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第三章
30 コルビーとの出会い
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セグリーヴ侯爵家で過ごし、月に数度クロスローズ公爵家に戻るような生活にも慣れてきた頃、エストレージャ王国内にいないことになっているクラウディアの姿が目撃されても困るので、ジルベルトからペンダント型の認識阻害の魔道具を使うようにと言われていた。
そんなに劇的な変化をもたらすものではなく、髪の色や瞳の色が濃茶に変化し若干印象が薄くなる程度らしく、顔自体は変わらないらしい。しかし、この国で濃茶の髪は半数以上いるのだから紛れるのは間違いないだろう。
そしてこの魔道具を使うようになってからというもの、クラウディアの頭の中に『こんな魔道具を自分で作れないか』という考えがよぎるようになった。
エアストン国でもエストレージャ王国でも魔道具を作る事は許可制となっており、魔術大臣からの認可を受けた後、魔道具製作者登録証が発行されることになっている。その登録証に名義人のサインを登録し、作った魔道具には製作者のサインを記載することが必須なのだ。
登録制なのは作られた魔道具に不具合があった時などに登録者がわかることで改善しやすいということだからだ。もちろん、不正に作られることのないようにと言う意図もあった。
クラウディアは早々に魔道具に関する勉強を始め、カルロスから魔道具製作登録証を発行してもらった。もちろん、一定の知識と一定の能力がある者にしか発行されないので『そのレベルまで達したら発行しよう』という条件をクリアするために必死で勉強をした。
その時にお世話になったのが、魔法魔術院に研究室を持つブレイズ・グリーンで、魔道具製作では優秀な一族の出身者でもあった。
そのブレイズから約一年、助言を受けつつ自分でも独自に勉強を重ねた結果、ようやく登録証を発行してもらえることになった。
ブレイズからの直接指導と周囲からの世話焼きなほどの助言から、取得までの期間が大幅に短縮された。しかし、彼女の類まれなる努力と秘められた才能がを結んだのだが、さすがに本名で登録することは憚られたので偽名『ディアーナ・ティルトン』として登録とすることが、魔術大臣でもあるカルロスの独断で決定された。
この日、一週間の予定でクロスローズの屋敷へと戻ってきたクラウディアは、翌日にカルロスを訪ねることにしていた。ブレイズにも聞きたい事がたくさんあったので、この先に作りたいものを想像したり、ブレイズは今何を作っているのだろうかと考えたりしているうちにあっという間に夜が明け、気が付けばもう出かける時間になっていた。
「お祖父様~」
「おお、クラウディア、よく来たな。さあ、こっちだ」
魔法魔術院では、所属する人間すべてに秘密保持契約が交わされており、本来の姿で出歩いていても外部に漏れることはなかった。そもそも、研究に命を懸けるような人間は他人の容姿には興味がないらしい。
そしてこの日、ブレイズにも会いたいと伝えていたのですぐに彼の研究室へと向かった。研究室に着くまでの間、セグリーヴ侯爵家でどんなことをして過ごしているかを話し、そこで読んだ本のことを質問したり祖父と孫の会話を楽しんだ。
「ジルベルトは良くしてくれているようだな」
「はい。皆様、とても優しくしてくれます。それに、いろんなことを教えてくれて、お父様やお母様には悪いと思うけど、もう少しお世話になろうかと思っています」
「そうか。それはベイリー達も悲しむな」
そう言いながらも楽しそうに笑っていた。カルロスにとってはジルベルトは自分の弟なのだから、弟の話も聞くことが出来て嬉しいのだろう。
扉をノックし研究室へ入ると部屋には他にも5名ほどの研究員の姿が見え、隣の部屋へ繋がる扉も3つほどあった。そしてブレイズが出迎えに出てきたのだが、クラウディアが来ることを伝えてあったので彼の服装も身だしなみも綺麗に整えられていた。とは言っても、作業着となる白衣を羽織っているので、服装に関してはそんなにわからない。
「こんにちは。いつもありがとうございます」
「ようこそ、私の研究室へ。クラウディア」
「クラウディアもゆっくり話がしたいだろう。ブレイズ、話が終わったら連れてきてくれるか?」
「わかりました。お任せください」
カルロスは自室へと戻り、ブレイズの研究室に残ったクラウディアは、早速聞きたい事を矢継ぎ早に質問し始めた。
「いやいや…ちょっと待って。落ち着いて。ゆっくりと1つ1つ解決していこうか」
「ごめんなさい。会ったら何を聞こうかずっと考えていたから…」
ブレイズは少し照れたような表情をしている少女がとても可愛らしく、自分も結婚していたらこんな子供がいてもおかしくないのになと考えた。ブレイズはクラウディアの親より年上なのだから、そう思うこともあるだろう。
