウも手伝ったのかい?それじゃあ残さないようにしないとね」


 並べた軽食を食べてゆっくりと横になったり、湖の水で遊んだりして時間を過ごし、日が傾き始める前に帰路へ着いた。また来ようと約束をして…


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