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第二章

22 ヴェリタ神

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「クラウディアが今回眠りについていたのは、闇の影響を受けたからだよ」


 翌日、改めてジルベルトがクラウディアの部屋を訪れ、詳細を語り始めた。
 ジルベルトはクラウディアが夢を覚えていないと話しているが、少し大人びて見えるクラウディアの姿を見て何かしら覚えている可能性は捨てきれないでいた。


「君のお父さん達も誰が仕掛けたことなのかはまだわかっていないようだ。今回、君がこの屋敷にいたのはその闇の力を浄化するためだ。今は完全に浄化されているから心配しなくてもいい」


 ジルベルトは正面からクラウディアの瞳を覗き込み、その瞳の色の観察を始めた。今から言う事の真偽を確かめるために。


「クラウディア。前にも聞いたが、眠っている間に何か…夢を見ていないか?」

「そのことですが、目覚めてから夢は見ているけれど、起きると朧げで思い出せないのです」

「…その中でも何か覚えていることはないのか?」

「……壊れた町?それに……剣?くらいしか……」


 クラウディアの返事から、あの光景は見ているのだと確信を得たが詳細はわからないままだった。
 このままだと結論が出ない。やはり兄達に相談した方がいいだろうと結論付けた。


 このジルベルト・フォン・セグリーヴは長兄にヴェリダ神を祀る総本山で猊下を任されているラフィニエールや魔法魔術院の長で魔術大臣のカルロスの弟で、ベイリーの叔父にあたる人物だ。
 三兄弟の中でも魔力の扱いに一番長けており、このエアストン国でその力を開花させ、今やセグリーヴ侯爵家当主としてこの国に根を下ろしていた。


 彼の光の魔力は浄化に特化しており、この屋敷にある浄化に使用する部屋は特別仕様で、その部屋でクラウディアは長い間眠っていたのだ。



  そしてその回復を終える日、クロスローズから転移陣を通り両親と兄達がセグリーヴ侯爵家へやってきた。
 約一年ぶりの再会にみんな喜び涙を流し喜んだ。数日はセグリーヴ侯爵家に滞在することになり久しぶりの家族の時間を過ごした。

 そしてそのまた次の日、今度は先触れもなくラフィニエールとカルロスがジルベルトを訪ねてきた。揃いも揃って二人とも眉間にしわを寄せたような渋い表情を浮かべている。
 そこに屋敷に滞在していたベイリーも呼ばれ、クラウディアが眠りについていたあの部屋で誰も来ないように家令に申しつけて扉を閉めた。 




「兄上達が先触れもなく訪れたということは、何かあった…と理解してもよろしいのですか?」

 ジルベルトが口元に笑みを浮かべて二人に向かって言葉を発したがその目は一切笑ってはいない。ただただ、冷たく光るだけだった。


「クラウディアのことで来たのだが、ジルベルト。お前は何かを見たのだろう?」


 ラフィニエールのその言葉に目を見張った。話さなければならないと思ってはいたが、まだ誰にも言っていない。それなのになぜ知っているのかと驚き、思わず表情に出てしまったようだ。


「叔父上。クラウディアの事とは一体……見たとは何のことですか?」


 ベイリーはようやく目覚めた自身の娘のことだと思うと冷静ではいられなかった。自分の知らないところで何が起きているのか、気がかりで叔父たちの顔を見つめた。


 そしてラフィニエールが話し始めるとほぼ同時に、その部屋の祭壇にある水晶のクラスターがまばゆい光を放ち始めた。


「こ……これは一体??」


 光が収まっていくと同時に、その光は緑色に輝く人物の形を取り始める。
 そしてその姿がハッキリわかる頃には、カルロス、ジルベルト、ベイリーの表情は信じられない光景を見ているという口を開けたまま目を大きく見開き、唖然としている。

 ただ、ラフィニエールだけが冷静にその状況を把握している様だった。



『ラフィニエール。すまないね』

「いえ…、主の命ですから、それに従うまでです」

「主……??」


 誰かがそう呟いたことで三人はようやく今の状況を理解できた。ラフィニエールはヴェリダ教の猊下だ。その彼が主と呼ぶ者はただ一人。ヴェリダ神のみだ。

 それに気が付いた三人はその場に跪き、頭を垂れた。


『よい。顔を上げよ。今回はお前たちに言っておきたいことがあってラフィニエールに頼んだのだ』

「言っておきたい事…ですか?」

『そうだ。クラウディアの見た夢についてだ』

「夢…?」

『あの子が眠っていた間に見ていた夢はこの先に起こる未来だ。このままだと、王国は衰退し滅亡の道を歩むだろう』

「王国の滅亡?」

『ジルベルトは見ているね』

「はい」

『私は人の世界に干渉することはできぬ身。これ以上は話すことはできぬが、彼女の大きすぎる力は疎まれる。今は封じておくのだ。そして自分の身を守れるだけの術を身に付けさせなさい。成長するまではその姿を隠すように』


 それだけを言い残し、ヴェリダ神は姿を消した…と言うより消えた。
 だが、確実にその場にいたことは間違いがなく、それぞれがこれからの事を不安に感じながら、するべきことを話始めた。



 その数日後、病気療養中のクロスローズの令嬢は、回復しているものの、病気の影響からか治療の影響なのかわからないが、魔力が減少し体も弱くなり他国で療養している。そんな噂が広がった。

 六大公爵家の噂というものは興味があるのか、あっという間に広がるもので、今回はクロスローズにとって都合がよかった。
 

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