「そうだ、クラウディア嬢。私の甥っ子なんだが、今、遊びに来ているんだよ、紹介しよう。コルビー?こっちに来てくれるか」
「何ですか?叔父さん」
隣の資料室から顔を出したのは15歳くらいの男の子で、短いライトブラウンの髪に濃い茶色の瞳が印象的な凛々しい印象の青年だった。彼は、クラウディアを見てまるで時が止まったかのように彼女から目が離せないでいた。
「コルビー?」
「あっ…はい」
小さな人形のような美少女に目を奪われ、思わず固まってしまったコルビーはブレイズの一言で我に返る。
「コルビー・グリーンです。ブレイズさんは僕の叔父さんで、ここへは魔道具製作に付いて教えて貰いに来ています」
「クラウディア・リュカ・クロスローズよ。私もブレイズ先生に魔道具の事を色々と教えて貰っているの。私達、仲間ね」
「コルビー、この間も話しただろう?とても優秀な少女の話。彼女の事だよ。カルロス様のお孫さんで、クロスローズ公爵令嬢だ」
コルビーの目がもう一度彼女を捉える。金の髪と瑠璃の瞳がとても美しい少女で、どう見ても10歳くらいにしか見えない少女なのに、ブレイズが褒めるほどの子なのか?と考える。
「コルビーはいつも来てるの?」
彼女に声をかけられ、現実に引き戻される。
「僕ですか?時々、教えて貰いに来ています。出身がフォルセなので、学園に通っている間はここに顔を出しやすいですから。将来は叔父の様に魔道具の研究をしたくて、今から勉強しています」
「フォルセって…ウィルバートのおじさまの所ね。でも魔道具の研究ならブレイズさんに教えて貰えば、素晴らしい研究者になれるよ」
「クラウディア嬢、ありがとうございます」
「クラウディアって呼んで。言葉使いも普通でいいよ。ブレイズさんに教えて貰う仲間でしょ?」
「……わかった。じゃあ、クラウディア、よろしく」
「コルビー、こちらこそ、よろしくね」
名前を呼んで、天使のような笑顔を向けてくる彼女を見て、鼓動が早くなるのがわかる。
―――こんな綺麗な子は初めて見た……。名前を呼ばれるなんて、心臓が持たないよ。
それから魔道具に付いての話に花が咲き、どんな魔道具を作りたいとか、新しいアイデアを話し合ったりしているうちにあっという間に時間が過ぎた。
「クラウディア、そろそろカルロス様が首を長くして待っている頃じゃないかな?部屋まで送るよ」
「はぁい。まだ話しがしたかったな」
「クラウディア、今度はいつ来るの?」
「決まってないの。なかなか出られなくて」
「わかった。じゃあまた今度。楽しみにしてる」
「うん」
クラウディアはコルビーに手を振り、研究室を後にした。その彼女が出て行って閉まった扉を見つめて思わずつぶやいた。
「クラウディアか…また会えるかな」
そんなに劇的な変化をもたらすものではなく、髪の色や瞳の色が濃茶に変化し若干印象が薄くなる程度らしく、顔自体は変わらないらしい。しかし、この国で濃茶の髪は半数以上いるのだから紛れるのは間違いないだろう。
そしてこの魔道具を使うようになってからというもの、クラウディアの頭の中に『こんな魔道具を自分で作れないか』という考えがよぎるようになった。
エアストン国でもエストレージャ王国でも魔道具を作る事は許可制となっており、魔術大臣からの認可を受けた後、魔道具製作者登録証が発行されることになっている。その登録証に名義人のサインを登録し、作った魔道具には製作者のサインを記載することが必須なのだ。
登録制なのは作られた魔道具に不具合があった時などに登録者がわかることで改善しやすいということだからだ。もちろん、不正に作られることのないようにと言う意図もあった。
クラウディアは早々に魔道具に関する勉強を始め、カルロスから魔道具製作登録証を発行してもらった。もちろん、一定の知識と一定の能力がある者にしか発行されないので『そのレベルまで達したら発行しよう』という条件をクリアするために必死で勉強をした。
その時にお世話になったのが、魔法魔術院に研究室を持つブレイズ・グリーンで、魔道具製作では優秀な一族の出身者でもあった。
そのブレイズから約一年、助言を受けつつ自分でも独自に勉強を重ねた結果、ようやく登録証を発行してもらえることになった。
ブレイズからの直接指導と周囲からの世話焼きなほどの助言から、取得までの期間が大幅に短縮された。しかし、彼女の類まれなる努力と秘められた才能がを結んだのだが、さすがに本名で登録することは憚られたので偽名『ディアーナ・ティルトン』として登録とすることが、魔術大臣でもあるカルロスの独断で決定された。
この日、一週間の予定でクロスローズの屋敷へと戻ってきたクラウディアは、翌日にカルロスを訪ねることにしていた。ブレイズにも聞きたい事がたくさんあったので、この先に作りたいものを想像したり、ブレイズは今何を作っているのだろうかと考えたりしているうちにあっという間に夜が明け、気が付けばもう出かける時間になっていた。
「お祖父様~」
「おお、クラウディア、よく来たな。さあ、こっちだ」
魔法魔術院では、所属する人間すべてに秘密保持契約が交わされており、本来の姿で出歩いていても外部に漏れることはなかった。そもそも、研究に命を懸けるような人間は他人の容姿には興味がないらしい。
そしてこの日、ブレイズにも会いたいと伝えていたのですぐに彼の研究室へと向かった。研究室に着くまでの間、セグリーヴ侯爵家でどんなことをして過ごしているかを話し、そこで読んだ本のことを質問したり祖父と孫の会話を楽しんだ。
「ジルベルトは良くしてくれているようだな」
「はい。皆様、とても優しくしてくれます。それに、いろんなことを教えてくれて、お父様やお母様には悪いと思うけど、もう少しお世話になろうかと思っています」
「そうか。それはベイリー達も悲しむな」
そう言いながらも楽しそうに笑っていた。カルロスにとってはジルベルトは自分の弟なのだから、弟の話も聞くことが出来て嬉しいのだろう。
扉をノックし研究室へ入ると部屋には他にも5名ほどの研究員の姿が見え、隣の部屋へ繋がる扉も3つほどあった。そしてブレイズが出迎えに出てきたのだが、クラウディアが来ることを伝えてあったので彼の服装も身だしなみも綺麗に整えられていた。とは言っても、作業着となる白衣を羽織っているので、服装に関してはそんなにわからない。
「こんにちは。いつもありがとうございます」
「ようこそ、私の研究室へ。クラウディア」
「クラウディアもゆっくり話がしたいだろう。ブレイズ、話が終わったら連れてきてくれるか?」
「わかりました。お任せください」
カルロスは自室へと戻り、ブレイズの研究室に残ったクラウディアは、早速聞きたい事を矢継ぎ早に質問し始めた。
「いやいや…ちょっと待って。落ち着いて。ゆっくりと1つ1つ解決していこうか」
「ごめんなさい。会ったら何を聞こうかずっと考えていたから…」
ブレイズは少し照れたような表情をしている少女がとても可愛らしく、自分も結婚していたらこんな子供がいてもおかしくないのになと考えた。ブレイズはクラウディアの親より年上なのだから、そう思うこともあるだろう。
「そうだ、クラウディア嬢。私の甥っ子なんだが、今、遊びに来ているんだよ、紹介しよう。コルビー?こっちに来てくれるか」
「何ですか?叔父さん」
隣の資料室から顔を出したのは15歳くらいの男の子で、短いライトブラウンの髪に濃い茶色の瞳が印象的な凛々しい印象の青年だった。彼は、クラウディアを見てまるで時が止まったかのように彼女から目が離せないでいた。
「コルビー?」
「あっ…はい」
小さな人形のような美少女に目を奪われ、思わず固まってしまったコルビーはブレイズの一言で我に返る。
「コルビー・グリーンです。ブレイズさんは僕の叔父さんで、ここへは魔道具製作に付いて教えて貰いに来ています」
「クラウディア・リュカ・クロスローズよ。私もブレイズ先生に魔道具の事を色々と教えて貰っているの。私達、仲間ね」
「コルビー、この間も話しただろう?とても優秀な少女の話。彼女の事だよ。カルロス様のお孫さんで、クロスローズ公爵令嬢だ」
コルビーの目がもう一度彼女を捉える。金の髪と瑠璃の瞳がとても美しい少女で、どう見ても10歳くらいにしか見えない少女なのに、ブレイズが褒めるほどの子なのか?と考える。
「コルビーはいつも来てるの?」
彼女に声をかけられ、現実に引き戻される。
「僕ですか?時々、教えて貰いに来ています。出身がフォルセなので、学園に通っている間はここに顔を出しやすいですから。将来は叔父の様に魔道具の研究をしたくて、今から勉強しています」
「フォルセって…ウィルバートのおじさまの所ね。でも魔道具の研究ならブレイズさんに教えて貰えば、素晴らしい研究者になれるよ」
「クラウディア嬢、ありがとうございます」
「クラウディアって呼んで。言葉使いも普通でいいよ。ブレイズさんに教えて貰う仲間でしょ?」
「……わかった。じゃあ、クラウディア、よろしく」
「コルビー、こちらこそ、よろしくね」
名前を呼んで、天使のような笑顔を向けてくる彼女を見て、鼓動が早くなるのがわかる。
―――こんな綺麗な子は初めて見た……。名前を呼ばれるなんて、心臓が持たないよ。
それから魔道具に付いての話に花が咲き、どんな魔道具を作りたいとか、新しいアイデアを話し合ったりしているうちにあっという間に時間が過ぎた。
「クラウディア、そろそろカルロス様が首を長くして待っている頃じゃないかな?部屋まで送るよ」
「はぁい。まだ話しがしたかったな」
「クラウディア、今度はいつ来るの?」
「決まってないの。なかなか出られなくて」
「わかった。じゃあまた今度。楽しみにしてる」
「うん」
クラウディアはコルビーに手を振り、研究室を後にした。その彼女が出て行って閉まった扉を見つめて思わずつぶやいた。
「クラウディアか…また会えるかな」
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